体の奥までじんわりと熱くて、アンジェリークは目を覚ました。 手首のネクタイは外されて、愛するアリオスがしっかりと抱き締めてくれている。 確かに、”愛している”って言ってくれた・・・。 信じていいの? アリオス・・・。 喉が少し乾いた。水を飲むためにベッドから降りようと思い、ふとその周りを見る。 アリオスの手によって無残な姿になったワンピース、アリオスのスーツなど、あらゆる場所に衣類が散っている。 激しさを象徴しているかのようで、苦笑してしまう。 衣類の片付けも兼ねて、ベッドから降りようと身動ぎすると、アリオスに強く抱きすくめられた。 「あっ、アリオス」 「どこにも行くな」 「服を拾ってハンガーに掛けようと思っただけなの・・・。少し喉乾いたし」 アリオスは少しだけ腕の力を緩め、アンジェリークの首筋に口づける。 「んっ、アリオスっ・・・」 「俺も手伝ってやる」 ふたりでベッドを降り、アンジェリークがローブに手を掛けようとしたものの、アリオスに制された。 「ふたりきりだから、いらねえだろ?」 「…あっ、うん・・・」 本当は恥かしいけれども、アリオスなら恥じらいの中にも姿を晒せる。 生まれたままの姿で、衣類を拾い上げ、アリオスのスーツをクロゼットに掛ける。 後のものはランドリーケースに入れて、部屋を出て左手の脱衣室にあるランドリー籠に入れた。 裸のまま、キッチンに入るのは恥ずかしかったが、アリオスと一緒に冷たい飲み物を取って、部屋に戻った。 手を引かれて再びベッドの中に潜り込む。 「後でシャワーを一緒に浴びような?」 「うん・・・」 少し喉を冷たいもので潤す。 アンジェリークはミネラルウォーター、アリオスはビールである。 「アンジェ、判ってると思うが、俺はおまえを離さねえからな。ずっとそばに置いておく」 「うん・・・」 恥ずかしそうにアンジェリークは、頷くとアリオスの体に小さなぬくもりをすりつけた。 「俺にはもうおまえ以外はいらねえからな。おまえは俺の唯一無二の女だ」 ぎゅっと肩を抱かれ、アンジェリークはこくりと頷いた。 「大好きよ」 「”大好き”か・・・。俺なら”愛している”だぜ?」 「アリオス」 広い胸に顔を埋めながら、アンジェリークは甘えるように囁く。 「さっきね、言ってくれた言葉は本当?」 「ああ。本当だ。もう一度言って欲しいか?」 「うん」 素直にこくりと頷く彼女が可愛くて、アリオスは再び押し倒したい衝動に駆られる。 だがお互いに飲み物を持っているので、何とかしなければならなかった。 取りあえず、アンジェリークの飲み物を取り上げる。 「あっ・・・」 ぎゅっと強く抱き締めた後、そのままアリオスはアンジェリークをベッドに押し倒す。 組み敷いたところで、アリオスは情熱的な眼差しで、アンジェリークを見つめた。 それだけでもアンジェリークの瞳は潤む。 「愛してる、おまえだけだ、アンジェ・・・」 「アリオスっ!」 嬉しくて泣き出したくなる。 涙がこぼれ落ちるほど、アリオスを愛している。 そのまま深くくちづけられて、アンジェリークはそれに応えた。 甘くも激しいキスの後は、強い抱擁が待っている。 「おまえを一目ボレだったんだ。レイチェルの家に遊びにきていたおまえをな。すげー可愛かった」 「アリオス・・・」 恥ずかしそうにした後、ぎゅっとアリオスに抱き付く。 「私もあなたに夢中だもの・・・。一目ボレだったもの・・・」 最後の声が甘く消え、アリオスはくすりと笑った。 「おまえは最高に可愛いぜ?」 「あっ・・・」 ぎゅっと抱き締めた時、不意に苦しげな顔をアンジェリークはした。 「アンジェ?」 「アリオス、ちょっと気持ち悪い・・・」 少し息を荒くしている彼女を、アリオスは慌てて体を離す。 「大丈夫か!?」 「うん、何だかへんなの」 彼は、顔色の悪いアンジェリークを抱きおこして、アリオスは額をつけてみる。 「ねつっぽいみてえだな? 少し横になれ?」 「うん」 アリオスはベッドから出ると、アンジェリークの下着とネグリジェをクロゼットから出し、妻に差し出す。 「これを着ておけ。すぐに医者を呼んでやる」 「うん、有り難う」 素直に受け取ると、アンジェリークは袖を通し始め、アリオスも手早く服を着る。 本当はある理由から体を離すのは辛かったが、アンジェリークの身体のためなら、我慢できるような気がした。 電話をしてかかりつけの医者を呼ぶ。 アンジェリークの主治医は女医で、これは、アリオスがアンジェリークの肌をどんな男にも晒したくは無かったからだ。 医者が来る間、愛し合った痕跡を無くすために、アリオスはシーツなどをきれいに替える 「ごめんね、アリオス」 「大丈夫だ。おまえの躰のほうが心配だからな?」 「うん、有難う・・・」 ”雨降って地固まる”------- ことわざどおりに、以前よりも仲良くなったふたりであった。 暫くして、主治医がやってきた。 彼女は、寝室でアンジェリークにこと細かく診察と問診した後、納得したとばかりに頷く。 「明日正確に検査をしますから、朝一番に産婦人科に来てくださいね」 「おい、アンジェはどこか悪いのか!?」 心配の余り表情を曇らせるアリオスに、医師は穏やかな微笑を浮かべた。 「いいえ、ただちゃんと検査してみないといえませんが、 恐らく、奥様、妊娠されていますよ」 赤ちゃん… アリオスとアンジェリークはお互いの顔を見合す。 次の瞬間、ふたりは、医者の前にも拘らず、しっかりと抱き合った。 「よかったな? 嬉しいぜ? おまえの子供なんて最高だ」 「アリオス、私も嬉しい・・・」 もう既に二人だけの世界。 ”二人のために世界がある”。 医師は苦笑すると、「明日の検査の結果がでないとわかりませんよ?」と、笑っていた。 赤ちゃん・・・。 本当だったら、これ以上に幸せなことは無いわ・・・ |