初めて見た時から、俺のものにしたかった。 他人のものである概念は全くなかった…。 あいつと俺は以前はひとつだった・・・。 そう思えるほど、魂が揺さぶられる出会いだった------ 離さない…。 絶対に俺はあいつを離さない・・・。 地獄の果てまで、あいつがさえいれば平気だ・・・。 名門ホテルの一室で、アンジェリークは正式に婚約者の家族との顔合わせをしていた。 「アンジェリークさん、本当はここに弟のアリオスを呼ぶはずだったんですが・・・」 少しだけ怒りを滲ませて、アロイスは呟いた。 アリオスが名門アルウ゛ィースの異端児であることを、アンジェリークは薄々と感じとる。 なぜだか忌ま忌ましいもののように扱う家族たちが、彼女には理解できなかった。 「待たせたな?」 堂々と遅刻をしてきて、悪びれる様子などなく、アリオスは席についた。 見事な銀色の髪と、黄金と翡翠の瞳が印象的な、長身の青年。 そのしなやかな身のこなしに、アンジェリークは心奪われた。 場違いとも取られる黒いライダース・ジャケットにヘルメット姿がとても様になっている。 「これが私の腹違いの弟アリオスです・・・」 アロイスは厄介ものを紹介するように言い、アンジェリークはそれが気になってしょうがない。 どうして・・・。 家族なのに、兄弟なのに・・・。 アンジェリークはちらりとアリオスを見つめ、彼もまた彼女を見つめた。 それはほんの一瞬だったかもしれない。 だが、ふたりにとってはとても長い時間のように感じられた。 「アリオス、私の婚約者のアンジェリークだ」 「よろしく、アンジェリーク」 「よろしく・・・お願いします、アリオスさん・・・」 アンジェリークは頭を下げた後も、じっと彼を見つめていた。 運命の歯車が動き始めた。 もともとは、親同士が決めた縁談だった・・・。 だけどそれが、私に運命の出会いをもたらしてくれた・・・。 ---------------------------- 結納も済ませ、幸せに向かうはずなのに、アンジェリークの心は晴れなかった。 学校から家までの帰り道、彼女はゆっくりとした歩調で歩いている。 「・・・!」 ぼんやりとしていたからだろうか。 不意に、アンジェリークの目前に車が迫っていた。 「あぶねえ!」 気付いたときには、逞しい腕に包まれ、アンジェリークは道路の脇に連れていかれる。 ようやく落ち着いたように呼吸をしながら顔を上げると、昨日会ったアリオスが、助けてくれたのにようやく気がついた。 「有り難う、アリオスさん・・・」 「ぼんやりとしてんなよ?」 「・・・あっ・・・」 彼が腕を放したときに、なぜだか切なかった。 「しっかりと、前を見て歩くんだぜ?」 「はい」 アンジェリークはこんなに男性と近付いたことはなかったので、少しだけ緊張して頬を赤らめる。 それは何故か嫌な感じがしなかった。 その初々しさに、アリオスは目を離すことは出来ない。 「有り難うございました」 「ああ」 一瞬、ふたりは見つめ合う。 ”魂から惹かれ合う”ように、心から求め合った。 「送る」 「あ、有り難うございます・・・」 素直に礼を言える。 人見知りの激しいアンジェリークにとっては、これはとても珍しいことであった。 「俺、そこにバイク止めてるから、後ろに乗れよ? メットはあるから」 「はい」アリオスに着いていくと、そこには立派なバイクが止めてあり、アンジェリークはそれを凄いことのように眺めた。「ほら」 ヘルメットを投げられて受け取ると、アンジェリークはそれを戸惑いながら被る。 「カバン貸せよ? 中に入れるから」 「はい」 アンジェリークは、アリオスに鞄を渡すと、彼はそれを収納してくれた。 「有り難うございます」 「ああ。乗れよ」 「はい」 正直、バイクに乗るのは初めてで、戸惑いもあったが、目を強く瞑りながら、シートにまたがった。 「あんた、家はどこだ?」 「”エンジェルタウン2丁目”」 「オッケ。しっかりと掴まっていろよ?」 そう言われると、アンジェリークはアリオスの広い背中を意識してしまう。 彼の背中は、本当にうっとりとしてしまうほど、逞しくて広かった。 「ほら、もっとしっかりと掴まれよ」 「あっ・・・」 腕を強く掴まれて、アンジェリークは甘い声を一瞬上げる。 「しっかりと掴まれよ、アブねえからな?」 「はい・・・」 小さな身体をぎゅっとアリオスに付けて、アンジェリークは、しっかりと掴まった。 「そのまま、放すなよ? いいな」 それだけを言うと、アリオスはエンジンをかけて、バイクは走りはじめる 「俺は安全運転だからな? 安心しろ」 「はい」 意外とバイクは揺れが少なく、風が切れて心地が良かった。 きもちいいな・・・。 信号でバイクがゆっくりと止まる。 「なあ、このまま海に行かねえか?」 「え?」 家に帰っても、さしてやることもない。 それよりも、何故だかアリオスのそばにいたかった。 心が熱望していた。 「はい、行きたい・・・」 「オッケ」 アリオスの魅力をあらがうことが出来なくて、頷いたアンジェリークに、彼は僅かに微笑みを浮かべる。 「最高の秋の海を見せてやる」 「有り難う、楽しみよ」 アリオスの背中に掴まりながら、アンジェリークもまた、口許に笑みを浮かべていた----- バイクは、エンジェル海岸に着いたのは、出発してから1時間ほどしてだった。 既に夕陽の時間だ。 秋はだんだん日も短くなっている。 「着いたぜ?」 「うわあっ!」 バイクから降りるなり、アンジェリークは海に向かって歓声の声を上げる。 「凄い! 綺麗だわ!」 秋の海は少し侘しい感は否めないが、それでもアンジェリークは、この雰囲気が好きで堪らなかった。 夕陽を見て笑いながら駆け回る彼女は、本当に天使のようだとアリオスは思う。 輝く彼女は、昨日逢ったときよりも数倍も美しく、魅力的に思えた。 アンジェリーク・・・。 俺は・・・、あんたをこのままあいつのものにしたくない!!! 海に向かって駆けていくアンジェリークを、アリオスは見守るように後ろから着いていく。 「余り走るなよ? 転ぶからな?」 「大丈夫!!」 が、はしゃぎ過ぎたのか、そのまま足を砂浜に取られる。 「あっ!!」 「ほら、言わんこっちゃないっ!」 アリオスは素早くアンジェリークに腕を伸ばすと、彼女が躓いてこける寸前で捕まえ、腕の中で体勢を整えさせる。 「有難う・・・」 「ったく、あぶなっかしいお嬢サマだな?」 喉を鳴らすようにして笑われて、アンジェリークは真っ赤になりながらも、頬を膨らませる。 「だって…」 子供のような仕草の彼女のほうが、昨日の彼女よりも、アリオスにとっては数倍好ましかった。 「------あんた、そうやってるほうがあんたらしいと俺は思うぜ? そのほうが魅力的だしな・・・?」 「アリオスさん・・・」 アンジェリーク真っ赤になりながら、アリオスを見つめる。 こんなふうにほめてもらうことは今まで無かったせいか、彼女は上目遣いで彼を見つめる。 「有難う・・・」 「-----このままのあんたのほうが、素直で魅力的だしな?」 「あっ…」 アリオスに力を込めて抱き締められて、アンジェリーク葉甘い声を上げて喘いでしまう。 それがアリオスの心の琴線に触れ、更に強く抱き締めてしまう。 「あんたは最高に可愛い女だぜ?」 「アリオスさん・・・」 アリオスの顔がゆっくりと近づいてくる。 アンジェリークの瞳は潤み、アリオスの瞳は深い色が宿っている。 「あんたのこともっと知りたい…」 低い囁きとともに唇が下りてくる・・・。 アンジェリークもまた彼を受け入れずにはいられない。 ふたりは、魂の底で”運命の相手”と確信し、唇をかさねた----- 私のファーストキス・・・ 夕陽の海をバックに、少し禁断の味がした・・・ |
コメント 『愛した人には決まった相手がいた」シリーズです。 今度はアンジェに決まった相手がいた場合です。 アリオスさん、かなり「夏の嵐」な男になる予定です。 こちらも凄く書くのが楽しみだったりします!! わ〜ん!! アリ×コレ万歳〜!!!!! |