In The Sky

1


 初めて見た時から、俺のものにしたかった。
 他人のものである概念は全くなかった…。
 あいつと俺は以前はひとつだった・・・。
 そう思えるほど、魂が揺さぶられる出会いだった------
 離さない…。
 絶対に俺はあいつを離さない・・・。
 地獄の果てまで、あいつがさえいれば平気だ・・・。

 名門ホテルの一室で、アンジェリークは正式に婚約者の家族との顔合わせをしていた。
「アンジェリークさん、本当はここに弟のアリオスを呼ぶはずだったんですが・・・」
 少しだけ怒りを滲ませて、アロイスは呟いた。
 アリオスが名門アルウ゛ィースの異端児であることを、アンジェリークは薄々と感じとる。
 なぜだか忌ま忌ましいもののように扱う家族たちが、彼女には理解できなかった。
「待たせたな?」
 堂々と遅刻をしてきて、悪びれる様子などなく、アリオスは席についた。
 見事な銀色の髪と、黄金と翡翠の瞳が印象的な、長身の青年。
 そのしなやかな身のこなしに、アンジェリークは心奪われた。
 場違いとも取られる黒いライダース・ジャケットにヘルメット姿がとても様になっている。
「これが私の腹違いの弟アリオスです・・・」
 アロイスは厄介ものを紹介するように言い、アンジェリークはそれが気になってしょうがない。

 どうして・・・。
 家族なのに、兄弟なのに・・・。

 アンジェリークはちらりとアリオスを見つめ、彼もまた彼女を見つめた。
 それはほんの一瞬だったかもしれない。
 だが、ふたりにとってはとても長い時間のように感じられた。
「アリオス、私の婚約者のアンジェリークだ」
「よろしく、アンジェリーク」
「よろしく・・・お願いします、アリオスさん・・・」
 アンジェリークは頭を下げた後も、じっと彼を見つめていた。
 運命の歯車が動き始めた。

 もともとは、親同士が決めた縁談だった・・・。
 だけどそれが、私に運命の出会いをもたらしてくれた・・・。

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 結納も済ませ、幸せに向かうはずなのに、アンジェリークの心は晴れなかった。
 学校から家までの帰り道、彼女はゆっくりとした歩調で歩いている。
「・・・!」
 ぼんやりとしていたからだろうか。
 不意に、アンジェリークの目前に車が迫っていた。
「あぶねえ!」
 気付いたときには、逞しい腕に包まれ、アンジェリークは道路の脇に連れていかれる。
 ようやく落ち着いたように呼吸をしながら顔を上げると、昨日会ったアリオスが、助けてくれたのにようやく気がついた。
「有り難う、アリオスさん・・・」
「ぼんやりとしてんなよ?」
「・・・あっ・・・」
 彼が腕を放したときに、なぜだか切なかった。
「しっかりと、前を見て歩くんだぜ?」
「はい」
 アンジェリークはこんなに男性と近付いたことはなかったので、少しだけ緊張して頬を赤らめる。
 それは何故か嫌な感じがしなかった。
 その初々しさに、アリオスは目を離すことは出来ない。
「有り難うございました」
「ああ」
 一瞬、ふたりは見つめ合う。
 ”魂から惹かれ合う”ように、心から求め合った。
「送る」
「あ、有り難うございます・・・」
 素直に礼を言える。
 人見知りの激しいアンジェリークにとっては、これはとても珍しいことであった。
「俺、そこにバイク止めてるから、後ろに乗れよ? メットはあるから」
「はい」アリオスに着いていくと、そこには立派なバイクが止めてあり、アンジェリークはそれを凄いことのように眺めた。「ほら」
 ヘルメットを投げられて受け取ると、アンジェリークはそれを戸惑いながら被る。
「カバン貸せよ? 中に入れるから」
「はい」
 アンジェリークは、アリオスに鞄を渡すと、彼はそれを収納してくれた。
「有り難うございます」
「ああ。乗れよ」
「はい」
 正直、バイクに乗るのは初めてで、戸惑いもあったが、目を強く瞑りながら、シートにまたがった。
「あんた、家はどこだ?」
「”エンジェルタウン2丁目”」
「オッケ。しっかりと掴まっていろよ?」
 そう言われると、アンジェリークはアリオスの広い背中を意識してしまう。
 彼の背中は、本当にうっとりとしてしまうほど、逞しくて広かった。
「ほら、もっとしっかりと掴まれよ」
「あっ・・・」
 腕を強く掴まれて、アンジェリークは甘い声を一瞬上げる。
「しっかりと掴まれよ、アブねえからな?」
「はい・・・」
 小さな身体をぎゅっとアリオスに付けて、アンジェリークは、しっかりと掴まった。
「そのまま、放すなよ? いいな」
 それだけを言うと、アリオスはエンジンをかけて、バイクは走りはじめる
「俺は安全運転だからな? 安心しろ」
「はい」
 意外とバイクは揺れが少なく、風が切れて心地が良かった。

 きもちいいな・・・。

 信号でバイクがゆっくりと止まる。
「なあ、このまま海に行かねえか?」
「え?」
 家に帰っても、さしてやることもない。
 それよりも、何故だかアリオスのそばにいたかった。
 心が熱望していた。
「はい、行きたい・・・」
「オッケ」
 アリオスの魅力をあらがうことが出来なくて、頷いたアンジェリークに、彼は僅かに微笑みを浮かべる。
「最高の秋の海を見せてやる」
「有り難う、楽しみよ」
 アリオスの背中に掴まりながら、アンジェリークもまた、口許に笑みを浮かべていた-----


 バイクは、エンジェル海岸に着いたのは、出発してから1時間ほどしてだった。
 既に夕陽の時間だ。
 秋はだんだん日も短くなっている。
「着いたぜ?」
「うわあっ!」
 バイクから降りるなり、アンジェリークは海に向かって歓声の声を上げる。
「凄い! 綺麗だわ!」
 秋の海は少し侘しい感は否めないが、それでもアンジェリークは、この雰囲気が好きで堪らなかった。
 夕陽を見て笑いながら駆け回る彼女は、本当に天使のようだとアリオスは思う。
 輝く彼女は、昨日逢ったときよりも数倍も美しく、魅力的に思えた。

 アンジェリーク・・・。
 俺は・・・、あんたをこのままあいつのものにしたくない!!!

 海に向かって駆けていくアンジェリークを、アリオスは見守るように後ろから着いていく。
「余り走るなよ? 転ぶからな?」
「大丈夫!!」
 が、はしゃぎ過ぎたのか、そのまま足を砂浜に取られる。
「あっ!!」
「ほら、言わんこっちゃないっ!」
 アリオスは素早くアンジェリークに腕を伸ばすと、彼女が躓いてこける寸前で捕まえ、腕の中で体勢を整えさせる。
「有難う・・・」
「ったく、あぶなっかしいお嬢サマだな?」
 喉を鳴らすようにして笑われて、アンジェリークは真っ赤になりながらも、頬を膨らませる。
「だって…」
 子供のような仕草の彼女のほうが、昨日の彼女よりも、アリオスにとっては数倍好ましかった。
「------あんた、そうやってるほうがあんたらしいと俺は思うぜ?
 そのほうが魅力的だしな・・・?」
「アリオスさん・・・」
 アンジェリーク真っ赤になりながら、アリオスを見つめる。
 こんなふうにほめてもらうことは今まで無かったせいか、彼女は上目遣いで彼を見つめる。
「有難う・・・」
「-----このままのあんたのほうが、素直で魅力的だしな?」
「あっ…」
 アリオスに力を込めて抱き締められて、アンジェリーク葉甘い声を上げて喘いでしまう。
 それがアリオスの心の琴線に触れ、更に強く抱き締めてしまう。
「あんたは最高に可愛い女だぜ?」
「アリオスさん・・・」
 アリオスの顔がゆっくりと近づいてくる。
 アンジェリークの瞳は潤み、アリオスの瞳は深い色が宿っている。
「あんたのこともっと知りたい…」
 低い囁きとともに唇が下りてくる・・・。
 アンジェリークもまた彼を受け入れずにはいられない。
 ふたりは、魂の底で”運命の相手”と確信し、唇をかさねた-----

 私のファーストキス・・・
 夕陽の海をバックに、少し禁断の味がした・・・

 

コメント

『愛した人には決まった相手がいた」シリーズです。
今度はアンジェに決まった相手がいた場合です。
 アリオスさん、かなり「夏の嵐」な男になる予定です。
こちらも凄く書くのが楽しみだったりします!!

わ〜ん!!
アリ×コレ万歳〜!!!!!

モドル ツギ