いつか王子様がやってきて、私をさらって行ってくれる。 ふたりは、白くて小さな家に住んで、子供はふたり。 男の子と女の子。いつまでも笑いあって、明るく楽しく幸せに暮らす・・・。 女の子なら誰でも持っている”夢”。 だけど現実はそんなことはないのは判っているつもりだけれど、願わずにはいられない・・・。 優雅な音楽に合わせて、ステップを踏む。 白いチュチュと背中には白い羽根。 ゆらゆらとそれを揺らしながら、スポットライトの影で、アンジェリーク・コレットは踊っていた。 子供の夢はとても欲張りで、いくつも夢を見てしまう。 最後に掌に残ったのは、王子様がさらってくれることとバレエで”エトワール”になること。 後者はもう叶いそうにないかもしれない。 所属バレエ学校のメイン公演でスポットライトに一度も当たらないのだから、仕方がない。 ようやく公演が終わり、息が吐く間もない中、アンジェリークたち団員は、スポンサーやバレエ関係者を招いての懇親会に出席をする。 アンジェリークの目的は、もちろん食い気だ。 誰もが体型などを気にしてあまり食べないのにも関わらず、彼女は美味しいものは素直に食べた。 「おい」 聞き慣れない声に呼び止められて、アンジェリークは振り向いた。 銀の髪と黄金と翡翠が対をなす不思議な瞳が印象的な青年が、不遜な笑みを浮かべて立っている 正直、整った容貌が印象的な青年だ。 「今日の妖精の舞は印象的だったぜ?」 「あ、有り難うございます」 素直に感想を述べてくれるのは嬉しかった。 「でもよく判りましたね? 私はスポットライトのはじのほうで踊っていますのに…」 「輝いてたら、スポットから離れていようが関係ねえぜ?」 「有難うございます…」 青年のストレートな言葉に、っ少しはにかみながら、アンジェリークは礼を言う。 「あんたにだ」 「あ、有難うございます!」 白い薔薇の蕾の花束を貰い、彼女は夢見ごこちになる。 こんなプレゼントなど貰ったことはなかったせいか、本当に飛び上がるほど嬉しかった。 「どうも有難うございました…。本当に良い香り・・・」 まるで王子様のような身のこなしに思わずうっとりとせずにはいられない。 少し、プレゼントで気が緩んでいたのか、いきなり青年に細い腕を掴まれる。 驚く暇も与えられず、次の瞬間には腕の中に引き寄せられ、唇を奪われた。 「・・・!!!」 硬く少し冷たい唇が、甘く重なる。 嘘…!!!! 私のファーストキス!!! アンジェリークの心の動揺は、計り知れないものがあった。 唇が離された後も、アンジェリークの思考回路は麻痺したまま。 唇がぱくぱくと驚きで動いている。 「…おまえ、俺の女にならねえか?」 全くのストレートな言葉に、開いた口がふさがらない。 ”俺の女”〜!!!! これにはアンジェリークも更に驚いて目を丸くする。 ファーストキスまで奪われ、ショックの上塗り。 夢見ていた「王子様に奪ってもらう」構図が音を立てて崩れてきた。 理不尽な怒りが込み上げてきて、全身をたぎらせる。 「失礼です!!!」 次の瞬間、アンジェリークは花束で青年の顔を殴りつけていた。 その場にいた者誰もが、アンジェリークのしたことに凍り付く 。和やかな会場の空気が一気に緊張に動く。 「コッ、コレットっ!!!」 バレエ団事務局長のパスハが青ざめた表情で、焦るようにアンジェリークを見ていた。 当事者である彼女はというと、目を釣り上げて怒り心頭で周りが見えていない。 青年も、実のところ少しだけ驚いていた。 「あ、あなたがどこのどなたかは知りませんけれど、初対面の女の子にイキナリそんなことをしたり、言うのは最低です! ・・・ファーストキスだったのに・・・」 息と声のトーンを乱しながら、アンジェリークは相当頭にきていた。 顔が紅潮し、アンジェリークは青年に睨みをきかせている。 彼的にはそれがおかしくて、喉を鳴らして吹き出した。 「クッ、おもしれーな、おまえ」 少し長めの銀色の前髪をかきあげる。 笑われたことで、アンジェリークは非常に不愉快な気分になった。 「笑うなんて、失礼です!!」 「怒った顔がそそるぜ?」 「なんですって!」 アンジェリークはますますヒートアップしてくる。 「誰かコレットを止めるんだ!」 パスハはかなりおろおろとしているが、恋人のプリマドンナのサラは落ち着いていた。 「野暮なことはしないの、パスハ。あれは恋の始まりには、良いシチュエーション何だから」 「だがな。うちには重要なスポンサーだぞ? アルウ゛ィースグループは」 だがサラはそんなことは心配はないとばかりに、微笑んだ。 「アリオスがあんなに光速に口説いているもの、きっと一目惚れよ?」 まだ、青年とアンジェリークは見つめ合っていた。 正確には、アンジェリークが三白眼で睨んでいたのが正しい。 「この花いりません。失礼します!」 青年を殴ってばらばらになった薔薇の花を、押しつけると、彼女は肩を怒らせて去っていく。 「ホント、おもしれぇ・・・。惚れ直したぜ?」 アリオスは愉快極まりないとばかりに、喉を鳴らして笑った。 あんな失礼な男性初めてっ! 「アリオスさま。よろしかったのですか?」 アリオスと呼んだ青年の横に、秘書のカインがやってくる。 「あのバレリーナのプロフィールを調べてくれ」 「かしこまりました」 アリオスはじっとアンジェリークを見つめる。 年がいもねえな。この俺が夢中になるなんてな・・・。 一目惚れなんて、信じちゃいなかったのに… アンジェリークはぷりぷりと怒りながら、壁際に向かった。 「ちょっとアンジェ!! あんた良くやったわね!」 同じようにその他大勢の妖精役を演じたレイチェルが、驚いた表情で近付いてくる。 「何が?」 のんびりやのアンジェリークはきょとんとして親友を見る。 「何がって…。アナタ、凄いことしたのに気付かないの?」 「凄いこと? さっきの花で殴ったこと? だって、あれはあっちが悪いもの。セクハラよ…。あんなの」 何も後悔がないとばかりにアンジェリークはきっぱりと言った 「アナタらしいわよ…。うちのバレエ団の最大のスポンサー、アルウ゛ィースの総帥を、薔薇で殴っちゃうんだから」 …え!? 背中に冷たいものが流れ込んでいく。 「嘘っ!!」 「本当よ」 アンジェリークは一瞬青ざめるが、いつもの彼女にまた戻る。 「・・・ぶ、不躾なことしたのはあっちだもん。お金の力で、何とでもなるみたいなこと考える人が、一番嫌い」 アンジェリークは眉間に皺を寄せて、本当に怒っている。 「アンジェ、大したものよね〜。すごい!」 「ありがと」 アンジェリークは苦笑いしながら、レイチェルに礼を言った。 ああいう男性は、本当に大っ嫌い!! 楽しそうに他の団員と話しているアリオスに、心の中で思い切り舌を出してやった。 学校が終わり、いつもの時間にバレイのレッスンに向かう。 「コンニチワ、アンジェリーク・コレットさん」 バレエ学校の入り口で、魅力的な憎たらしい声に呼び止められた。 「何でしょう?」 強張った表情と声で、アンジェリークは振り返る。 サングラスを掛けたアリオスはとても艶やかで、魅せられる。 だが、昨日の表情はやはり解けず、固いままだ。 「レッスンが終わったらデートしねえか?」 「間に合ってます! 私も細々と忙しいですから!!」 「へ〜」 冷たい笑いに、アンジェリークは更に苛々とさせる。 アンジェリークはアリオスを振り切って、中に入ろうとした。 だが、段差につま付いてしまう。 「きゃっ!」 アリオスの腕につかまれて、何とか捕まえて、躓かないように回避してくれる。 そのたくましさに、アンジェリークは一瞬胸をドキリとさせる。 一瞬、無意識に、アリオスに胸をすりつけていた。 「あ、有難う」 胸がドキドキとしていることを悟られたくなくて、アンジェリークは強張った声で、離れようとした。 その緊張した態度に、アリオスは更に喉を鳴らして笑う。 「そんなに硬くなるなよ? あんた相手じゃ、勃たねえから」 「…!!!!」 これにはアンジェリークは顔を真っ赤にし、大急ぎでアリオスから離れる。 「あなたなんか、大嫌いっ!!!!」 強い調子で言い捨てると、アンジェリークは更にプンすかしながらレッスン上に向かった。 「からかいすぎたかな…」 アリオスは苦笑すると、ひとまずはこの場所から退散する。 俺はおまえを諦めねえぜ、アンジェリーク? ステージで見たおまえは本当に妖精に見えたんだから・・・。 あんな綺麗で、純粋な女は初めてだって、思ったから・・・。 -----おまえに一目惚れだ… TO BE CONTINUED |
コメント 135000番のキリ番を踏んでいただいた、桜井吹雪様のリクエストで、 「アリオスは一目惚れ、アンジェはアリオスが大嫌い」です。 今回のアリサン・。・・。 光速どころか…(苦笑) |