「今日からこちらでお世話になります、アンジェリークと申します! 宜しくお願いします!」 ニコリと満面の笑みを浮かべて、アンジェリークは、背を向けている主人に精一杯挨拶をする。 今日から、初めて働くことになるアンジェリークは、期待に胸を一杯に膨らませていた。 街でも、名門アルヴィース家で勤めることができるのは、とても名誉なことだと言われ、彼女も少し誇らしい。 折角、メイドのプロフェッショナルを育てる学校を出たのだ。 幸先の良さに、彼女は神に感謝すらする。 今日は、メイド頭と一緒に、主人に挨拶にやってきたのだ。 「----ああ、おまえがアンジェリークか」 甘さの含んだ幾分か低い声が聴こえたかと思うと、主人はゆっくりと振り返り、その姿にアンジェリークは、暫し、心を奪われる。 髪は宝石のような見事な"銀"で、黄金と翡翠が濡れて輝く不思議な瞳は、アンジェリークの心を掴んで離さない。 纏っている軍服も良く似合っていて、アンジェリークは彼に魂ごと揺さぶられている気分だった。 「俺の名はアリオス。この家の主だ」 彼はどこか笑みを浮かべて、アンジェリークをその眼差しで捉える。 途端に彼女は真っ赤になってしまい、アリオスはその可愛らしさに笑った。 「ふ、不束者ですが、宜しくお願いします!!」 アンジェリークは真っ赤になりながら、一生懸命挨拶をする。 それがまた彼には好ましかった。 「おまえは有能だと聞いた。今日から俺付きだ。メイド長、その手はずを頼む」 完結に命令をすると、アリオスはさっさと出仕に出て行ってしまう。 「はい、畏まりました」 こちらもベテランのメイド、さっと答えを出すと、直ぐにアンジェリークを引っ張っていく。 「ご主人様がお仕事にいかれます。あなたもご挨拶に参りますよ」 「はいっ!」 アンジェリークは、若く素敵な当主付きになった喜びもそこそこに、慌てて、玄関へと先回りをする。 息を早くつきながら、階段を駆け下り、何とか先回りをして玄関に付いた。 「いいですか、あなたが”いってらっしゃいませ”といったら、全員が後に続いて言いますから、その後に礼を。先言後礼です」 「はい」 小さな声でアンジェリークは返事をした後、彼女は背筋を正す。 アリオスが見えてきたので、彼女はタイミングよく大きな声を出す。 「いってらっしゃいませ!」 「いってらっしゃいませ!!」 朝から使用人たちが揃い、当主であるアリオスを送り出した。 その瞬間、朝の緊張感が緩むのが、アンジェリークには判った。 「この時間から、私たちは戦争です!」 「はいっ!! メイド頭に言われて、アンジェリークはしっかりと頷いた。 ------------------------------- 夕方まで、アンジェリークは、みっちりと、メイド頭から教育を受けた。 だが、彼女もメイドとしての専門知識を持っているので、難無く言われたことをこなすことが出来た。 「車が入って着ましたわ。玄関へ」 「はい」 彼女は再びばたばたと玄関に向い、他の使用人と動揺、アリオスを迎える。 「お帰りなさいませ!」 今度も朝同様アンジェリークが挨拶をした後に全員が挨拶をする。 アリオスが横に通ったとき、彼女に極自然と鞄を差し出したので、アンジェリークはそれを持って、彼と一緒に部屋へと上がっていった。 「手紙とか来ていたか?」 「はいすべて机の上においています」 「サンキュ」 アンジェリークは鞄を片手に、アリオスの部屋の鍵を開いて、彼を中に入れた。 「どうぞ、ご主人様」 「ああ」 部屋に入りドアを締め、アンジェリークは無駄なく彼の鞄を、教えられた位置に置いた。 「ご苦労だった」 「いえ・・・」 少し緊張気味に挨拶をする彼女に、アリオスは笑みが漏れる。 「おい、俺はそんな大層なヤツじゃないぜ? 緊張するな? それに仕事はおまえが出来る範囲でいいんだからな? 完璧じゃなくてもかまわねえよ」 フッと笑いかけて緊張を方してくれるアリオスに、アンジェリークも釣られて太陽のような微笑を浮かべる。 「有難うございます!! 嬉しいです!! なんだかもっと頑張ろうって気になってきました!」 アリオスも、また、彼女の愛らしい笑顔を見るのがとても嬉しい。 彼は、彼女の方をぽんと叩いて、その眼差しを覗き込む。 「よろしく頼むな? アンジェリーク」 「はい! ご主人様!」 アンジェリークは明るく応え、心からアリオスに仕えていく決心が湧き上がる。 ご主人様はこんなに素敵な方なんだ・・・。 これから一生懸命、心を込めて仕えていこう・・・ 可愛いやつだな・・・、予想通り・・・。 離したくなくなったな・・・、もう・・・ 恋が芽生えていた---- ------------------------------- アンジェリークは、こんなに楽しく仕事をしていいのかと思うほど、充実した日々を送っていた。 仕事自体はかなり厳しいのだが、アリオスの着替えを手伝いながら、話を出来るひとときがうれしくて、彼女は苦にはならなかった。 休みの日もその時間だけは帰ってきて、彼の手伝いをしていた。 こんな一生懸命な彼女を、よく思わないものなどいなくて、使用人の中でも人気者になってゆき、特に男性の使用人は、彼女に恋をするものも少なくはなくなってきている。 当然、アリオスもこのことには気が付いていた。 どうにかしなきゃなんねえな・・・ その夜、アリオスはアンジェリークを部屋にこっそりと呼び出した。 「ご主人様、アンジェリークです」 「はいれ」 「失礼します」 彼女が部屋に入った瞬間、アリオスはアンジェリークをきつく抱きしめた。 「あっ、ご主人様・・・」 「・・・アンジェ黙ってろ・・・」 「あっ・・・」 彼女が甘く喘ぐ暇もなく、アリオスはアンジェリークの唇を貪るように奪っていた----- |