最強兵器・親父

後編


「アンジェ!!」
 同時に叫んで、ふたりは険悪にも顔を見合わせる。
 アリオスが先に出ようとすると、レウ゛ィアスは後に付いてくる。

 なんだこの親父!? 

 アリオスは、アンジェリークの恋人であり、担任であるせいか、交遊関係は全てを熟知している。
 そのせいか、行動も早かった。彼がまっすぐ目的地に向かっているのを、レウ゛ィアスは追いかける。
 アリオスが振り返る度に、電信柱の影に隠れる周到さである。
 さっと首だけが見える姿は、少し笑える。

 ったく、「ド●フ大爆笑」のコントじゃあねえんだから。

 アリオスの脳裏に浮かぶは、数々の名場面。
 レウ゛ィアスが白いスーツを着て「レ、レ、レウ゛ィアスの大爆笑〜」と無表情に行進する姿や、「だめだこりゃ」(成田ウ゛ォイスでお願いします)と、漆黒の髪を乱しながら言う姿。
 何かが込み上げてきて、アリオスは肩を震わせた。

 男前だから、笑えるような気がする。いや・・・、寒い?

 何がおかしい!? この狼がっ!!

 ますます不機嫌になる父のオーラが、背中に突き刺さってくる。
 視線の痛さを感じながら、アリオスは苦笑いをした。

 高校卒業したらすぐに、俺の嫁さんにしようと思っているし、アンジェも合意してくれているが・・・、
 本当に、あの親父じゃぎりぎりまで骨が折れそうだ・・・。
 だが、俺は負けないぜ?
 世界で一番アンジェを愛している自信があるから。
 だが、デートまでストーカーされそうで、怖いがな・・・

 。アリオスが角で曲がったので着いていくと、そこはレウ゛ィアスも見慣れた場所だった。

 レイチェルの家か!!

 そうと判れば、レウ゛ィアスは、砂埃を立てて、ズンズンと勢いよく進んでくる。

 やべえ親父が来やがった!!

 アリオスもまるで競歩のようにスピードを上げた。
 ふたりは、足の長さも、身長も同じなので、同じように歩けば、同じように進む。

 俺が一番にアンジェを抱き締める!

 それだけを胸に秘めて。傍から見ると、爆走するする美麗なふたりの男性が、妙に淫らで、女性は皆、目を輝かせていた----

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 その頃、ふたりの男を狂わせる罪なオンナ、アンジェリークは、親友のレイチェルに泣きながら愚痴を零していた。
「お父さんも、そんなにアリオスのこと怒らなくていいのに〜! アリオスだって軽く交わしてくれてもよかったのに〜」
 肩を震わせて泣く親友を可愛いと思いながら、ふうっと溜め息を吐いた。
 父・レウ゛ィアスと、担任・アリオスのことを客観的に見れる唯一の女・レイチェル。
 彼女はしょうがない男達のために泣いた親友を不憫に思いながら、慰めてやる。

 ふたりとも”アンジェ命”の”アンジェバカ”だからね〜、独占欲強いし。

「ふたりともしょうがないよね〜」
「お父さんもアリオスもしらない〜」
「うんうん」
「でもね、アリオスも愛してるし、お父さんも大好きなの・・・」
 泣く天使に、レイチェルは苦笑いしてしまう。

 もう・・・、結局は、甘やかせているんだから・・・。

「でもね、二人には仲良くしてほしいし」
 天使の愚痴を聞いていて、レイチェルはアホらしくなってしまう。
「だって、私の夢は、アリオスのお嫁さんになって、赤ちゃんを産んで、お父さんに孫を抱いてもらって、みんなで仲良く暮らすことなんだもん・・・」
 泣き疲れたのか、アンジェリークはまどろみ始めた。
「もう・・・」
 仕方ないとばかりに、レイチェルは溜め息を吐くと、そのまま天使をソファの上に寝かしてやった。
「アナタは罪な天使よ」
 不意に、砂埃とともに地響きを感じる。レイチェルは嫌な予感がする。

 まさか…!

 案の定何度もインターホンのベルが鳴り、レイチェルはそれに出ると、加増に映る姿をみるなり、呆れた溜息を吐いた。

 やっぱり、アンジェパパとアリオス先生だ。

「おい、ハート! アンジェリークがそこにいるのは判ってるんだ!! 俺だけ部屋に入れろ!!」
「いいやレイチェル! 我はアンジェリークの父だ入る権利は我にある!!」
 レイチェルは、身勝手な男たちに理不尽な怒りを覚える。

 ったく、この男たちは!

 彼女はそのままずんずんと玄関を出て行き、乱暴にもドアを開けた。
「ちょっと! アナタたち! アンジェは寝てるんだからそんなに喧嘩しないでよ!」
 その一言に、二人の大の男はぴたりと止める。
 "アンジェ”という名前は、何と威力があるのかと、レイチェルは思わずにはいられなかった。
「先生もアンジェパパも大人気ないこと止めてよ。あのコ散々泣いて泣きつかれて眠っちゃったわ…。どうぞ、一緒に入って」
 二人は頷いて、部屋の中に案内された。
 リヴィングに連れて来られてはっとする。
 ソファの上には、二人の天使が小さくなって眠っている。
 それを見て、二人は暫し、見惚れる。
 彼女の寝顔は本当に天使のように清らかだ…。
「アンジェったら、”私の夢は、アリオスのお嫁さんになって、赤ちゃんを産んで、お父さんに孫を抱いてもらって、みんなで仲良く暮らすことなんだもん・・・”って言ってたよ? 二人とも喧嘩は止めてさ、仲良くアンジェリークを連れて帰ってあげてよ」
 レイチェルにしんみりといわれて、ふたりもまた反省する。

 アンジェの夢…。
 叶えてやりてえ…!!
 横にこの親父がいるのは気に食わないが…

 アンジェの夢か…。
 この男の血を引く孫は気に食わないが…

 二人は心の奥底ではそう思ってはいたが、眠るアンジェリークを起こしたくなくて、ここは大人になって譲り合う
「アンジェパパ、おぶって帰ってあげて?」
「判った」
 ここは父親であるレヴィアスに花を持たせてやらなければというのが、レイチェルの気持ちだった。
 アリオスもしぶしぶではあるが、そこは折れる。
「しんどくなったら、先生におぶってもらってね!」
 レイチェルはフォローも忘れてはいなかった。
 レヴィアスがアンジェリークをおぼるのに、アリオスが華奢な身体を抱き上げて、彼の背中にアンジェリークを乗せてやった。
「こんなに重くなったんだな…。アンジェは…。大きくなったな…」
 しみじみというレヴィアスの言葉に、アリオスは少し切ない気分になった。

 二人は、レイチェルに例を言った後、彼女の家を後にする。
「疲れたら変ります」
「いやいい」
 きっぱりと断られて、アリオスは面白くない。
 だがここで県下をすると彼女がおきてしまうと思い、ここはじっと我慢をした。
 とうとう家の前までレヴィアスはアンジェリークをおんぶをした。
「じゃあ、今日はこれここまでにしといてくれ。娘も寝ている」
「レヴィアスお父さん」
 レヴィアスが門を潜ろうとしたとき、アリオスは彼を呼び止める。
「俺はあんたを超える男になって、アンジェを幸せにする!!」
 ぴたりとレヴィアスの歩みが止まる。

 このやろ〜!!

「というわけだから、あんたがアンジェをおぶれるのも今のうちだぜ?」
 ニヤリと挑戦的な笑顔を浮かべられて、レヴィアスはぶっちと切れる。
 だが、娘がいる以上、喧嘩は出来ない。
 そのジレンマでいまや爆発しそうだ。
「じゃあな?」
 そのまま立ち去るアリオスにレヴィアスは石をぶつけたい衝動に駆られた。

 アンジェはおまえなんかに渡さん!!

 二人のバトルは、まだまだスタート地点に立ったばかりなのかもしれなかった----

コメント

44444番のキリ番を踏まれたサミー様のリクエストで、
「レヴィアス父とアリオスのアンジェを取り合うバトルもの」です。
へぼさのあまり、旅に出ます・…。