身体が重い・・・。 どうしてこんなに身体が重いの・・・!? ゆっくりと目を開くと、レヴィアスの、不思議な眼差しがあった。 じっと、ベッドの上で横たわる彼女を見つめている。 既に白いシャツと黒いスラックスに身支度を整えている。 「気分は・・・?」 「良い訳がないわ…」 傷ついた小動物のように、アンジェリークはレヴィアスを見つめる。 純粋に輝く青緑の大きな瞳は潤み、無言で彼を責めた。 彼の心の中に、苦い思いが広がる。 そんな瞳で我を見るな!! 見つめられると…、我は・… 少女の甘やかな肢体に手を伸ばす。 すると彼女は身体を小刻みに震わせた。 こんなに傷をつけてしまったのか… すっとレヴィアスは彼女の身体から手を引っ込めた。 「----判った…。 もう二度と…、お前には触れない…」 深く重々しくレヴィアスは呟くと、そのまま彼は部屋から出て行ってしまう。 レヴィアスの精悍な背中を見送りながら、アンジェリークは胸の奥が切なく痛くなるのを感じる。 これでよかったのよアンジェ…。 これで… だけど・…。 どうしてこんなに涙が出るの…!? アンジェリークは、知らずに流れる涙を止めることが出来ない。 裸のままの身体を抱きしめる。 腕にも、胸にも、体中に、レヴィアスのものになった証が咲き乱れている。 こんなに切ないのはなぜ…? アンジェリークは肩を震わせながら、声を押し殺して泣いた---- --------------------------------------- 翌日から、レヴィアスはアンジェリークと顔を合わせなくなった。 朝は彼女よりも早く起き、夜は彼女よりも遅く帰ってくる。 まるで避けられているかのように、逢わなくなった。 しかも---- 今までなら彼女が作った食事をちゃんと食べてくれていたのに、今は全く食べてくれない。 だが、今まで以上に彼女への援助はしてくれている。 …逢いたい…。 逢いたいよ…、レヴィアス…。 あの不思議な瞳で見つめて欲しい。 深い微笑を私に欲しい…。 アンジェリークは、開けられることのないレヴィアスの寝室のドアを見つめる。 あなたのこと・…。 こんなに愛してたなんて、あえなくなって、初めて知った…。 あの夜のことは…、私の心に深く刻まれている…。 レヴィアス!! 抱いて欲しい!! またキスして欲しい…!!! お願い、お願い!!! その頃、レヴィアスも相当まいっていた。 自らしてしまったことをこれほど後悔したことはなかった・…。 あのアンジェリークの瞳…。 我は一生かかっても忘れることは出来ぬだろう・… レヴィアスは、総裁室の椅子の上で、苦しげに瞳を閉じる。 初めてま見た時から、身体の奥底から欲情が沸き起こった。 あれほど欲情したことは、今までになかった・…。 初めて見たのは、アンジェリークが高校に入学した頃だ。 父であるコレットと我のビルの1階のカフェで待ち合わせをしていた…。 それから、彼女のことを色々調べ上げた…。 父親のことも…。 引き取ってからは…、我に少しずつなれさせようと思った・…。 だが・…。 出来なかった。 あの美しい肢体を抱いてしまった今となっては…!! 誰も欲しくはない…!!! アンジェリーク以外は!!!!! 思い切り拳を握り締めると、彼は深く唇を噛み締めていた。 ---------------------------------------------- その夜、アンジェリークは、意を決してレヴィアスの部屋のドアの目で、彼を待ち伏せをしていた。 あなたに逢いたい…。 逢って、ちゃんと自分の気持ちを伝えたい・…。 あなたにもう一度抱かれたい・…。 乱暴でもいいから、何でもいいから、あなたに・… 膝を抱えて座り込み待っていると、足音が聞こえ、アンジェリークは慌てて立ち上がる。 レヴィアス・…!!! そのまま廊下の先を見つめると、確かに彼が歩いてきた。 だが。 アンジェリークの姿を認めた瞬間、レヴィアスの表情は厳しく鋭いものになった。 「…何の真似だ…。アンジェリーク・…」 低くとがめるような声は彼女の心を突き刺すが、それで山手はと思い、アンジェリークは勇気をかき集める。 「あなたに…、逢いたかったの…!!!」 そのままレヴィアスのひろい胸に飛び込み、彼女はそこに顔を埋めた。 「…あなたに・…、レヴィアス、あなたを愛してるって…、やっと気がついたの…!」 泣きながら言う彼女の身体を、レヴィアスは抱きしめようと一瞬した。 だが---- 彼の心の中でどす黒い感情が交差する。 「----何だ…、あの坊ちゃんが手に入らないから、我に戻ったか!? そうだな…、おまえは"我に傷物にされた"からな・…。 全く計算高いな・・・」 「…!!!!」 アンジェリークは途端に彼から身体を離し、潤んだ瞳で見つめる。 「そう…、レヴィアスがそういう気持ちだったら…、もう私、ここにいられない…。酷い…。 愛してたのに…! もう、ここから出て行くから!!!!」 行って、彼女はそのまま彼をすり抜け走り去る。 レヴィアスははっとする。 アンジェがそんな女じゃないことは…、我が一番わかっていたはずなのに…。 我はなんてことを!!! 「待て!!! アンジェ!!!!」 彼はそのまま全速力でアンジェリークを追いかける。 「アンジェ!!」 「いやっ!!!」 彼は手を伸ばし、そのまま少女を捕らえると、その腕の中に強引に閉じ込める。 「やめて!」 「だめだ! おまえはずっと我の下にいるのだ!」 「私なんか…、いないほうが良いでしょう!!!」 彼女は身体を捩り、彼から逃れようとした瞬間---- 「・・・!!!!」 深く厚い唇が彼女の唇に降りてきた。 それはとても情熱的で、だが奪うようなものではなく与えるものだった。 こんなキスは初めて・…。 お互いに舌を絡ませあい、深い口付けをした後、レヴィアスはゆっくりと唇を離した。 「すまなかった・…」 「レヴィアス…、して? 私のことどう扱ってもいいから…、抱いて欲しい・…」 アンジェリークの純粋な気持ちが彼の心に降りてくる。 レヴィアスははじめて、自分に素直になれるような気がした。 「アンジェ…」 彼女の顔を持ち上げじっと見つめる。 「愛してる・…。 お前以外にもう欲しくないから…」 「レヴィアス…」 彼は彼女をもう一度深く抱きしめると、sのまま抱き上げ、自分の部屋に連れてゆく。 「ずっと離さないから…」 「うん…」 二人はようやく、互いの愛の深さを知る。 不器用な青年は、ようやく純粋な少女の手によって、素直になることが出来たのだ。 |