「アンジェ、疲れるだろうから、今日から事務所のバイトはかまわねえからな」 「はい」 朝食を終え、アンジェリークとアリオスはマンションの一室を出た。 マンションの玄関先まで、二人は仲良く手を繋いで歩く。その姿は微笑ましい新婚のようだ。 「食事代やその他雑費用に財布は渡しておくから、頼むな?」 アリオスが可愛いピンクの財布を託してくれるのが、アンジェリークには嬉しかった。 「はい。今夜も頑張ってお料理します」 「頼んだぜ?」 信頼を表すかのように、アリオスは更に小さな手をぎゅっと握り締めた。 「疲れてねえか?」 「うん大丈夫」
朝からだものね・・・。
言葉の理由を考えるだけで、アンジェリークは真っ赤になる。 その初々しさがアリオスには可愛かった。 「今日は撮影の準備とかがあるが、なるべく早く帰る」 「撮影?」 「エルンストとレイチェルの”サイエンス・コンビ”の最新作だ」 とにかく”エンペラー”が自分以外の女性としないだけで、アンジェリークはほっと安堵する。 「安心しろ。俺はおまえ以外とやらねえぜ」 「・・・うん」 心を見透かれたような微笑みを浮かべられて、彼女は益々真っ赤になってしまう。 「目の前にこんなに良い女がいるのに、他の女とやりたいと思わねえよ」 耳元で甘い声で囁かれて、アンジェリークはアリオスの背中に隠れた。 「もう・・・」 二人は駐車場の前で立ち止まって挨拶を交わす。 「じゃあいってくるぜ?」 「いってらっしゃい」 まるで新婚家庭のように、ふたりはキスをし合った後、それぞれの学校と職場に向かう。 甘い爽やかな朝だった。
学校でもアンジェリークは頬が緩んでいた。 この甘い時間がいつまでも続くようにと願わずにはいられない。
アリオスとずっとこう出来ればいいのに・・・。 今の私の夢は、アリオスのそばにいること・・・。
どんな夢よりも叶いそうで叶わない。 そんな夢のような気がアンジェリークにはしていた。
学校がはねると、彼女はいそいそとマンションに戻った。 すぐに服に着替えて近くのスーパーに向かう。 それだけなのにとても幸せを感じてしまう。
何が好きかな?
昨日は美味しいって食べてくれた・・・。 あの顔が見られたらまた頑張りたいな・・・。
色々な食材を見ながら、ただアリオスの喜ぶ顔だけが見たくて、彼女は色々と考えを巡らせる。
アリオスは、”精力”がつくものって言ってたけど・・・。
真っ赤になりながらアンジェリークは今日の食事に、ムニエルとスープ、サラダをチョイスした。 しかし「精力がつくように」と、スープの隠し味に「すっぽんえきす」を買うのもアンジェリークらしい。 やっぱり「喜ばせて欲しい」彼女であった。
マンションに帰り、彼女は一生懸命夕食を作る。
このキッチンで作るのは凄くいいな・・・。 ”美味しい”彼にただそう言ってもらいたくて、アンジェリークはそのためだけに愛を込めて食事を作った。 食事の下拵えが済んだ後は、学生の領分らしく、宿題と予習をする。
早く帰ってきて欲しいな・・・。
勉強をしながら、彼女はひたすらアリオスを待つ。 インターホンが鳴ったのは8時30分を回ったあたりだった。 アンジェリークはすぐにロックを解除して、アリオスを出迎える。 「おかえりなさい!」 「ただいま!」 笑顔で答えれば、優しい微笑みと甘いキスが返ってきた。 「遅くなってすまなかったな?
今日は”アルカディア満腹新聞”の取材があってな」 「そんな新聞あるの?」 「ああ。業界紙だぜ? 繁華街の大きな駅の改札横の売店だと売ってる」 なるほど自分は知らないはずだと、アンジェリークは恥かしそうになりながらも、なるほどと思いながら頷いた。 「ごはんできてるわ」 「サンキュ、腹減ってるしな…」 そこでアリオスは言葉を切りアンジェリークを軽く腕の中に引き寄せた。 「あっちもな…?」 低い声で言われて、アンジェリークはアリオスに上目遣いで見つめる。 恥かしそうに潤ませる彼女の眼差しが、アリオスには堪らなく魅力的に映った。 「そんな顔で見られたら、俺が堪らなくなるだろ?」 魅力的に笑うと、アリオスは唇を重ねてきた。 しっとりと深い唇。 アリオスの首に手を回して、アンジェリークはその熱いキスに溺れた。 唇を離すとお互いに息が荒くなっている。 「メシは後だ…。おまえを愛したい…」 「アリオス・・・」 アリオスは甘えるアンジェリークを抱き上げると、ベッドに運んだ------- |
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