「踊りたい・・・。アリオスさんの前でいっぱい踊りたい・・・!」 少し身を乗り出すような格好で、彼女はしっかりと頷く。 「だったら踊ってくれ? すげえ楽しみだ」 「はい」 アリオスがしっかりと踊りを観てくれるのは、判っているから。たったひとりの観客でもしっかりと踊ることが出来る。 「どこでも踊ります。お客様がいるところが、ステージですから!」 「ああ、楽しみにしてる」 アリオスはしっかりと頷くと、優しい眼差しを彼女に向けた。 デザートも食べ終わり、レストランを出たのは、10時前だった。 「送る」 「はい」 アリオスの言うことには、素直に返事ができる。 あんなに反発を感じていたのが信じられない。 彼のスポーツカーに乗り込んで、アンジェリークはシートにゆったりと躰を預けた。 「何だかシンデレラの気分が判ります。シンデレラは、家路に着くときにこんな気分だったんじゃないかって・・・」 「魔法が解ける切なさか・・・」 コクリと彼女が頷くと、切なげに俯く。 「今日の全てが素敵な魔法のように思えてしまうんです・・・」 「じゃあ、俺は魔法使いのジィさんだ」 アリオスの茶化すような言葉に、アンジェリークは思わず吹き出した。 「そんなことありませんよ、アリオスさんは・・・」 言いかけて、アンジェリークは真っ赤になる。 本当は”皇子様”と言いたかったものの、恥かしくて、とてもでないが言えない。 「俺がなんだ?」 声に少しの甘い戯れが滲み出ている。 「・・・その、あの・・・」 益々小さくなって応えるアンジェリークが愛らしくて堪らなかった。 「まあ、今度聞く」 「はい・・・」 躰を小さくして、頭の上から湯気を出している彼女を、本当にし抱き締めてやりたかった。 「あ・・・、雪」 アンジェリークの家が近付くにつれて、闇に白いものが下りてくる。 彼女は、心からの歓声をあげた。 「綺麗・・・」 「凄くな」 不意に近くの児童公園が目に入る。 「アリオスさん! あの公園がステージでもかまいませんか!? 私、小さい頃、ここで練習していたんです。 ・・・シンデレラの魔法が解ける前に、ここで踊りたい・・・」 それはアンジェリークの切なる願いだった。 この精一杯の背伸びをしたまま、美しい装いでアリオスの前で踊りたい。 「かまわねえよ。車を止めよう」 児童公園の前に、ゆっくりと車が止まった。 ふたりは車から降り、公園の中に入っていく。 遊具もそれほどない公園で、丁度いい。 「アリオスさんはブランコに座って! これが特等の客席ね!」 はしゃぐアンジェリークに、アリオスも気分が良くなる。 アリオスはブランコに腰を下ろすと、アンジェリークは彼の前に姿勢良く立つ。 白い雪が公園の街灯に揺れて、とても幻想に映っている。 とても美しく、アリオスは魅入られる。 彼女は優雅に礼をすると、しなやかに右手を上げて踊り出す。 雪の中でステップを踏む姿は、妖精のように美しく、可憐だ。先ほど観た、バレエのステップを上手く取りいれ、軽々と初々しいダンスだ。 はかなげな美しさで、このまま消えてしまいそうなアンジェリークをこの場で掴まえたいとすら思う。 公園が最高のステージになる。 アリオスはただじっとアンジェリークを見つめていた。 一瞬の瞬きすらも、惜しいと思う。 彼が恋い焦がれて止まない天使を、ただじっと見つめるだけ。 天使は羽根を広げ、精一杯の跳躍をする。本当に闇を飛んでいるように見える。 照明は街灯だけかもしれないが、それがかえって美しかった。 やがて、天使は闇の中に着陸をする。 ゆっくりとしなやかに、地上に降りた------ しばらく、闇の中の深の静寂が起こる。 アリオスは立ち上がると、静寂を切り裂くかのように激しく拍手をし、最高の称賛を行った。 「今日の最高のパフォーマンスだ」 「アリオスさん・・・」 息を乱しながら、素直に称賛を嬉しく思った。 「今日のプリマは計算された美しさだったが、おまえは本当にどれも自然で素晴らしかった」 「有り難う・・・」 アリオスは優しい表情を浮かべると、アンジェリークの頬を指先で触れる。 「冷てえな・・・」 「あっ・・・」 指先の繊細な優しさに、甘い声を上げながら瞳を閉じた。 「サンキュ。最高だ・・・」 今度は温かな手のひらで頬をそっと包みこむと、ゆっくりと温めてやる。 「アンジェリーク、寒そうだな」 「・・・寒いです」 「温めてやるよ」 同意の証しにコクリと頷くと、アリオスは力強く抱き締めてきた。 温かな彼を躰いっぱいで受け止める。 「唇も冷てえな・・・」 アリオスは親指を唇にそっと這わせると、唇を近付ける。 「温めてやるよ・・・、唇も」 アンジェリークが目を深く閉じると、彼は甘く深く唇を奪った。 すべてを奪うようなキスに、彼女は意識も思いすらも奪われる。 ファーストキスの時とは比べ物にならないぐらいの、甘い電流が駆け巡った。 唇を離された後も、アンジェリークはアリオスにすがりついたまま。甘く満足げな溜め息をひとつ吐くと、彼女は彼の精悍な胸に顔を埋める。 「・・・なってもいいよ・・・、あなただけの女に・・・」 最後は聞き取られないような小さな声で、彼女は囁いた。 「サンキュ、最高に幸せにするから…」 彼は嬉しさの余り、強く華奢な躰を抱き締める。 「------愛してる…。 おまえが俺にとっては最高のプリマで、最高の女だ…」 「アリオス…! 私も愛しています・・・」 最後の言葉は嬉し涙が滲んでいる。 アンジェリークは甘い吐息をつきながら笑うと、アリオスがキスで想いを伝えてくれた。 最悪の出会い方をした二人だったが、今、ようやくお互いの気持ちに素直になることが出来た。 1年後------ アンジェリーク・コレットはオペラ座でエトワールの座を射止めた。 好評を博し、将来を嘱望されていたが、その日から舞台から姿を消した------ 数年後、アルヴィース夫人として社交界に姿を現した彼女は、現役時代よりも美しさを増していた アリオスに一身に愛され、小さな息子たちを囲んで、それはそれは幸せだという----- |
コメント 135000番のキリ番を踏んでいただいた、桜井吹雪様のリクエストで、 「アリオスは一目惚れ、アンジェはアリオスが大嫌い」です。 ようやく幸せになりました。 やっぱりアンジェには、アリオスが一番ですね〜。 |