Someday My Prince Will Come


 遠い昔のフェアリーテール。
 古びた教会で偶然出会ったお兄ちゃんは、とても綺麗だった。
「待ってろ、いつかおまえを迎えにくる王子様が現れる」
「うん、待ってる・・・」
 夢かうつつか判らない、もう色褪せてしまった遠い日の想い出-------



 王子様はオスカーさんだと思った。
「好きです!」
「悪いがお嬢ちゃん・・・。その想いには応えられない・・・」
 いつもスマートで優しいオスカーからの言葉に、アンジェリークはショックを受けて固まってしまった。
「お嬢ちゃん・・・」
 正直に言ってしまった自分を心苦しく思いながら、オスカーは、肩を震わせる少女を見つめた。
「君はまだ蕾だ。俺に恋したのも、”恋に恋をしている”かもしれない・・・。レディになったら、本当のことが見えてくるはずだ」
「それって私が子供ってことですか?」
「------いや、そういうわけじゃない…。
 お嬢ちゃんの”王子様”が俺ではないってことだ」
 憎らしいほど素敵な笑顔に、アンジェリークは胸の奥がひどく痛むのを感じる。
「ごめんなさい・・・、ヘンなことを言って」

 決して涙はこぼさないようにしよう------そう思いながら、頭を深々と下げた後、きゅっと唇を締めて、アンジェリークはオスカーの元から走り去った。
「お嬢ちゃん!」

 私じゃないんだ・・・。
 オスカーさんの大切な人は、私じゃないってことだけは判る。
 私が子供だから・・・。

 胸が酷く締め付けられる。
 彼女は泣きながら走った。
 その次の瞬間------
「きゃあっ!」
 身体が誰かにぶつかる衝撃を感じ、アンジェリークは驚愕した黄色い声を上げる。
「おいっ」
 身体が揺れたと感じた時には、もう力強い腕に受け止められていた。
「おい、大丈夫かよ?」
 魅力的なよく通る声に、アンジェリークは導かれるように顔を上げる。
「あっ」
 目の前にいる青年は銀の髪を風で乱しながら、不思議さうにアンジェリークを見ている。
「走るときは前を見て走れ」
「はい・・・。有り難うございます」
 しょんぼりと彼女は肩を落とすと青年から離れた。
「気をつけろよ?」
「はい、すみませんでした」
 少し恥かしくて顔を赤く染めながら、深々と頭を下げ、アンジェリークは逃げるように立ち去る。
 青年はそんな姿の彼女を見てフッと微笑んだ。

 また逢えたな?


 あー、びっくりした!!
 だってあのお兄さん凄いカッコよかったから・・・。
 まだドキドキしてる…。
 ちょっとだけ気が紛れたかな・・・。
 だけど…。

 また涙が込み上げてくる。
 アンジェリークは愚痴を聞いて貰う為に、親友のレイチェルのところに向かった------


「えっ! ふられた!!」
 話を聞くなりレイチェルは大きな声で言った。
「うん…”私は恋に恋している”からダメなんだって。もっとレディにならなくっちゃならないんみたい・・・」
 今の自分と、オスカーが言うところの”レディ”は余りにも違いすぎると、アンジェリークの落胆は計り知れない。
「初めて告白した相手なのに・・・」
 大きな溜め息を吐くアンジェリークが余りにも愛らしいため、何とかしてやりたいとすら思う。

 アンジェを大人にする男は、アリオス以外に考えられない・・・
 彼ならアンジェを立派に”レディ”にすることが出来るかも・・・。
 なんせ、立派な財閥の総帥だし・・・
 昔、メイクアップ志望だったから、綺麗になるコツも知ってるし・・・

「ねえ、綺麗になってオスカーさんを見返してやらない?」
「見返す?」
 胸を引き攣らせながら、アンジェリークは鼻を啜りながら言う。
「そうよ!! ワタシも協力するからさ!
ねえもうちょっとがんばって、綺麗になってさ、オスカーさんを見返そうよ!!」
 力強いレイチェルの言葉に、アンジェリークは思わず頷かずいていた。
「うん!」
「じゃあ、決まり!!
 ワタシの知り合いにね、女の子を凄く綺麗にする魔法を持ってる人がいるの。その人にやってもらおうよ!」
「うん!
 ------でも、綺麗になるのかな・・・」
 そうなりたいと思うし、オスカーにつりあいたいとも思う。
 でも本当にその思いが叶うかと思うと、少し不安な気分になってしまう。
「大丈夫よ! 早速明日でもアポとって置くからさ!
 一緒に行こうよ!!」
「うん!!」
 レイチェルに言われて力強く返事をしたものの、心の奥は不安が残るアンジェリークであった。



 翌日。
 アンジェリークはレイチェルに連れられて、臨海地区にある高層ビルに来ていた。
 シースルーのエレベーターに乗り込んで目指すは最上階。
「ワタシのいとこなんだ。その魔法をもっているのは!」
「レイチェルのいとこ------」
 口にしたものの、アンジェリークはほんの少し戦いてしまう。
 レイチェルのいとこ------
 それは大企業であるアルヴィースグループの総帥であることを指す。
「アナタにいとこ殿だって言ったらサ、引くと思って」
「-------だってアルヴィースよ!」
「うん・・・。
 だけどアリオスはきさくだからさ?」

 アリオス-------
 その名前を聞いて、アンジェリークは心ならずも胸が騒ぐのを感じる。
 それがどうしてかまだ判らない彼女であった。

 エレベーターは静かに目的の階に着き、ふたりは降りて、目的の総帥室を目指す。
 レイチェルはかって知ったるところなので平気だが、アンジェリークは実のところ緊張しまくっている。
 立派なドアの前でレイチェルは止まった。
「アリオス、レイチェルだよ」
「ああ、入れ」
 ドアの向こうからはとても魅力的な声が聞こえ、アンジェリークは胸の奥がどきりとするのを感じる。

 この声は何所かで・・・。
 何所かで聴いたことがあるわ------

「入るよ、アンジェ」
「あ、うん」
 少し夢うつつなアンジェリークは、レイチェルの声にたじろいでしまった。
 目の前の視界が開ける。
 その瞬間、銀の髪の青年がゆっくりとスローモーションのように振り替える。
 光を浴びる麗しの青年は、昨日アンジェリークがぶつかった青年、その人であった------

 彼がレイチェルのいとこ…


〜TO BE CONTINUED・・・〜
 

コメント

アリアンの「MY FAIR LADY」です。
また? という声が聞こえてきそうだ(笑)
書きたかったんだもん〜

このタイトルは有名な白雪姫の曲。
「いつか王子様が」です。

モドル ツギ