前編
ずっと、ずっとあなたを追いかけていた・・・。 だけど追いつけない。 私が小学校に入ったときには、あなたは既に高校生。 私が中学に入ったときはもう社会人だった。 その間に、何人の女性があなたの横を通り過ぎただろう。 私が幼稚園の時は「ようアンジェ泥遊びか?」と、カノジョと一緒にからかってた。 幼心に、私は既に”女の感情”を持っていて、私はアリオスの彼女に嫉妬して、泥団子を足下に投げ付けた。 今でも、彼女の怒った顔が忘れられない。 宥めるように、その後アリオスが木陰で彼女にキスしてた。私の初めての失恋。 その後も、”アリオスの横”は、いつも誰かの指定席。 長続きしない”指定席”だった。 だけどそこは、私には決して許されない神聖な場所。 まだ、間に合うのかな? もう、間に合わない・・・? 「アリオス、今度、うちのホテルでパーティ形式の合コンをやろうと思ってんねんけど、どうや? ちゃんとみんな俺の知り合いやさかい、安心やで」 「職権乱用」 アリオスは、さらりと交わし、ウォッカで口を潤す。 「重要な呼び出しってそれかよ?」 アリオスは、友人の企画に溜め息を吐くと、少し飽きれたきむづかしい顔をした。 アリオスは、今、バーに来ている。友人のチャーリーに呼び出され、彼がオーナーであるホテルのバーに来ていた。 「女の子は若いのから艶やかなねえちゃんまで用意してるで!」 「用意っておまえ・・・」 「まあ、懇親会やと思ってやな!」 チャーリーの調子良さに、アリオスは皮肉げに眉を上げた。 「あ、そうや、今回の会にアンジェちゃんも来るで?」 その名前を聞いて、アリオスは、さらに眉を大きく上げた。 「あんなガキんちょが? 犯罪か泥団子を投げられるのがオチだぜ?」 鼻で笑うアリオスに、チャーリーはじっと彼を見つめる。 「おまえ、知らんねんな〜! アンジェちゃん、ごっつい可愛いから、もてるんやわ〜」 アリオスはまさかと思う。 彼のイメージは、いつまで経っても、彼女は「泥団子の幼稚園児」なのだ。 「おもしろい。だったら、その”もてもてアンジェリーク”とやらを見せてもらおうじゃねえか」 強気に出るアリオスに、チャーリーは取りあえずはほっとした。 「これで数が合うわ」 「取りあえず行ってやるよ? 保護者にな?」 アリオスは、煙草を片手に余裕の表情を浮かべたが、それは憎らしいほど彼らしく、素敵な表情だった。 パーティの当日、・アンジェリークは、シンプルな薄いブルーのワンピースに身を包み、薄化粧をした。 彼女は、レイチェルに誘われての参加。エルンストを攻略のために、彼女もがんばっている。 今日の会は、実は、レイチェルが従兄のチャーリーに頼みエルンストを参加させるために企画したものだった。 もちろんアンジェリークもそれに参加させ、彼女の思い人で、チャーリーの友人のアリオスを参加させたのだ。 もちろん、他の男性や女性を参加させ、普通の合コンパーティのようにしたのだ。 会場に人が集まり始め、アンジェリークはレイチェルと一緒に、壁側にいた。 「あっ、エルンストさん!」 「えっ!?」 いつもはクールなレイチェルが、この時ばかりは少し頬を赤らめてしおらしくなる。 恋する少女そのものだと、アンジェリークは思う。 「行ってきて? エルンストさんのところに!」 「うん!」 嬉しそうにレイチェルは駆けていき、アンジェリークも温かな気持ちになる。 「アンジェもがんばってね!」 振り向くと、レイチェルはしっかりと手を振り、エルンストに向かって駆けていった。 「ふふっ、かわいい。でもどうして、私に”頑張れ”なんて言ったのかしら!? まあ、いいわ。今日はいっぱい食べるぞ〜!」 「クッ、食い気に走るのかよ!?」 聞き慣れた笑い声に、アンジェリークは振り返った。 そこには銀の髪を艶やかに揺らすアリオスがいる。 「アリオスお兄ちゃん!」 ハンサムだと、ほんの少しうっとりとしながら、アンジェリークは声を上げる。 「おまえの大胆な食いっぷりを拝みにきた」 「もう・・・」 少し顔を赤らめながら、アンジェリークは、俯く。 その表情はとても色気があり、アリオスは、はっと心を一瞬だが突かれた。 今のは本当にアンジェなのか!? 「あら! アリオスさんお久し振り!!」 艶やかな女性が、アリオスに近付いてきた。 「こんばんは! こんなところでお逢い出来るなんて!」 「ああ、ジェシカ、元気だったか?」 アリオスと、ジェシカは、親しそうに話し始め、最初は、アンジェリークもその輪に加わっていたが、疎外感を感じ、少しずつ気を遣って離れる。 やっぱり、私なんて眼中にないものね・・・、アリオスお兄ちゃん・・・。 アンジェリークは寂しさを感じ、ふらふらと”壁の花”になった。 |