Dreaming Young Wife

後編


 アリオスのお嫁さんになって半年。
 まだまだ子供も作らずに、新婚気分も満喫〜!のハズなんだけど・・・。
 アリオスをひとりで独占したくて堪らない、わがままな自分がいる・・・。

 今日もアンジェリークはアリオスのためだけに食事を一生懸命作る。

 アリオス、”美味しい”って言ってくれるかな?

  毎日それが楽しみで、アンジェリークは料理に励んでいた。
 電話が鳴り、白いレースのエプロンを揺らしながら、アンジェリークは電話に出る。
「はい!」
「俺だアンジェ」
 深く愛してたまらないアリオスの声に、アンジェリークは飛び上がるほど嬉しくなる。
「アリオス!!!」
「ちょっと急に仕事が入っちまって、今夜遅くなるからな」
 事実を聞かされた瞬間、アンジェリークはしゅんとなった。
「・・・そうなんだ・・・。アリオス、お仕事頑張ってね?」
「なるべく早く帰るからな」
「うん・・・」
 アンジェリークは力なく受話器を置いた後、急に泣き出したくなる。
 わがままなのは判っている。
 アリオスを求める心が大きすぎて、アンジェリークは肩を震わせて泣いてしまう。
 クローゼットからアリオスの香りがする革のブルゾンを取ってくると、アンジェリークはそれにくるまって、目を閉じた。
 そうすると、眠気がゆっくりとアンジェリークを包み込んでくれる。
 後は安心して眠ればいい------

 深夜の帰宅となり、アリオスはいつものようにインターフォンを押す。
 どんなに遅くても、今までならちゃんと出てくれた幼妻が、今日に限って出てくれない。
 アリオスは、何かあったのではないか思い、慌てて自分でロックを解除すると、部屋の中に入る。
「アンジェ・・・」
 LDKに入るなり、アリオスはほっと胸を撫で下ろした。
「ったく・・・」
 彼のブルゾンを着て丸くなっているアンジェリークに、アリオスは苦笑すると、抱き上げてベッドに運ぶ。
 涙の痕がいっぱいついた目の周りに、そっとキスをしてやる。
「んんっ・・・」
 僅かに瞼が動き、アンジェリークはゆっくりと目を開ける。
「おかえりなさい、アリオス」
「アンジェ、どうして泣いていたんだ!?」
「・・・アリオスがいなくて寂しくて堪らなかったもん・・・」
 いつもにも増して甘えてくるアンジェリークを、アリオスはぎゅっと抱き締めた。
「ごはんは?」
「仕事中に出前を取った」
「アンジェがアリオスのために作ったのに?」
 いつものアンジェリークと違って、今日は妙に甘えてわがままになっている。
「明日、食うから」
「・・・だって、一生懸命作ったのよ」
 口を尖らせて、アンジェリークは拗ねて、アリオスに頬を膨らませた。
「ほら、風呂入って来い。埋め合わせするからな?」
 アリオスの艶やかな微笑みには適わない。
 アンジェリークはこくりと頷いて、ゆったりとお風呂に入った。

 アリオス・・・。
 私以外の家族が増えても、ちゃんといっぱい愛してくれる?


 丁寧にお風呂に入った後、アンジェリークはアリオスを呼びに行く。
「アリオス、アリオス?」
 アンジェリークが何度名前を呼んでも、アリオスは返事をしなかった。
「アリたん〜!」
 アンジェリークは何度も名前を呼ぶが、アリオスは一向に目を覚ます気配を見せない。
「アリオス・・・」
 疲れるまで働いてくれているのが判るが、ちょっと侘しい。
 じっとアリオスの寝顔を見つめる。

 やっぱり、かっこいいな・・・。
 本当に私の旦那様なのかな・・・って思ってしまう・・・。

 急に何かがこみ上げてくる。
「もう、アリオスのばかはが! どうして、私ばっかり好きなのよ〜!!!」
 衝動的に、アンジェリークはアリオスの背中をぽかぽかと叩いた。「
・・・おい、アンジェっ!!!」
 あまりにぽかぽかと彼女が叩くものだから、アリオスは飛び起きる。
「どうしたんだよ!?」
「だって、だって、アリオスがアンジェの相手をしてくれないから〜!!!」
 堰を切ったようにアンジェリークは泣き出す。
「アンジェ!?」
 子供のように泣くアンジェリークをアリオスはぎゅっと抱き締めた。
「うえ〜んっ!」
 まるで幼子にするように、アリオスはそっと背中を撫でてやる。
「アンジェ・・・」
 しばらくアンジェリークは泣いた後、アリオスの胸に顔を埋めて、安心したように眠ってしまった。
「ったく…」
 アリオスはアンジェリークの栗色の髪を優しく撫でながら、ひとまずは一緒に眠ることにする。

 アンジェ、俺には言えないことなのか・・・?


 翌日、アンジェリークは、キッチンがことこととする音で目が覚めた。
 横にはアリオスは既にいない。
「アリオス・・・?」
 キッチンからはとても良い匂いがして、それに誘われるように入っていく。
「座れよ、メシ出来たぜ」
「うん・・・」
 付き合っていた頃は、よくアリオスがごはんを作ってくれたものだ。
「食ったら出かけるから」
「お仕事じゃないの?」
「今日はもともと休みを取ってたから」

 昨日のこと、怒ってるの?

 アンジェリークはしょんぼりとしながら、席に着いた。
「ほら、食えよ。食い終わったら海に行こうぜ」
「海に!!」
 とたんにアンジェリークは明るくなり、ようやく笑顔を見せる。
「現金だな。ほら、いっぱいくっちまえ」
「うん!」
 アリオスの心遣いと、海のことを考えれば元気になれるような気がした。
「いただきま〜す!」
 アリオスが焼いてくれたチーズオムレツを食べながら、焼きたてのトーストを味わう。
 いつもと逆のパターンも悪くなかった。
「いつも頑張って貰ってるからな。あまあまデーだ」
「アリオス・・・」
 たまに甘やかされるのも悪くない。昨日の混乱とは違って、アンジェリークは幸せな気分になっていた。


 車で海に出る。
 海までのドライブの間、窓の外の景色を見つめながらきゃっきゃっとアンジェリークは大騒ぎしていた。
「アリオス〜! すごく綺麗ね〜!!」
「そうだな」
 アンジェリークの表情が明るくなっているので、アリオスは正直ほっとする。
 しばらくドライブを楽しんだ後、車を海に近い駐車場に止めて、早速浜辺に向かった。
「アリオス〜! 気持ち良い〜!!」
 初夏の海岸を、アンジェリークはぱたぱたと走る。
 その後を、アリオスは甘く微笑みながらゆっくりと歩いていく。
「アンジェ」
「なあに?」
 名前を呼ばれて、アンジェリークはふわりと振り返った。
「------おまえ、妊娠してるだろ」
 その瞬間、アンジェリークの表情が変わり、アリオスは眉を潜める。
 ただ真摯にアンジェリークを見つめている。
「どうして・・・」
「おまえをほぼ毎日抱いてたら判る。腹部も丸みを帯びて、胸も大きくなってる。
 ・・・どうして言わなかった!? こんな大事なこと!  最初の何年かは子作りしない約束だったからか?」
 彼があまりにも厳しく起こったものだから、アンジェリークは泣き出しながら、アリオスに抱き付いた。
「だって…! だって…。最初は凄く嬉しかった…。
 けれど、色々思うと、怖くなったんだもン!!!」
「何を」
 アリオスは大人らしくアンジェリークを抱きしめながら、宥めるように背中を叩く。
「ママになる覚悟とか…!! アリオスを赤ちゃんに取られたくないこととか!!!」
「アンジェ…」
 アンジェリークのあまりにもらしすぎる告白と、その可愛い理由に、アリオスは更に抱きしめる。
「バカ!! んなことはねえよ!
 俺はガキが出来ようがどうしようが、おまえが一番大事に違いねえ!
 いいか。ガキはたしかに可愛い! だが、おまえとの子供だから可愛いんだ」
「うん…」
 アンジェリークは子供のように胸をひきつらせながら、何度も頷いた。
「もっと早く、俺に相談しろ」
「うん、これから悩んだらすぐにアリオスに相談するね?」
「ああ」
 ふたりはしっかりと抱き合って甘くキスをしあう。
「ちゃんと病院に行ったか・」
「…まだ…」
「だったら、ふたりで行こう」
「うん…」
 手を取り合って、ふたりは車に向かって歩き出した。

 病院に行き、アンジェリークは妊娠3ヶ月と診断され、この一連のいらだちも、よくある『マタニティブルー』だということも判明した。
「これから俺がちゃんと協力してやるから」
「うんvvvv 御願いね、パパ」
 パパには新たに、当分はセックス禁止令が出てしまい、我慢の日々が続くが、それも愛しい妻と子供のためだ。何とか我慢できるというものである。
「ふたりで頑張っていこう」
「うん…!!!」
 今回の子供騒動は、新婚夫婦には、新たな絆を生むのに役立ったようだ。

 ずっと…。ずっと…。
 私の中ではアリオスが一番よ。
 ふたりで良いパパとママになろうね!

コメント

新婚夫婦の甘い悩みのお話です。
悩みは妊娠でした。
今回はエロシーンなし(笑)
可愛い新婚話を、また書きいな〜。



マエ モドル