BABY IT’S YOU/MAY BE IT’S YOU
前編


 日曜日の繁華街---
「だから、私じゃありませんって!」
 少女は何度も腕の中でもがき、男から離れようとした。
 だが、男の体躯はかなり立派で、華奢な彼女などひとたまりもない。
「栗色の髪、青緑の瞳の女で、高校生なのは、あんたしかいないだろうが! 俺は高い金を払ってんだ!」
「でもちがうんです!」
 少女は泣いて嫌がるが、男彼女を引きずってゆく。
「来い! 援交する女子高生は、最近ずるがしこくて困る!」
「だから、私は援助なんかしません!」
 少女が頑ななせいか、男は苛々としてくる。
 確かに、少女の制服は、そんなものとは無縁な名門のものだったし、その眼差しの光からして、嘘はついていないだろう。
 だがここまでくると後にひけなくて。
 しかも、少女は、とても愛らしいと着ているから、当然、諦めたくない。
 が----

 え?

「おい、おっさん何してやがる!」
 すっと横にやって来た背の高い青年が、いとも簡単に男の手を取り、後ろ手にするなり、ねじり上げてしまった。
「いてててて!」
 体躯の良い男も、青年の力の強さにはひとたまりもないようだった。
 体が自由になり、少女はすぐにその腕から逃げる。
「悪いこと言わねえから、さっさと、ここから立ち去れ…」
 低く冷酷な声。
 男は、青年の声に戦慄を覚えたが、何とか虚勢を張った。
「折角金を払ったんだ! あの娘は俺のものだ!」
「----金…、いくらだ…?」
「さ・・・、三万」
 青年は唇を皮肉げに上げると、男の手を離し、胸ポケットから財布を取り出すと、そこから出した三万円を男に突きつけた
「ほら、これで煩悩を昇華しやがれ」
「うわああ! すんません!!!」
 男はそう言うと、慌てて走り去った。
「大丈夫か?」
 青年が振り返ると、少女はその流れるような動作と仕草に息を飲んだ。
 そして…、その容姿にも。

 カッコいい男性…

 少女を助けた青年は、整った容姿の持ち主であった。
 輝く銀の髪。
 すらりと長い足でスタイルも良く、勿論、長身。
 その上、不思議な黄金と翡翠の眼差しは、不思議な魅力がある。
「…どうも有り難うございました!」
 ぺこりと頭を下げて、少女は心からの感謝を述べる。
「かまわねえよ」
 髪をかきあげながらさりげなく言う仕草も、どこか堂にいっていて、素敵だった。
「ホントに有難うございます…」
「おまえ…、名前は?」
「アンジェリーク」
「”天使”か…」
 青年は噛み締めるよう言って、少女を見つめる。
 その眼差しで見つめられると、少女----アンジェリークは心が潤むのを感じた。
「…あなたは?」
 ほんのりと頬を上気させながら、彼女は首をかしげながら訊く。
「----アリオス」
「…アリオス…」
 少女はその名を聞くだけで、心の奥底から、感情が噴出してくるような感覚に溺れた。
「アリオスさん…、本当に有難うございました! お金まで出してもらっちゃって…。何かお礼がしたいですが…」
 真っ赤になりながら言う彼女が可愛くて、アリオスはフッと微笑む。
「----そうだな…、礼か…」
 良くない微笑を浮かべると、アリオスは、アンジェリークに近づくなり、彼女の顎をぐいっと持ち上げた。
「…!!!!!」
 これにはアンジェリークも驚いて、大きな瞳お皿に開けて、唇を僅かに震わせてる。
 アリオスは、クッと喉を鳴らして笑うと、軽い、それこそ唇が触れるだけのキスをした。
 それだけでも、アンジェリークの心は今にも破裂しそうになる。
「あ・・・、あの・・・、アリオスさん?」
 口をパクパクあけて、動揺する彼女に、アリオスはおかしそうに笑った。
「嫌だったか?」
  そう言われて、アンジェリークははっとした。

 嫌じゃなかった…

 彼女は両手で唇を押さえながら、首を振った。
 栗色の髪が、僅かに揺れる。
「だったら、もうひとつ礼をしてもらおうか。
 一緒にお茶でも飲まねえか?」
「お茶?」
「ああ」
 アリオスは頷いてみせる。
「だったら喜んで!」
 明るく微笑むと、アンジェリークは、いちもにもなく頷いた。

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 アリオスが連れて行ってくれたカフェは、とても瀟洒な雰囲気で、アンジェリークは、彼の趣味の良さに感心した。
「何、食う?」
 木々に囲まれたオープンエアなカフェのせいか、何でも美味しく食べられそうで、アンジェリークはメニューに目移りしていた。
「う〜んと、やっぱり、目移りしますね? どれも美味しそうで…。う〜ん」
「ゆっくり考えろ?」
 煙草の紫煙を燻らせながら、アリオスはおかしそうに笑っている。
「はい」
 その仕草に彼女は思わず見惚れてしまう。

 何だか…、アリオスさんって…、大人だな…

「どうした?」
「あ…、なんでもないです…」
 恥かしそうに下を向くと、彼女はもじもじとした。
「クッ、何だ? さっさと選んでしまえ? おまえを見てると退屈しねえよ?」
「あ・・・、はい」
 彼女はまたメニューに視線を落とし、一生懸命ケーキと紅茶を選んだ。
「えっと…決まりました」
 それを合図に、アリオスが店員を呼んでくれた。
「俺は、コーヒー。おまえさんは?」
「私はケーキセットで、シブーストとロイヤルミルクティを…」
「はい、畏まりました」
 店員が行った後、アンジェリークアリオスをじっと見た。
「有難うございます…。おごってもらっちゃって…」
 恐縮気味に言う彼女に、彼は笑う。
「いいぜ? おまえの、そのヘンテコな表情見てるだけで、楽しいからな?」
「え、も、そんなにヘンテコ!?」
「クッ、別名”可愛い”だ」
「もう・・・からかってばかり・・・」
 この会話ですら楽しく感じてしまう。
 元々女子校育ちの彼女は、余りこういったことに免疫がない。
 だが、アリオスにだけは、心を開くことができるのが不思議だった。

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 カフェで楽しい時間を過ごした後、アンジェリークとアリオスは街をぶらぶらと歩いた。
 彼が彼女を送ると申し出たからである。
 アンジェリークは掛け値なしで嬉しかった。
 だが-----
 心の奥がどこか切なくなるのを感じていた。

 帰りたくない…

 そう思いながら、無言がちで彼女は歩いていた。
「着いたぜ?」
 確かに頭を上げると、すでに駅に来ていた。
「あ…」
 彼女はその瞬間、アリオスの服の箸を持っていた。
「おい?」
「帰りたくないの・・・」 

TO BE CONTINUED…


コメント

29000番を踏まれたサミー様のリクエストで、
「売女に間違えられたアンジェリークを、アリオスが貰う」です。
すみません…。
顔を洗って出直してきます…。
次回に続く・…