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「肩凝ったな」 花の乙女17歳でありながら、アンジェリークは辛そうに溜め息を吐く。 「手芸クラブの宿命だものね〜」 レイチェルに言われて、アンジェリークは諦めにも似た表情で頷いた。 「大好きな手芸だけれど、細かい作業が多くて困ったものだわ・・・。かと言ってもクイックマッサージは高いしね〜」 「だったら接骨医院に行ったらどうなの?」 「接骨医院?」 「形成外科よ。肩凝りとかも直してくれるわよ。そのほうが保険効くから安いし」 アンジェリークは頷きながら、記憶の中にとどめる。 「うん、近所に新しい医院が出来たから、そこに行ってみる」 「そうだよ〜、楽になるよ〜」 この肩凝りが治れば、今のアンジェリークにはこれ以上嬉しいことはない。 だが、まさか病院通いが運命の出会いを生むとは、アンジェリークは知らなかった。 家に戻って着替えた後、いそいそと形成外科に向かう。 これで宿敵肩凝りが治れば、儲けものだ。 まだ真新しい病院に着くと少し緊張する。 「こんにちは」 中に入ると、やはり形成外科だけあり、怪我をしている子供が多かった。 受付に保険証を出しに行くと、男だか女だか判らない妖艶な雰囲気の者が出てきた。 「初めてですか?」 「はい」 「だったらここに症状などを書いてね」 書類を出されて、アンジェリークは一生懸命書き入れる。 症状は肩凝りだけなのでそれだけを書き入れる。 「肩凝り・・・ね。躰じたいに歪みがあるかもしれないね。特に首から骨盤。後で先生の診察があるから待ってて」 「はい」 声から男性看護士だと判断しているが、やはり妖艶な雰囲気にアンジェリークはたじろいだ。 「うちの先生は凄く素敵だからね、楽しみにね」 意味深な微笑みを浮かべられて、アンジェリークは見つめることしか出来なかった。 雑誌などを読みながら時間を潰すものの、何だか妙に落ち着かない。 病院というせいもあるかもしれないが、先程の看護士の言葉も妙に気になって仕方がなかった。 「次、アンジェリーク・コレットさん」 「はい」 アンジェリークがいそいそと診察室に入っていくと、そこにいたのは銀髪で長身の青年だった。 「担当医のアリオスだ。アンジェリーク・コレットさん、肩凝りか。この年で」 低い声もッとても好ましいが、大きなお世話で一言多い。 「手芸をしているので」 「そうか」 じっと不思議でクールな瞳に見つめられて、アンジェリークはドキドキした。 「骨盤から全体的に歪みがあるからひどい肩凝りになるんだ」 いきなり肩をぎゅっと掴まれて、アンジェリークはびくりと飛び上がる。 「きゃっ!」 「これだったら、こってるうちにはいらねえぜ?」 「もっと弱くしてください〜」 アンジェリークが可愛らしい声を上げるものだから、アリオスはくつくつと笑った。 「今日は、俺がスペシャル指圧をしてやる。これから毎日来いよ。揉みほぐしてやるから」 「はい」 「じゃあ、ここに腰をかけてくれ」 前かがみになる専用の椅子に腰をかけて、アンジェリークの指圧準備が整う。 「少しずつ力を加えていくから、痛かったら言ってくれ」 「はい」 前にある掴まるバーを握って、アンジェリークは準備を整える。 ゆっくりと優しくツボを親指で押されて、何だか夢見ごこちになってくる。 「これぐらいは?」 「凄く気持ち良いです」 アリオスの指が少しずつ力を加えているのに、よだれが出るほど気持ちが良かった。。 「肩凝りの原因は?」 「手芸部で、いつも細かいものを作っています・・・、あっ!」 また、ツボを押されてアンジェリークは何とも言えない甘い声を上げる。 本当にアリオスの指はマジックで、アンジェリークは余りにもの心地好さに、何度も溜め息を吐く。 出来ることなら、このまま終わって欲しくなかった。 「今日はここまでだ。最後にストレッチだ」 「はい・・・」 名残惜しそうに溜め息を吐くと、ゆっくりと躰を起こされる。 脇の下の部分に腕をしっかりとさしいれられ、腕を上げ下げされる。 「きゃあっ!」 何てことのないストレッチのはずなのに、アンジェリークは甘い声を上げて妙に緊張した。 「ストレッチで上半身を動かすっていうのもいいもんだぜ。肩凝りが緩和される」 「そうなんですか・・・」 アンジェリークは真っ赤になりながら、アリオスに頷き、言われた通りにしようと思う。 最後は肩と背中を叩いておしまいだ。 「はい、今日はこれまで。また、明日な?」 「はい、有り難うございました」 アンジェリークは深々と礼をすると、とても気持ち良い気分で待合室に向かう。 中を歩いているような、ふわふわとした幸福感感に包まれていた。 すぐに名前を呼ばれて精算だ。 「はい、コレットさん。今日は初診療を頂きますので1000円ね。今度からは、500円でいいから」 「安いですね〜!」 実のところ、もう少しかかると思っといたので、これにはラッキーだと思った。 「まあ保健きくからね。またおいで」 「はい。有り難うございました」 アンジェリークはしっかりと会釈をした後、医院から出る。 すごい、魔法みたい・・・。 こんなに肩凝りが楽になるなんて、凄いわ。 アンジェリークは楽にしてくれたアリオスを思い浮かべるだけで、真っ赤になる。 素敵過ぎて溜まらないと思う。 魔法の指先を持ったアリオス先生・・・。 また、マッサージして欲しい・・・。 頬を赤く赤らめながら、アンジェリークは明日のマッサージに夢を馳せていた。 放課後になるのが待ちどおしくて、ホームルームが終わるなり、すぐに学校を飛び出す。 早く帰っても、医院が開くのはまだ先で正直仕方がないのだが、学校でだらだらと過ごすよりはいいと思う。 家に帰ると、それなりにストレッチをしたあと、シャワーを浴びて失礼のないように支度をした。 やっぱりアリオス先生に失礼のないようにしなくっちゃね。 おしゃれもしなくっちゃ。 可愛く思われたいから…。 身支度を念入りにした後、診療時間が始まるより少し早く出かけ、待合室で待つことにする。 すでに多くの患者が待っており、アンジェリークはサマーカーディガンが編みながら待つことにした。 待合室を見回すと、黄金に染まった親指を立てている像がある。 ”指圧の心、乳、もとい父心”とかかれている。 まあ、指圧に親指は基本だわ。 あの綾指アリオス先生のかしら? そんなことを考えていると、順番がやってきて名前を呼ばれて診察室に入った。 「こんにちは、アリオス先生!」 「ああ。こんにちは。今日は軽いマッサージだ」 「はい」 昨日と同じマッサージ椅子に案内され、アンジェリークはそこに腰掛ける。 「今日はマッサージだけだが、もし良かったら、今度無料で躰の歪みを矯正してやるぜ?」 「ホントですか! 凄い嬉しいです」 アンジェリークは飛び上がりたいくらい喜んだ。 「土曜日の午後からどうだ? うちは休診だから、ゆっくりやってやるぜ」 「有り難うございます先生!」 アンジェリークは涙を潤ませて、じっとアリオスを見ている。それが子犬のようで愛らしい。 「じゃあ、マッサージ始めるぜ」 「はい」 まさか、これにアリオスの邪な考えがあるとは、純粋なアンジェリークには判らなかった------ |
コメント アリオスさんに指圧されたい〜。 エロ整体師の話は次回に続く |