LOVE LOVE SHOW

前編


「何か面白いものないかな〜」
 育成や学習の合間にできた休憩時間を利用して、アンジェリークは天使の広場にやってきた。
 アルカディア特有の果実や、花を物色しにやってきたのである。
「今日のデザート何にしようかな〜、この間食べたのも甘くて美味しかったけど・・・」
 結局、色々物色した結果、いつもの物を買って、果物屋から出ようとした。
 遠くで銀の髪が揺れるのが見え、その方向に視線を這わせる。
 そこには、恋人のアリオスがいて、屋台で花を物色している。
 アンジェリークは嬉しくなり、彼の元に駆け寄った。
「アリオス〜!」
 声を掛けられると同時に、アリオスはびくりと背中をさせる。
 返事をしない彼に、少し癪に障って、彼女は背中をどんと押した。
「アンジェ!」
「どうして返事をしてくれないのよ〜」
 少しぷんすかモードのアンジェリークに、アリオスは少し眉根を寄せた。
「そんなに責めるな。気がつかなかっただけだ」
 本当は気がついていた。半径3メートル以内に彼女が近付くと、アリオスは独特の野獣の勘が働き、判るのである。
 近くにいると。
「じゃあ頼んだぜ?」
「あいよ!」
「ほら行くぞ、アンジェ」
 ぐっと有無言わせずに、アリオスはアンジェリークの腕を取ると、そのままベンチへと引っ張っていく
 その頼りになる力強さにアンジェリークのぷんすかスイッチはひとまず切れた。
 が。
「ねえ何か買ったの?」
「ひみつ」
 さらっとかわされて、アンジェリークは再びぷんすかモードに入る。
 少し拗ねた彼女も可愛いと、アリオスが思っているとは、彼女は知らない。
「いいもん!」
 腕を絡めたまま背中を向ける彼女が可愛くてたまらない。
「ほらアイスクリーム買ってやるから」
「アイスクリーム!?」
 食べ物に釣られる自分が少し恥ずかしいと思いながら、アンジェリークは恋人へと向き直る。
「・・・バニラがいい・・・」
「オッケ。何だったら口移しで食べさせてやってもいいぜ?」
 ニヤリと良くない微笑みを彼は浮かべるが、それがとても魅力的で、彼女はくらくらする。
「もう・・・バカ・・・」
 二人はベンチに腰掛けて、ゆったりとしていた。
「すみませーん!」
 先程の屋台の主人が慌ててやってくる。
「何だ?」
「すみませんねえ、アイリーンさんのご住所をお聞きするのを忘れましてね」
 息を切らしながら言う人の良さそうな主人の横で、アンジェリークの顔が強張るのが判る。
「これにお願いします」
 何も知らない主人は紙を渡し、アリオスは横のアンジェリークを気にしながら、住所を書き、主人に手渡した。
「確かにお届け致します」
 主人はご機嫌の様子で屋台に戻っていったが、アンジェリークは不機嫌なままだった。
「アイリーンって誰?」
 少しとげのある声で言い、アンジェリークは拗ねるように俯く。
 その横顔が誰よりも魅力的に、アリオスには映った。
「アンジェ」
 思わず可愛くて、アリオスは腕に閉じ込めた。
「ごまかさないで!」
 すっかり怒ったアンジェリークは身動ぎをして、彼の身体から離れようとする。
「アリオスのバカ〜!」
「やきもち妬くなよ」
「ほっといてよ〜! 他の女の人ばっかり優しくして、私何などうでもいいんでしょう!」
 半分涙目になってアンジェリークはアリオスを睨む。
「おまえが一番大事だっていつも言ってるだろ!?」
 判ってくれない彼女に苛立ちを覚えながら、アリオスは何とか宥めようとする。
「・・・だって、そんな口ばっかり・・・! だったらどうして私に、彼女のことをうまく説明できないのよ!? 私なんか愛してないんでしょう!!」
 元来女のヒステリーが好きではないアリオスは、とうとう切れかける。
「この俺がおまえを愛していないだと!? だったらおまえはどうなんだ!?」
 迫ってくるアリオスの瞳に、アンジェリークはたじろいだ。
「愛しているわ!!」
 これだけは自信があるせいか、アンジェリークはきっぱりと言い切る。
「だったらなぜ信じられねえんだよ!」
 アリオスはアンジェリークの華奢な肩に手を置いて、その眼差しを捉え、揺さぶる。
 だが、言葉でちゃんといってもらいたいアンジェリークは、不安で仕方がない。
「あなたを信じてる! だけど、ちゃんとあなたの言葉で伝えて欲しいことだってあるのに!!」
「そこが、信じてねえってことなんだろ!」
「そういう意味じゃないわ!」
「アンジェ!」
 アリオスはさらにアンジェリークの肩を掴んだ。
「"言葉"なんて、何の意味がある? 矛盾だらけで、嘘だらけじゃねえのか?」
 アリオスの表情は本当に冷たかった。
 その論旨はいきり立ち、俄かに憎悪が溢れている。
 アンジェリークは唇を噛み締めると、アリオスを見つめた。
「だったら…、この間"愛してる"って言ってくれた言葉…あれは嘘だったの?」
「違う!」
 苦しげな声がアンジェリークの心に届いてくる。
「それだったら、アリオスの言ってることは間違いだらけじゃないの!! 信じられない!」
 興奮気味の彼女は、もう手がつけられない。
 だがアリオスももう止められなくて。
「どうしてそうなるんだよ! おまえの理論こそおかしいぜ!」
 二人は険悪な雰囲気のまま見つめ合う。
「いいから落ち着いて話を聴け…!」
「いやっ!」
 アンジェリークは、アリオスに掴まれて手をふりほどくと、きっと見据える。
「・・・ったく、わからずやだな! 勝手にしやがれ!」
「勝手にするわよ!!」
 まさに売り言葉に買い言葉。
 フンっと、ふたりは互いに背を向け合うと、それぞれ別方向に歩いていく。

 アンジェのやつ、何興奮してやがるんだ!?


 アリオスのバカバカバカバカ!!!!!

 アルカディアで再会して以来の大喧嘩が今、火を噴き始めた。

 アンジェ…。
 俺は何もやましいことはしていないのによ!
 ちゃんと逢わせようとしていたのによ…


 アリオスのバカ!!

  

コメント

50000番を踏んでくださったKAZYーL 様のリクエストで、
「アリオスとアンジェが大喧嘩をした後、人がうらやむほど仲直りをする」です。
 今回は喧嘩編です。
ちょッちだけ勝気ちゃんかな〜。
後編に続く〜!!