桜舞祭だけのジンクス <後編>
『ただ今から、高等部3年生による劇を始めます。
題名(タイトル)は「囚われのRoyal Princess」です』
放送部によるアナウンスが終わると、舞台の幕が上がった。
ストーリーはアクエル王国の第一王女・ルナが国を救う為、
国の東の果てに棲むドラゴン・サンダルフォンの生贄として、王宮から旅立つ場面から始まる。
彼女は、ドラゴン・サンダルフォンの棲む洞窟から程近い塔へと幽閉される。
本来なら、彼女は同盟国であるジブリール王国の第一王子・アルテミス王子の元へ嫁いでいるはずだった。
しかし、それも叶わぬ願いとなった。
それでも、ルナ王女は心から願い続けた。きっと、必ずアルテミス王子が助けてくれる、と。
塔に幽閉されて3日目、決して開くはずのない塔の扉が開いたのだ。
彼女の目の前には、全身黒ずくめの黒衣の騎士がいた。
彼の鎧は返り血を浴びており、彼自身も身体にいくつかの傷があった。
彼はドラゴン・サンダルフォンを倒したのだった。
そこからの場面からはじめよう。
「有り難う御座います、騎士様。何と御礼を申して良いやら・・・・」
アンジェは騎士役に声をかけた。
「アクエル王国第一王女のルナ王女御見受け致します。
どうか、私と結婚してください」
騎士役は片膝をつき、アンジェの左手を取り、指先に軽く口付けをした。
「し、しかし、貴方は何処の何方なのですか? 私には・・・・!」
アンジェは困惑の表情を演じてみせた。
「アンジェ、解かんねぇのか?」
騎士役の口調が突然変わった。
「えっ?」
アンジェは目を丸くした。
「アンジェリーク、俺と結婚してくれ」
騎士役は落ち着いた声ではっきりとアンジェにプロポーズした。
(ま、まさか・・・・・?)
アンジェは恐る恐る騎士の兜を取った。
「え・・・?!」
アンジェは兜を取った騎士役の男性の顔を見て、驚いた。
「えぇ〜〜〜〜〜〜〜!!」
そして、講堂内にいる全生徒と教職員も驚いていた。
騎士役は、何時の間にか、ランディからアリオスに代わっていた。
「ア、アリオス? どうして・・・・・?」
アンジェ自身もかなり驚いていた。
「説明は後だ。アンジェリーク、俺と結婚してくれるか?」
アリオスは、もう一度、アンジェにプロポーズした。
「・・・・はい」
アンジェは少し頬を赤らめて、「YES」と答えた。
「サンキュー、アンジェ」
アリオスはアンジェの唇に軽くキスをした。
「あぁ――――!!」や「えぇ―――――!!」などの驚きや動揺の声が講堂内に響いた。
『静かにして下さ――――い! 私語を慎んで下さ――――い!!』
舞台の隅で進行係のティムカがマイクで私語を慎むよう注意を促した。
「ちょっといいか?」
アリオスは、ティムカからマイクを奪った。
「えっ? ちょっと・・・・」
ティムカはそれを止めようとしたが、無理だった。
『俺は、アリオス=ラグナ=アルヴィースは、彼女を、アンジェリーク=コレットを愛している。
彼女は俺の恋人であり、そして、たった今、婚約者(フィアンセ)となった!!』
アリオスは全校生徒並びに教職員の面前で、恋人宣言並びに婚約発表を高らかに行った。
「ちょ、ちょっと、アリオス・・・」
「いいだろ? これで俺とお前は晴れて公認の恋人だろ?」
アリオスはクッと人の悪い笑みを浮かべた。
「そっ、それは、そうだけど・・・・・」
アンジェは、顔を真っ赤にしていた。
「面白い事になりましたね? ジュリアス」
職員席に座っている女性は、隣に居るジュリアスに話し掛けた。
彼女はつばの大きな帽子が被っており、表情は口元しか見えない。
「これの何処が面白いのですか!! 学院長!!!
アリオスは本校の教師でありながら、自分の教え子であるアンジェリーク・コレットに、
手を出したのですぞ!!この問題は・・・・」
ジュリアスは、かなり怒っていた。
「ジュリアス。私は、この二人の婚約を認めるつもりです」
学院長は淡々とした口調で、ジュリアスにそう告げた。
「な、何ですと!! しかし、学院長!! それでは、我が学院に・・・」
「あの二人は本当に愛し合っています。そんな二人を阻む権利が私達の何処にありますか?」
「し、しかし・・・・」
ジュリアスは説得力のある学院長の言葉に口を閉ざした。
「私は、これから壇上へ上がり、この場を収拾させます。いいですね、ジュリアス?」
「・・・・・・判りました」
学院長は威厳のある口調で言ったので、ジュリアスは渋々了承した。
それから、学院長はスタスタと舞台へ向かった。
「ちょっと、マイクを貸してもらえるかしら?」
学院長は舞台の隅でオロオロとするティムカに声をかけた。
「あっ。はい、分かりました。・・・・・・・・・・・どうぞ」
ティムカはすぐに舞台の袖に引っ込んだが、すぐに戻ってきて、学院長にマイクを手渡した。
『皆さん、静粛に! 静粛に!!』
マイクを通して、学院長の凛とした声が講堂内に響いた瞬間、講堂内はシーンとなった。
『私、聖ミカエル学院 学院長こと、アンジェリーク=ユーノーは、
アリオス=ラグナ=アルヴィースとアンジェリーク=コレットの婚約を認め、祝福します』
「「えぇっ!!」」
学院長の爆弾発言に、アリオスとアンジェは驚き、講堂内もどよめき始めた。
『そして、二人の結婚式を執り行いたいと思います。いいですか、御二方?』
学院長は二人に向かって、ニッコリと微笑んだが、口元しか見ることが出来ないので、
かえって、怖いのである。
「あ、ああ。イイゼ、俺はな」
「私もいいです」
アリオスとアンジェも二つ返事で了承した。
『では、準備等などありますので、今から、30分後に礼拝堂で結婚式を執り行います。
手の空いている生徒の皆さんは準備のお手伝いをよろしくお願いします。
先生方は御指導の方を宜しくお願いします』
学院長は一礼した。
「すごい事になっちゃったね?」
「ああ、そうだな」
「でも・・・嬉しいかな?」
アンジェは嬉しそうに言った。
「何でだ?」
アリオスには、アンジェの言った言葉の意味が解からなかった。
「だって、学校中の皆があたし達の結婚を祝福してくれるんだよ」
アンジェはフフッと笑った。
「あぁ、そうだな」
アリオスは腕の中にいるアンジェの額に軽くキスをした。
「アンジェ、コレつけて」
礼拝堂の花嫁控え室では、アンジェは化粧治しをされていた。
レイチェルは自分の首にしていた、シルバーのペンダントを外し、アンジェの首にかけた。
そのペンダントは、シルバーで雪の結晶をモチーフにしており、結晶の中心にはアクアマリンが埋め込まれている。
「えっ? でも、これはエルンストさんから貰った大切なプレゼントでしょう?」
アンジェはそのペンダントを外そうとしていた。
「イイよ! コレは『サムシング・フォー』の一つだよ!!」
レイチェルはそれを止めた。
「さむしんぐ・ふぉー? 何それ?」
アンジェは、その言葉を初めて聞いたらしい。
「えぇーー!! アンジェ、知らないの??」
レイチェルはかなり面を喰らった。
「・・・・・・うん」
「レイチェル。アンジェくらいの年頃の女の子が知らなくて、当然だよ」
高等部被服教師・オリヴィエはアンジェにメイクをしながら言った。
「オリヴィエ先生、その『サムシング・フォー』って知ってるんですか?」
「ちょっと動かないで。・・・・・・・『サムシング・フォー』って言うのはね、
結婚式の日に花嫁がある4つの物を身に付けると永遠に幸せになれるっていうジンクス、かな?
そんなものがあるのよ」
オリヴィエはアンジェにそう説明した。
「その、ある4つの物って、何ですか?」
「古いもの、新しいもの、人から借りたもの、青いもの、の4つ。
例えば、母から受け継いだパールのネックレスとか、新調したウェディング・ドレス、
親友から借りたアメジストのイヤリング、青色の花を取り入れたウェディング・ブーケとか、かな?」
オリヴィエはアンジェに解かりやすく説明した。
「アンジェの場合は、青いドレスと、あたしから借りたペンダントを身に付けているから、
後は古いものと新しいもの、の2つだね!」
レイチェルは嬉しそうに言った。
「新しいものは何とかなるけど、古いものは、ねえ・・・・・?
オリヴィエは少し言葉を濁した。
「だ、大丈夫です。今、耳に付けているパールのイヤリングは、ママが「劇で使いなさい」ってくれた物だから。
これは、ママがパパから貰った最初のプレゼントだからって」
アンジェはサイドの髪をかき上げ、イヤリングを見せた。
イヤリングは少し小振りのパールが付いており、特にデザインもなく、至ってシンプルなものだ。
「うわぁ、カワイイ―!!」
レイチェルはそれを見て、感嘆した。
「アンジェにはピッタリだよ!!さぁ、出来たよ。アンジェ、綺麗だよ。
なんたって、私がメイクメイクしたんだからね!」
オリヴィエは片目だけウィンクして、自信たっぷりに言った。
『コンコン』と花嫁控え室のドアをノックする音がした。
「ハァーイ」
レイチェルはドアに駆け寄った。
「入ってもいいかな?」
レイチェルがドアを開けると、そこにはランディが立っていた。
「アレッ? ランディ、どうしてココに?」
「これをアンジェに渡すようにって学院長先生から」
ランディは手に持っていた白い花のブーケをレイチェルに手渡した。
「わぁ、カワイイ!! アンジェもこっちに来て見てよ!」
レイチェルはアンジェを手招きした。
「えっ、何? わぁ、綺麗なブーケ。ありがとう、ランディ」
アンジェはランディに微笑みかけた。
「ア、アン、アンジェのほうが、その、キレイ、だよ・・・・・・」
ランディは顔を真っ赤にして、アンジェに言った。
「ありがとう、ランディ。お世辞でも嬉しい♪」
アンジェはランディの御礼を述べた。
ランディはずっとアンジェのことが好きだった。
しかし、それも完っっ璧な片想いで終わってしまう。
アンジェには、ランディの想いは通じてはいなかったのだった。
「じゃ、俺はこれで」
ランディはそう言うと、花嫁控え室から走り去っていった。
「スノードロップとスズラン、か・・・・イイ組み合わせじゃない?」
オリヴィエはレイチェルが手に持っているウェディング・ブーケを見て、そう言った。
「オリヴィエ先生、この花の花言葉を知っているんですか?」
アンジェは、オリヴィエに尋ねた。
「ほんの少しだけね。スノードロップは『希望』で、スズランは、確か『純潔』とか『幸福が戻ってくる』
っていう花言葉をもっているんだよ。ウェディング・ブーケにはピッタリの花だよ」
オリヴィエは、アンジェとレイチェルにそう説明した。
『コンコン』とドアをノックする音がした。
「時間ですよ、アンジェ」
やって来たのはティムカだった。
「うん。ありがとう、ティムカ」
アンジェはティムカとレイチェルに付き添われて、礼拝堂へと向かった。
「アリオス=ラグナ=アルヴィースよ。汝は、このアンジェリーク=コレットを妻とし、
病める時も健める時も、生涯愛し続ける事を誓いますか?」
礼拝堂の祭壇では、牧師のルヴァがアリオスとアンジェの婚儀を執り行っていた。
礼拝堂は中等部と高等部の全生徒と教職員が参列していた。
堂内はルヴァの声だけが響いていた。
「誓うぜ」
アリオスはそうはっきりと答えた。
「では、アンジェリーク・コレット。汝は、このアリオス=ラグナ=アルヴィースを夫とし、
病める時も健める時も、生涯愛し続ける事を誓いますか?」
「・・はい、誓います」
アンジェはヴェールでよく顔が見えないが、少し照れて答えた。
「では誓いのキスを」
ルヴァがそう言うと、アリオスはアンジェのヴェールを上げて、唇に軽くキスをした。
「では、指輪の交換を」
「あぁ、分かった」
アリオスはポケットから小さな箱を取り出し、更にその中から指輪を取り出した。
指輪はシルバーのリングで天使の羽をモチーフにしており、
その羽の中心にはアンジェの瞳の色と同じ小さなサファイアが埋め込まれていた。
アリオスはアンジェの左手を取り、左手薬指に指輪をはめた。
「えー、おめでとう御座います。アリオス、アンジェリーク、末永く御幸せに」
ルヴァがそう言い終わると同時に、礼拝堂内は拍手と歓声が湧き起こった。
一部には悲しむ声もあったが・・・。
そして、式は何事もなく終わった。
以来、この出来事は聖ミカエル学院の幸せ伝説となった。
それから、この出来事から、こんなジンクスも生まれた。
『桜舞祭の劇で男女のカップルが主役を演じると、その二人は永遠に幸せになれる』と。
<おしまい>
<後書き>という名の言い訳
はじめまして、サリアと申します。
私の長い長い創作を読んでいただき、真に有り難う御座います。(ペコペコ)
今回はtink様からのリクエストが私に任せるのだったので、好きなように書かせていただきました。
お気に召したでしょうか?(不安)
今回のお話のテーマは、はっきりいって、ありません。(マジで)
勢いだけで書きました。
ここで、お話の中に出てきた言葉などにういて解説したいと思います。
まず始めに、ランディの名字「ウィンディ」は「風」を意味します。
何故なら、ランディは「風」の守護聖だからです。(笑)
次に、聖ミカエル学院 学院長・アンジェリークの名字「ユーノー」は、
ローマ神話の結婚の女神ユーノーから採用しました。
因みに6月のJuneは彼女の名・Junoから因んだとされています。
それから、レイチェルが言っていた「ティタナエル」は、本当は女神ではなく天使の名前で、
日本語に訳すと「未来の天使」となります。お間違いのなく。
それと、劇の題名「捕らわれのRoyal Princess(ロイヤル・プリンセス)」は直訳すると「捕らわれの王女」となります。
Princessだけだと、王女、女王、公爵夫人と多数の意味を持つため、Royalを付けると王女だけの意味を持つので、
こちらを採用しました。あとは、ウェディング・ブーケに使われたスノードロップとスズランの花言葉について、です。
スノードロップは別名「雪の雫」、「雪の花」或いは「待雪草(まつゆきそう)」とも呼ばれています。
花言葉は「希望」、「慰め」、「恋の最初のまなざし」です。スズランは別名「君影草(きみかげそう)」、「谷間の姫百合(ひめゆり)」とも呼ばれ、
英名では「リリー・オブ・ザ・バレー(訳:谷間の百合)」と呼ばれています。
漢字表記では「鈴蘭」と書きます。
2つの花の開花時期は2〜3月と重なっているので、使わせていただきました。
参考になったでしょうか?(というより、長すぎ;;)
あとは「桜舞祭」は「おうぶさい」と読みます。(ふり仮名、付けるのを忘れてました;;)
ではまた。

FROM TINK WITH LOVE
サリア様!また素敵なお話をありがとうございました。!!
アリオスのプロポーズシーンなんて最高です。
昨日私が、「待ってます」とメールをさせていただいたら、送っていただけるなんて!!
ホントtinkは幸せもん。
本当に素敵なお話を有難うございました!!
サリア様ブラヴォ〜!!!!