「大丈夫か!? お嬢ちゃん・・・」 「あ・・・大丈夫です・・・、オスカー先生・・・」 昨晩、病院内の新人歓迎会があり、アンジェリークは、外科病棟の看護婦の代表のひとりとして出席をしていた。 宴が始まったの自体が、都合で10時を回り、そこから盛り上がってしまい、ふたを開ければ朝帰り。 本当は、アンジェリークは今夜は夜勤なので早く帰りたかったのだが、外科病棟看護婦の幹事として帰るわけには行かず、結局はこうなってしまった。 少し飲まされてしまい、悪酔いしたのか気持ちも悪い。 彼女は後ろのシートに凭れながら、頭を押さえる。 「本当に大丈夫、アンジェリーク!?」 オスカーの恋人であり、産婦人科の婦長であるアンジェリーク・リモージュも、何度も、何度も振り返って、彼女の様子を看てくれる。 「大丈夫です・・、有難うございます・・・」 15分ほど揺られて、ようやく彼女のアパートへと着いた。 「ほら、着いたぞ!?」 「あ、有難うございます!!」 ドアを開けてもらいアンジェリークが立ち上がろうとすると、視界が回ってしまい、上手く立つことが出来なくなった。 「しょううがない。俺が部屋まで送り届けてくる。アンジェリーク、少し待っててくれ」 「ええ」 オスカーは運転席から降り、後ろのドアを開けると、アンジェリークに肩を貸す。 「大丈夫か!? お嬢ちゃん!!」 「はい・・・、先生」 「ほら、俺に掴まれ!!」 何とかオスカーの逞しい肩につかまり、彼女は車から出た。 「よし、行くぞ?」 「はい」 ゆっくりと歩みを進めながら、彼女は自分の部屋へと向かった。 その頃--- 昨夜は夜勤のために歓迎会を参加しなかったアリオスが、一足先に彼女の部屋の前に来ていた。 もちろん、今夜夜勤の彼女に会うためである。 何度かインターホンを押したのだが、一向に返事はなかった。 おかしいな・・・ 寝てるのか? 不意に足音と、聞きなれた声が聞こえてくる。 「お嬢ちゃん、大丈夫か」 「ええ。もうすぐ家ですから」 その声の主に、アリオスの異色の眼差しが凍りつくように鋭くなり、表情が強張りを見せた。 どうしてアンジェとオスカーが!? 足音と声がどんどん近くなり、アリオスは取りあえずは、近くの階段に身を隠す。 そしてじっと、二人がやってくる方向を見つめた。 まさかそこにアリオスがいるとは思わないアンジェリークは、オスカーに支えられて部屋へとやってくる。 その様子はアリオスにはとても親密に見え、彼を激昂させる。 くそっ! そういうことかよ!! 彼は拳を握り締め、冷たい炎の眼差しで二人を見据えていた。 「すみません、ここです」 「じゃあ、玄関まで送ろう」 彼女は鍵を開けて、オスカーと一緒に部屋へと入ってゆく。 アリオスはそのまま階段を降りると、ものすごい勢いで裏に止めていた車に乗り込む。 その表情は果てしなく冷たい。 俺が”愛してる”と言わなくても判ってもらえてると思っていたが、ほかの男がいたとはな!! 行き場のない怒りを彼はアクセルにぶつける。 くっそっ!! そのまま彼は自宅へと向かう。 その様子をリモージュはオスカーの車の中から見ていた。 あれ、アリオス先生。 ロザリアからアンジェリークを気に入っているって聞いてたけれど、そういうこと・・・。 誤解を生じなければいいけれど・・・ しかし、彼女の鋭いカンは当たってしまうのである。 「有難うございました」 「ああ。またな?」 玄関で丁重に礼を言うと、アンジェリークはオスカーをそこで見送った。 彼女は彼が出て行くとすぐに鍵をかけ、バスルームに駆け込む。 そこで熱いシャワーだけを浴びると、すぐさまベッドへと向かい、丸太のように眠った。 何が起こっているかを気づかずに。 --------------------------------- 夜勤の為に病院にやってきたアンジェリークは、いきなり婦長のロザリアに呼び出された。 「失礼します」 「どうぞ」 呼び出し場所である談話室に、彼女は緊張の面持ちではいる。 「まあ、掛けて頂戴」 「はい」 席にかけるなり、ロザリアは困ったようにアンジェリークを見た。 「何でしょうか?」 「あのね・・・、言いにくいんだけど、アリオス先生が、あなたを担当から外してくれって言ってるの・・・」 「えっ!?」 その言葉に、彼女は心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。 どういううこと・・・!? 彼女の顔色は蒼白になり、思わずそれを隠すように俯く。 ショックの余り光った涙を、ロザリアは見逃さなかった。 「私も理由がさっぱり判らないんだけれど、とにかく、そういううことだから・・・。あなたは、今日から、他の先生の担当のサポートになるから」 「はい・・・、わかりました・・・」 彼女は力なく呟くと、そのまま立ち上がり、更衣室へと向かう。 もちろん、足元はおぼつかない。 「失礼しました」 そういって部屋から出る彼女を、ロザリアは痛々しげな眼差しで見つめていた---- そうか・・・、もう、私のこと飽きたんだ・・・。 きっとそうよね・・・・。 だって、ちゃんと”愛してる”って言ってもらったこともなかったし、”付き合おう”なんて正式に言われたわけでもないもの。 きっと、私は、”遊び”の女だったんだ・・・ 彼女は必死に鼻をすする。 もう、何もする気が起きないほど彼女は深く傷ついていた。 ロザリアから、アンジェリークのきづついた様子を聞くなり、リモージュは、アリオスの態度の理由にぴんと来た。 あのアリオスが嫉妬をすると思うと、それだけで彼女は妙に嬉しくなってしまう。 アンジェ! あなたは凄く、アリオス先生に愛されているわよ! 「ね、ロザリア・・・、私にいい考えがあるんだけれど乗ってくれる?」 ------------------------------------- アリオスには新しく若い看護婦が着くことになった。 アンジェリークは取りあえずは、さまざまな医師の下でサポートに徹する役をしていた。 病塔内でアリオスにすれ違っても、彼は完全に無視をする。 しかも新しい担当看護婦との仲のよさを見せ付けられるのである。 そのせいか、彼女の心はもう何も感じられないところまで麻痺をした。 見られていたことを知らない彼女は、彼がこうしたのは、自分に飽きたからだとしか思えなかった。 まさか嫉妬がそうさせていたとは思いもよらなかった。 「え!? 私を産婦人科にですか!?」 ロザリアに呼び出され告げられた言葉に、アンジェリークは驚愕の声を上げた。 「ええ。あなたは助産婦の免許も持ってるし、是非にといわれてね」 「産婦人科・・・」 「いかがかしら? 環境を変えるのもいいのかもしれないわ?」 艶やかな優しく微笑むロザリアに、アンジェリークははっとする。 きっと、アリオスの担当を外され、彼女がここの所ずっと落ち込んでいたことを、彼女は察したのだろう。 その暖かい気持ちに触れると、嬉しくなる。 環境を変えるのも、いいかもしれない・・。 産婦人科は病棟が違うし、ここから少し離れてるし・・・。 彼女の深い決意が固まる。 「はい、移らせて頂きます、婦長!!」 ロザリアが満足げに微笑んでくれるのに、彼女は心が少しは救われるような気がした。 新しい環境は、きっと自分にとってプラスになるだろう。 そう思わずにはいられなかった。 ------------------------------------------ 一方のアリオスは、あの笑顔にあえなくなってから、かなり憔悴していた。 自分から望んだこととはいえ、心の奥が膿んでいるような気がする。 仕事もこなしているとはいえ、いつもの調子は出ない。 どうしてだ・・・・。 「アリオス先生、いますか?」 嬉しそうにリモージュがやってきて、アリオスは不機嫌そうに眉根を寄せる。 「何だ、俺は忙しいから、手身近に頼むぜ?」 「なんです! 折角いいこと教えにきたのに」 「なんだ?」 益々アリオスは不機嫌になる。 「この間ね、新人歓迎会があったでしょ? あの時、アンジェったら幹事だから、朝までつき合わされちゃって、私と、オスカーで送っていったんですよ」 「うそだ・・・! 俺は見たんだぜ?」 「二人がアパートに一緒に行ったことですか?」 言い当てられ、アリオスは怪訝そうな顔で彼女を見つめる。 「なぜ?」 「だって、私、オスカーの車から先生がものすごい怖い顔で来るもを運転しているのを見ていたもの」 「おまえ、どうして、さっきから、やつの事を呼び捨てにする?」 「だって、私が婚約者だもん」 その言葉にアリオスは驚愕したように彼女を見る。 「それ、本当か!?」 身を乗り出しながら、彼はリモージュを問い詰める。 いつになく真剣な表情で。 「本当ですよ。うそはつきません。じゃあ、私はこれで」 にこりと兵の微笑を浮かべると、リモージュは部屋を去る。 これで上手くいくといいんだけれど・・・ リモージュが去るなり、アリオスは内線電話を手に取る。 もちろん、ロザリアに電話をするために。 アンジェ! おまえを信じてやれなかった俺を許してくれ!! だが彼の願いは空回りをする。 「ロザリアか? アンジェリークを再び俺の担当にまわしてもらうことは・・・」 「アリオス先生。アンジェリークはもう外科病棟の看護婦じゃないんです。産婦人科に移りました」 彼の耳元でロザリアの言葉が空回りする。 何も耳に入らない。 遅かったのか!? |

コメント
18000番のキリ番を踏まれた卯月様のリクエストで、
「ドクターオスカーと朝帰りをしたナースアンジェを、ドクターアリオスが目撃」です。
裏・表をお任せというリクエストでしたので、まあ、表のサイトなので、表(笑)に。
がっかりした肩はごめんなさいです。
まあ、裏バージョンもしっかりUPしますので気長にお待ちくださいませ!!
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