厳かな空気が流れる行動の中。今日のこの日に学び舎から旅立つ少女たちとそれを見守る大人たち。今日は新たなる過渡での日。卒業式である。胸に造花のスイートピーをつけた卒業生たちは誰もが晴れがましい顔をしていた。
「先輩方、今まで本当にありがとうございました。そして、新しい門出をワタシたち在校生一同がお祝いします。時々は遊びに来て下さいね。以上。在校生代表、レイチェル・ハート」
 読み終えた送辞をまとめると、レイチェルは壇上から一人一人の卒業生に向けるように笑顔を見せて、一礼をすると、大きく拍手が鳴り響いた。
「答辞。卒業生代表、アンジェリーク・コレット」
「はい!」
 名前を呼ばれ、凛とした声で返事をして立ち上がると、アンジェリークは壇上へと上った。深呼吸を一つしてから。アンジェリークは話しはじめた。
「三年前、私たちは大きな期待と僅かな不安を胸に高等部の門をくぐりました……」
 壇上で堂々と答辞を読むアンジェリークの姿に教師や生徒、来賓の目にも素晴らしく映った。歴代の生徒会長の中でも一、二を争う行動力と統率力を持った生徒会長として一目置かれていたアンジェリークは最後のこの日も、真っ直ぐに前を向いていた。
「……です。この三年間の思い出を大切にして、これからの道を歩いて行きたいと思います。以上。卒業生代表アンジェリーク・コレット」
 一瞬の沈黙の後に、割れんばかりの拍手が講堂中に鳴り響いた。
 式が終わると、クラスで集合し、担任から卒業証書を受け取る。スモルニィ女学院は高等部の生徒が多いため、卒業式では総代が代表で卒業証書を受け取り、後は最後のホームルームとして、担任教師が渡すことになっていた。
「えーとですねぇ、あなたがたはこれから様々な道を歩いていきます。その道は一人ひとり違いますが、もし、道に迷うことがあれば、いつでも相談に来て下さいね〜。答えをあげられることは出来ないかもしれませんが、迷い道に明かりを点すことはできますから〜」
 担任のルヴァの言葉で最後のホームルームは締め括られ、生徒からの花束贈呈と写真撮影ですべてが終わる。解散となると涙ぐむ生徒も出て来て。
 教室を出ると、それぞれに写真撮影や後輩達との交流があって。アンジェリークも例外ではなかった。
「アンジェリーク先輩、写真をお願いします」
「アンジェ、写真撮ろう」
 卒業式にはつきものの光景だ。まして、アンジェリークは生徒からの信任の厚い生徒会長だったため、最後の記念にと引っ張り凧だった。そして、こういう場で引っ張り凧なのはアンジェリークだけではなく。
「アリオス先生、一緒に写ってください」
「私も〜」
 人気のある教師も同様だ。特にアリオスは学院の中では若く格好いい男性教師なので、女性と舘に人気が高かった。
「アンジェ、アリオス先生と写真撮ってあげようか?」
 レイチェルの申し出にアンジェリークは少しばかり考えてから、首を振った。
「何人とも撮らせたら、先生も辛いわ。それより、生徒会メンバーで撮ってもらうわ」
「OK!」
 生徒会メンバーを集めると、レイチェルはアリオスを連れて来た。
「結局、この会長殿には最後まで使われるわけだな」
「人聞きの悪いことは言わないでください」
 肩を竦めるアリオスにアンジェリークは突っ込みを入れると、周囲の生徒から笑い声が聞こえる。アンジェリークが生徒会長だった頃に何度も見られた光景。ある意味、名物と化していた。
「二人とも、最後なんだから、いい顔してよ!」
 そう言ってから、レイチェルはシャッターを押した。


 ようやくそれぞれが門出の門をくぐる頃、アンジェリークは生徒会室を訪れた。今の生徒会メンバーがお別れ会を準備するために先に会場のある喫茶店に行ったために今は誰もいない。
「ここともお別れかぁ……」
 生徒会長として過ごしていた時間がやはり一番印章的だ。色々と改革を行ったりしたためもあり、生活の大半を費やしていたかもしれない。
「追い出し会には行かないのか?」
「アリオス先生……」
 誰もいないはずの生徒会室で声をかけられて、少しばかりアンジェリークは戸惑う。
「先生こそ」
「先生、か……」
 呟いて、ゆっくりとアリオスが近づいてくる。
「もう“先生”じゃないだろう? まして、今は二人きりだ」
「……。3月31日までは高校生なんだけどね」
 悪戯っぽくアンジェリークは笑う。
 誰も知らない秘密の恋人同士の顔。二人っきりのときは先生と生徒ではなく、ただの男と女であり、対等の恋人同士。
「アリオス」
「上出来」
 満足げにアリオスは笑うと、ポケットから何かを取り出した。
「ほら。ご褒美と卒業祝い」
「え?」
 戸惑う隙もなく、手の中に押し付けられてたのはキーホルダーのついた鍵、だ。
「これって……」
「俺の部屋の合鍵だ。おまえの通う大学からも近いのは知ってるだろう?」
「うん、まぁね……」
 いくつか有る志望校の中から選んだ理由の一つがそれだった。もっと一緒に過ごす時間が欲しくて。だけど、それは黙っていたはずなのに。
「俺が気づかないわけがないだろう?」
「ばか……」
 嬉しいけれど、なんだか悔しくて。ポスンと、アリオスの胸に顔をうずめる。アリオスはわずかに笑みをもらして、そっと栗色の髪をなでる。


 新しい出発と新しい生活。アンジェリークの手のひらの中の小さな鍵もまた、新しい生活への扉を開ける鍵

コメント From tink with love

「Reasons」様のキリ番GETの際に頂いた一品です。
大好きな学園ものシリーズの「卒業式」です。
勝気アンジェちゃんが凄く可愛いです〜。
そしてカッコいいですね。
これからの二人を、楽しみにしています〜
有難うございました!!

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