「おい」 低く魅力的な声がしたが、アンジェリークは、まさか、声を掛けられているとは思わずに、通り過ぎようとした。 「そこの栗色の髪の真面目そうな女子高生!」 ひょっとして自分のことかと、アンジェリークは立ち止まった。 「そう、あんただ。アンジェリーク・コレット」 名前を呼ばれて、アンジェリークは、ようやく自分が呼ばれていることに気がつき、振り返った。 「あ・・・」 振り返ると、そこには、彼女の学生証を持った、銀の髪をした長身の青年が立っていた。 「落としものだ、アンジェリーク・コレット?」 魅力的に口角を上げ、青年は危険な甘さの含んだ微笑みを浮かべる。 あまりにもの素敵さに、アンジェリークはくらくらとしてしまう。 「ほら」 「あ、有り難うございます」 アンジェリークが手を延ばした瞬間、青年に手を握られてしまい、唖然とした。 「あ、あの・・・」 「ここで逢ったのも神様のお導きというやつだ? 美味いカフェがあるがどうだ? あんた、すげー好みだ」 青年は、翡翠と黄金が対をなす、少し危険な瞳でアンジェリークを見つめ、彼女はそれに捕らえられてしまう。 「あ、あの・・・」 男の危険さをまるで判っていない免疫不足のアンジェリークは、戸惑うばかりだ。 「ケーキ、奢るぜ?」 その声のトーンと、間の取り方がまた絶妙。 それに青年は、スキのない格好良さで、全く非の打ちどころのない容姿である。 アンジェリークは、ケーキの魅力的な響きと、青年の大胆不敵な容姿に、心が揺れた。 「あ、あの、ケーキをご一緒するぐらいだったら・・・」 しどろもどろに、すこしはにかみながらも答えてくれる彼女が、凄く可愛く彼は思い、その小さな手を握り締める。 「サンキュ」 青年の言葉と笑顔に、アンジェリークは真っ赤になって俯いた。 「じゃあ、行こう」 当然のように、青年はアンジェリークの手を取り、カフェまで連れていく。 その手に包まれる暖かさが、アンジェリークは悪くないと思っていた。 連れていかれたカフェは、とても瀟洒で高級そうなところだった。 落ち着ける雰囲気が良い。 「ここのチーズケーキは絶品だぜ?」 「じゃあチーズケーキとミルクティ・・・」 言われるままに、注文をし、青年はブラックコーヒーを注文した。 まっている間も、整った顔立ちの彼の前のせいか、緊張してしまう。 「時間はかまわねえか?」 「あ、バイトがあるので、一時間が限界です」 本当のことなので、彼女ははっきりと言った。 「バイト?」 「スーパーでレジ打ちです。一人暮らしなので生活していかなきゃ行けないので・・・」 これは益々理想的だぜ。 「あ、自己紹介をしなきゃな。俺はアリオス。映像会社をやってる」 彼はそう言いながら名刺を差し出し、アンジェリークは納得しながら受け取った。 通りで業界らしい雰囲気があると、彼女は思う。 名刺には、”新宇宙企画・代表取締役・監督アリオス”と書かれている。 「監督さんなんですか! 凄いんですね!」 名刺の肩書きを額面どおりに受け取る彼女は、尊敬の眼差しでアリオスを見つめている。 「まあな。今までは男優と監督をかけもちでやっていたんだが、監督業に力を入れようとしてるところだ」 「え、どんな作品を撮られてるんですか?」 アンジェリークは、クリエイティブな仕事をしているものと話せるのが嬉しくて、一生懸命話を聞く。 「まあ人間の本能をベースに、ロマンティックさも加えてる」 いかにも仰々しく行って、アリオスはアンジェリークの気分を高まらせた。 嘘はついてねえよな? 「どんな作品ですか?」 「ああ、”ラヴ・クイーン”シリーズだ」 「“ラヴ・クィーン”」 結構映画好きのアンジェリークは、一生懸命そのタイトルが何だったか思い出そうとするが、中々思い出せない。 「-----ごめんなさい、思い出せないわ」 すまなさそうにする彼女に、アリオスはさらに好印象を持つ。 「ああ、Vシネマの類だからな。知らなくても無理はねえよ」 Vシネマには違いねえよな… 「そうですか! 今度レンタルDVDでも見てみますね!」 「ああ」 無理だと思うぜ? 未成年にはな… 心の中でそうは思いながらも、アリオスは絶対に肝心なことは言わない。 肝心なことを行ったら、彼女がひくのは目に見えているから。 「お待たせしました」 よいタイミングに注文したものが登場した。 スポンジにはアツアツのチーズがかかっていて美味しそうだ。 「わ〜、美味しそう〜」 「マジで美味しいから、食えよ?」 「ええ!」 アンジェリークが嬉しそうにケーキにぱくついているのを、アリオスは見つめながら、彼女をじっと見つめる. 「-----なあ、俺のところであるバイトする気はねえか?」 「え!?」 突然の申し出に、アンジェリークは驚きを隠せない。 「うちのバイトは、スーパーの時給に比べるとかなりいいと思うぜ?」 確かに魅力的な申し出である。 時給が良い。 それ以上にアンジェリークがそそる言葉はない。 「今日、仕事の内容を見に来るか? その分の時給も払うし、どうだ? 内容を見て、嫌だったらやめればいいしな」 「-----はあ」 確かに、のんべんだらりとしたスーパーのレジうちだと、面白みに欠ける. 一日ぐらい仕事の休みを取っていいかな… 「----判りました。見学に行きます」 「そうか、サンキュ。 夕飯もおごるぜ」 嬉しそうにアリオスはアンジェリークに微笑を向け、彼女の心を開かせるように、見つめた. ここからが勝負だぜ… 結局。 その日アンジェリークは始めてアルバイトを休んだ。 代わりがいるということだったので、店長も快く休みを許可してくれた。 アリオスの、シルバーメタリックのBMWのスポーツカーに乗せられて、“新宇宙企画”に向う. 「うちの作風は、女が楽しんでもらえる映像つくりだ」 「そうですか! 作品見せていただけますか?」 「ああ。いいぜ?」 「楽しみ〜!!」 ロマンティックなVシネマが見れると思い、アンジェリークはとても嬉しく思っていた----- この後に何が待っているかとも知らずに---- “新宇宙企画”の事務所は、結構大きかった. スタジオもあるということで、ビルの1フロアー全体である. たくさんのスタッフが働いていたので、アンジェリークは本当に驚いた. 彼女が通されたのは、社長室の中のリビングルーム. アリオスが使っているスペースは、仕事用の部屋、ミニキッチン、リビング、ベッドルーム。 それだけで、暮らしていけるようなスペースである。 「あ、そこにすわっておいてくれ。うち政策のDVDを持ってくるから」 「はい」 アンジェリークは、アリオスに言われたとおりにソファに腰をかけ、じっと彼を待っていた. 不意に、マガジンラックに目が止まり、それを手にとりぱらぱらとめくって彼女は絶句する. 何これ〜!!! 手にとったのは、”エロラヴ・クィーン”という、女性向のAV雑誌であった. そこには、えっちの体位などの解説や、読者による男優ランキングなるものまである. アンジェリークは、恐いもの見たさで見てしまう. ついにV7!!! ゴールドフィンガーを持つテクニシャンNO1!!! “エンペラーレヴィアス”が今回もTOP」 この記事にアンジェリークは思わず吸い寄せられる. シャツが肌蹴た形で映っている青年は、とても艶やかで、素敵だ. 「そのヘンの俳優よりもカッコいいけど…、どッカで見たことのある顔よねえ…」 ぺらぺらとページをめくっていくと、、その広告に、アンジェリークは絶句した. 新宇宙企画が放つ! 女をイカせるVIDEO! エンペラーレヴィアス主演!!! 愛とともに去りぬ!!! 〜新宇宙企画は、今までのAV業界の常識を破り、女性がいい気持ちになれる、ロマンティックなAV作成を中心に行っています。 あなたもこれで、“新宇宙企画”の虜だ! 雑誌を持ってアンジェリークはわなわなと震える. え〜、AV制作会社だったの!? |