初めて誘われたデートだから、念入りに可愛くしなくっちゃ! 髪はちゃんとツヤツヤになってる? リップクリームは可愛くピンク色になってる? 「ねえ、綺麗?」 傍に寄り添っている、愛犬アルフォンシアに話しかける。 チワワの彼はアンジェリークにとって、気の置けない友達だった。 鏡の前で、アンジェリークは何度もチェックをして、その度に薔薇色の溜め息を吐く。 「コレッちょ! 調子は! まあ凄く可愛いわ!」 部屋に入ってきた友達のリモージュは、アンジェリークの愛らしさに、感嘆の声を上げた。 「リモちゃん! 有り難う〜!」 ふたりは手を取り合って、ジャンプし合う。 同じ名前なので、ふたりはファーストネームで呼び合っているのだ。 その上同じ寮に住み、同じ学科をとっているせいか、ふたりは、入学のときから非常に仲良しだった。 「これだったら、シャルルをイチコロだわ!」 「うん!」 やはりそこは持つべきものは友達だ。 自信を持たせてくれる。 「ほら、いってらっしゃい!」 友人に背中を押されて、彼女は勇気を持って部屋から出ていった。 アンジェリークは、嬉しさに頬を染めて歩いていく。 待ち合わせの場所は、彼女の住む寮の近くだ。 「シャルル!」 「アンジェリーク!」 金髪のシャルルは、高貴な雰囲気がしてしかもハンサム。 名門の家柄出身で、将来は赤マル間違いない。 学校の行事で知り合い、以降は、一緒に登下校したり、寄り道をする仲になった。 そして、今日。ようやく初デートにようやくこぎつけることが出来たのだ。 アンジェリークは子犬のようにシャルルに近付いていくと、彼は笑って迎えてくれた。 「大切な話があるんだ。カフェにでも行かないか?」 「ええ!」 これには、アンジェリークはどきどきしながら頷く。 もしかして、つきあってくださいだなんて! あまりにもの嬉しさに、アンジェリークの豊かな胸は勢い良く弾んだ。 カフェでは、大好きな甘いケーキとカフェオレを頼み、アンジェリークは更にご機嫌になる。 注文が全て揃った時点で、シャルルは神妙な顔で切り出してきた。 「アンジェリーク、僕はこの秋からスモルニィ大学のロースクールに行く。その・・・、判るだろ?」 「ええ、判るわ」 お互いにニュアンスを完全に履き違えている。 アンジェリークは、「遠距離でも大丈夫」という意味で言ったが、彼の真意は違った。 「ロースクールになると勉強も凄く忙しくなる。知っての通り、うちは”名門”として有名だから、家族の期待にも答えなくちゃならない・・・。将来、全てにおいて僕をサポート出来る女性が必要になってくる」 アンジェリークはいよいよ交際を申し込まれると、気持ちは最高潮になっている。 「アンジェリーク・・・。これ以上、君とは付き合えない」 一瞬、何を彼が言っているのか判らなかった。 自分の耳がおかしいのだと、聞き返してみる。 「それって・・・」 「君のようなタイプは、正直言って、僕のパートナーになれない。その、とても・・・」 彼は言葉を濁しつつも、その視線はアンジェリークの豊かな胸にいっている。 これにはアンジェリークは頭に血が上った。 その視線の行方を見れば、答えは自ずから見えてくる。 「・・・平たく言えば、私の胸が大きいから、アホっぽく見えるから、ダメってこと!?」 「アンジェリークそれは・・・」 シャルルは困ったような視線を彼女に投げ掛ける。だがその視線も、やはりFカップの胸に視線は注目している。 「やっぱり! どうせ私はおっぱいオバケよ! 胸が大きいからって、頭の善し悪しは決められないんだから!」 アンジェリークは、せっかく綺麗に決めた化粧を、涙で緒としてぐちゃぐちゃにしながら、ヒステリックのように言葉をまくし立てた。 「あんたなんか、女の敵だわ!! 胸なんか、えぐれちゃってるくせに!!」 「男だからね」 何度か、シャルルの胸を叩いた後、アンジェリークはシャルルを思い切り睨みつけた。 「胸だけで、人は判断出来ないってこと、証明してみせるわよ!!」 啖呵を切ると、アンジェリークは肩で風を切り、颯爽と歩いていく。 その姿はどこか男前だ。 どいつも、こいつも、私の外見しか見ない! シャルルこそ、私の王子様だって思ってたのに!! アンジェリークは寮に帰るなり、そのままリモージュの部屋に向かう。 「リモちゃん!!」 ドアを開けて、アンジェリークは彼女の名前を呼んだ。 「どうしたの!? コレッちょ!」 「リモちゃーんっ!」 いきなり抱き付いてきたアンジェリークに、リモージュは訳も判らず、抱き締めてやることしか出来ない。 「本当にどうしたの?」 「おっぱいが大きいからふられたの!」 声を引きつらせながら、アンジェリークは切なそうに呟く。 「え!?」 「おっぱいの大きい女は、頭が悪いって」 「何言ってるの! そいつ! あなたはオールAの優等生じゃない!」 リモージュはまるで自分のことのように、憤慨してくれる。 「だからね。見返してやろうと思ったの!」 化粧がぐちゃぐちゃになりながらも、アンジェリークは決意を秘めたかのように、力強く言った。 「それでこそコレッちょよ!」 彼女のこういったところが、リモージュは大好きだ。 「シャルルと同じ学校に行って、見返してやるの!」 「どこ?」 「スモルニィ大学のロースクール」 これにはリモージュは口をぽかんと開ける。 「スモルニィのロースクールって言ったら、入るのも難しいし、その上、着いていくのも大変なのよ! 名門中の名門なのよ! 議員とかもいっぱいだし!」 リモージュは心配と驚きの入り交じった表情で答えると、唖然とアンジェリークを見つめた。 「そんなの、やってみなくっちゃ、判らないわ! だから、私、精一杯がんばるわ!」 しっかりと宣言する友達が、リモージュには頼もしく思える。 サポートしたくもなるというものだ。 「あなたなら出来るかもしれないわ! いいわ、早速、先生に訊きに行きましょう!」 ふたりは早速、進路指導のルウ゛ァのところに向かった。 「先生!」 「リモージュさんとコレットさんはいつも元気ですね〜」 いつものように、進路指導教師は、ほんわかのんびりとふたりを迎えてくれる。 「先生、相談したいことがあるんです!」 勢い良くアンジェリークは言った。 「何ですか〜」 「スモルニィ大学のロースクールに行きたいんです!!」 「えっ!?」 思わずルウ゛ァの声がひっくり返った。 いくらアルカディアが名門女学院であれ、やはり、昔でいうところの”お嬢様学校”というのは捨て切れていない。 いくらオールAといえど、その溝は大きい。 「私、本気です!」 そのまっすぐと真摯なアンジェリークの眼差しを見つめていれば、その決意の深さが判る。 「・・・判りました。まず、法律学のテストである”エルサット(法学大学院進学適正試験)”で、159点以上マークすること。 後は、法律についての論文を書いて下さい。 エルサット、論文、うちでの成績、私の紹介書を合わせて、スモルニィのロースクールに提出します。 それが、ロースクールの教授会にかけられ、入学許可の合否が決まります。 ・・・私に、知り合いがいますから、よくするように書いておきます。 後はあなたの努力次第ですよ」 穏やかだが、力強い言葉だった。 「はいっ! はいっ! 頑張ります!!」 アンジェリークの闘志は燃え上がり、その日から、猛烈な努力が始まった------ 学校の帰りには、当然のように寄り道をしていた場所が、カフェから図書館に変わり、寝る間も惜しんで勉学にいそしんだ。 友達たちも、模擬テストの回答などの手伝いを惜しげもなくしてくれ、感謝しながら、日々勉強に打ち込む。 もともと、法曹界の勉強にも興味があった、アンジェリークは、かなりのスピードで知識を身につけていった。 そして------- エルサット試験を無事に受け、その運命の日。 誰もが、彼女の結果に固唾を呑んで見守り、郵送で送られてきたスコア表をあける。 「170点!!!!」 このスコアには誰もが喜んでくれ、その日は寮中が大騒ぎとなった。 直ぐに論文にも係り、猛然と取り組む。 テーマは「女性と法について」だった。 それを鼻息荒くルヴァに提出し、後は審判を仰ぐだけ------- 2週間後には結果がわかり、今度は学校中が歓喜の渦になる。 アンジェリーク・コレットは、はれて、スモルニィ大学のロースクールに入学を許されたのだ---- アンジェリークは堂々と、アルフォンシアと共に、スモルニィ大学ロースクール学生寮に入寮した。 様々な期待を胸に抱き、今、ハイパワー娘は新たな世界に船を漕ぎ出す。 入学のガイダンスの日、彼女は手続きに列に並んでいた。 ここで授業のカリュキュラムなどの用紙を貰うのだ 「次、名前は?」 「アンジェリーク・コレットです」 名前を言って、顔を上げると、そこには銀の髪が印象的な青年が、冷たい表情で見ていた---- TO BE CONTINUED… |
コメント 可愛い恋愛小説を書きたくて、連載開始です。 宜しくお願いします〜。 胸が大きいだけで振られてしまった、アンジェリークの奮戦記。 アリオスさん・・・。 一瞬だけでした(笑) |