Highheel Shoes

1


 アリオスとの久しぶりのデートだからと、アンジェリークは張り切って、買ったばかりのハイヒールを履いた。
 足下を見ると、どこか大人な感じがしてとても嬉しい。
 やはり11も年の離れた恋人と釣り合う為に早く大人になりたい-----
 アンジェリークはそんな想いを込めて、少し高めのヒールを選ぶ。

 アリオス…。
 気づいてくれるかしら?

 アンジェリークは初夏にぴったりな白のワンピースを着て、何度も何度もチェックをしてから、デートに向かう。
 電車に乗っている間も、ずっと足元を見ては幸せな気分になっていた。
 約束の場所に着いたのは、約束の時間の5分前。
 いい感じだ。
 アンジェリークは、少し頬を紅潮させ、まわりをきょろきょろ見つめながら、アリオスの姿を探す。
「おい」
「アリオス!!」
 現れた恋人は、やはり素敵だった。
 逢うのは2週間ぶりだが、逢うたびに恋人は素敵になっている。
「今日はどこに行きてえんだ?」
「水族館! イルカの赤ちゃんが公開されているんだって!」
「しょうがねえな。アルカディア水族館か?」
「うん!!」
 アンジェリークはアリオスの頼りになる腕に自分の細い腕を絡めて、スキップするように歩いていく。
 恋人は苦笑していたが、まんざらでもない様子だった。
 アリオスの車が停めてある駐車場に向かってゆっくりと歩き出す。
 恋人との久しぶりのデータに、アンジェリークの心は春よりも華やかな気分になっていた。

「うわ〜!! やっぱりイルカの赤ちゃん可愛い〜」
 アンジェリークは、イルカのい巨大水槽の前で、何度も大きな嬌声を上げる。
 本当にイルカを嬉しそうに恋人が見ているものだから、アリオスはほんの少し妬けてしまう。
「気にいらねえな?」
「え!?」
 不意に背後から抱きしめられて、アンジェリークは嬉しい驚きに包まれる。
 煙草と香水エタニティの香り。
 それがどれほどアンジェリークの心をくすぐるか、彼はきっと知らないだろう。
 そんなことを思いながら、アンジェリークはアリオスの温もりに包まれていた。
「俺以外のもんにそんな熱い目を向けるなよ」
「アリオス…」
 真っ赤になりながら、アンジェリークは僅かに俯く。
「…みんな、見てるよ?」
「いいんだ」
 アリオスとアンジェリークを誰もが羨望の眼差しで見ていく。
 それが少しくすぐったい。
「…いるか、可愛いね…」
「おまえの方がずっと可愛い」
「もう…」
 アンジェリークは、結局のところアリオスの手をぎゅっと握りしめて、しばらくは甘い時間を楽しんでいた。

 お目当ての水族館の後は、夕食前のウィンドショッピングを楽しむ。
 最初はぬいぐるみなどを見て騒いでいたアンジェリークが、徐々に元気を無くしていく。
「どうした?」
「…足が痛いの…、アリオス」
 泣きそうな声で言うと、アリオスは不機嫌そうに目を細めた。
「背伸びをして、こんな高いヒールを履くからだぜ?」
「ぶ〜」
 アンジェリークは口を尖らせると、愛らしく拗ねる。
 自分で蒔いた種だとはいえ、アリオスに子供に見られるのが嫌でしょうがない。
「…だって、アリオスに…、おとなっくぽく見て貰いたかったんだもん…」
「アンジェ…」
 アリオスはフッと甘い微笑みを浮かべると、アンジェリークの髪をくしゃりと撫でる。
「-----心配するな。おまえはそのままでもいい女だよ」
「…アリオス」
 さりげなく言ってくれた恋人の一言が嬉しくて、アンジェリークの機嫌は一気に直ってしまう。
 現金と言えば、全く現金なのだが。
「そろそろレストランの予約時間だな? 行こうぜ?」
「うん!!」
 少し痛む足を引きづるようにして、アンジェリークはアリオスに捕まってレストランに向かった------

 いつものようにアリオスが選んだレストランの味は最高だったし、充実した時間も過ごすことが出来た。
 だが-------
 待っていたのは、ハイヒールによって怒った強烈な痛みであった。
「いた〜い!!!」
 大きなマメが足に出来てしまい、それがつぶれてしまった。
「アリオス〜」
 痛みのあまり半べそをかいているアンジェリークに、アリオスはしょうがないとばかりに溜息を吐く。
「しょうがねえな」
「きゃあっ!!」
 そんなことが起こるとは思わなかった。
 アリオスの肩にいきなり担がれて、運ばれる。
 しかもここは不夜城の街。
 10時になっても、まだまだ人通りが多い場所である。
「アリオス〜、恥ずかし〜」
「おまえが、そんなヒールを履いているから、こんなことになるんだ」
「だって…」
 自業自得なのは判ってはいるが、だが、この格好はあまりにも恥ずかしすぎる。
 アンジェリークは、人々の視線があまりにも恥ずかしくて、アリオスの肩に顔を隠してしまった。
 だが恋人は、全くそんなことは関係ないとばかりに、平然と歩いている。
 そんな堂々としたところも、やはりアリオスらしい。
 視線を気にしながら、ようやっとの事で、車に辿り着き、助手席に乗せられる。
「そんな足では帰れねえだろ? 俺が看病してやる」
「あ…」
 いきなり足を手でなぞられて、アンジェリークはぞくりとした。
「明日も休みだろ? たっぷりと看病してやるぜ? 家には電話をしておいてやる」
 看病------
 それが何なのか、判らないアンジェリークではない。
 息を浅くしながら、躰が甘く震えるのを感じる。
 アリオスは、アンジェリークの答えなど判っているとばかりに、返事を菊間もなく、自宅のマンションに向かって車を走らせるのであった------

TO BE CONTINUED…
コメント

GWに東京に行ったときのネタです(笑)
次回で完結します〜。
アリオスさんの看病がどんなものなのか?
それはご想像通りだと思います〜。




top next