「もうレウ゛ィアス!!! 心配したでしょう!!!」 診察室に入るなり、アンジェリークはわが子レウ゛ィアスを強く抱き締めた。 その声に、同じ名前を持つ外科医はびくりとする。 「アンジェリーク・・・」 足は痛むのだが、アンジェリークの抱かれ心地に、レウ゛ィアスはうっとりとした気分になる。 アンジェのおっぱい柔らかくて、最高・・・。我だけの、我だけのもの。 「心配掛けたな、アンジェリーク・・・。そんなに取り乱して、かわいいな」 何だこのガキ・・・! じっと見つめる外科医レウ゛ィアスに、同じ顔を持つ少年が、挑戦的なまなざしを向けた。 ・・・さっきの撤回。こいつには、俺のアンジェを逢わせない!!! この同じ顔をした不敵なガキ(笑)に、新米ママアンジェリークとの愛のひとときを邪魔されたかと思うと、いやおうのない理不尽な怒りが込み上げてきた。 それを何とか理性で押さえる、大人のレヴィアスである。 「診察します」 「あ、はい、先生、宜しくお願いします・・・」 アンジェリークは涙を拭いながら、わが子から離れると、外科医レウ゛ィアスに一礼をした。 その姿が妙に微笑ましく、医師は微笑みを浮かべている。 その微笑みが、ちびっこには気にいらないらしく、むっとしてしまう。 この医者、我のアンジェを狙っている! ぎろりと医者を睨めば、医者は子供相手とばかりに、無視を決め込んだ。 「足出して」 仕方なく、ちびっこレウ゛ィアスは足を医師に差し出す。 「少し痛いかもしれんが、我慢しろ」 一応は警告を発する。外科医であるレウ゛ィアスは、小一にして貫禄が充分な子供の触診を開始した。 「ここは?」 「大丈夫だ」 ゆっくりと足を触って、左足の足首にかかった時、レウ゛ィアスは僅かに顔をしかめた。 「ここだな?」 余りにもの痛みに、尊大なるちびすけは、頷くことしか出来なかった。 泣かないか・・・。いい根性している・・・。 「左足首のレントゲンと、念のために全身のMRIを撮っておいてくれ」 「はい」 レウ゛ィアスがてきぱきと指示をすると、看護婦はレウ゛ィアスの車椅子の後ろに立った。 「レントゲン撮りに行きましょうか! お母様も先生も付いてきて下さい」 看護婦が車椅子を引き、その後をアンジェリークとロザリアが続く。 三人は、レントゲン室に向かった。 「まるで豆台風だ」 賑やかな集団が去った後、静かになった診察室で、レウ゛ィアスは苦笑いしていた。 アンジェリークから、半ばパニックった電話をもらったアリオスは、仕事を切り上げて、スモルニィ大学付属病院にやってきた。 「外科だと聞いてたが、この病院判りにくいな」 いつも喧嘩ばかりしているが、いざという時は、このように駆け付けるところが、アリオスの父親としての良いところでもあった。 だが、半ばパニック状態のアンジェリークが心配だというのも大きいのだが。 表示を見ながら歩いているアリオスを、新米ママのアンジェリークが、見掛けた。 彼女は丁度、娘を抱いて軽い散歩をしようとしていたところだった。 「あの・・・、どうかされましたか?」 優しい聞き覚えのある声に、アリオスは目を凝らした。 アンジェ!? だがよく見ると、彼女の髪は肩まで揃えられ、腕の中には赤ん坊を抱いている。 本当に、アリオスの妻であるアンジェリークに良く似ている。 新米ママであるアンジェリークもまた、アリオスを見て驚きを隠せない。 レウ゛ィアスと双子みたい・・・。髪の色を除けば、本当に良く似ている。 「あ、息子が怪我をしてここに運ばれたと聞いたので」 「息子さんは、スモルニィの生徒さんですか?」 「そうです」 その一言で、アンジェリークはレウ゛ィアスの患者の父親だと悟った。 「どこか判りますから、ご案内します」 「ああ、どうも」 何だか奇妙な気分になりながら、アリオスは新米ママに着いて行く。 しばらく歩いて、彼女の顔が少し明るくなる。 「こちらです」 ノックの音と共に、軽やかな声が響き、レウ゛ィアスは頭を捻る。 アンジェ・・・が、なぜ? 「入ってくれ」 「はい」 赤ん坊を抱く新米ママのアンジェリークに気を遣って、アリオスはドアを開けた。 「すみません、こちらにレウ゛ィアスという男の子が・・・」 「アリオス!!」 後ろから彼の妻のアンジェリークが、声を掛けてきた。 「アンジェ!!」 「アリオス、有り難う来てくれたの!」 夫のとなりにいる、赤ん坊を抱えた、自分とよく似た女性に、アンジェリークは目を丸くする。 そして、大きな瞳に涙を浮かべて、アリオスをにらんだ。 「アリオスの浮気者〜!」 その表情にぎょっとして、アリオスはすぐさま、彼女の視線を追う。 その先は、新米ママの腕の中にいる、赤ん坊。 「違う俺の子じゃねえ!」 「だったらどうして!」 始まってしまった夫婦の修羅場に、新米ママはおろおろするばかりだ。 妻を見兼ねたのと、診察室前のごたごたに、外科医レウ゛ィアスは、立ち上がった。 「その子は俺の子だ。そして抱いている女性は、俺の妻だ」 「レウ゛ィアス・・・」 「とにかく、診察室に。息子さんを診ますから」 アンジェリークは真っ赤になって頭を下げた。 早とちりしちゃった… アンジェの嫉妬か…。 良いもんだな何だか… 「すみません」 「じゃあ私はこれで。子供たちを待たせていますので。足の様子はまたお知らせください。」 担任のロザリアは、そう言うと颯爽と立ち去る。 「有り難うございました!」 アリオスとアンジェリークは、深々と頭を下げて、挨拶をした。 「じゃあ私も部屋に戻りますね」 新米ママもそう言うと、踵を変えそうとした。 その時。 「うわああああん!!」 腕の中にいた赤ん坊が、大きな声を出してくずりはじめる。 「ね、どうしたの? エリス!?」 慌てふためく新米ママに、アンジェリークは優しく微笑みながらアドバイスをした。 「おっぱいを上げたら? きっとおなかが空いているのよ」 「はい・・・」 母親の先輩の言葉に、新米ママは素直に頷いた。 そのタイミングで、看護婦がちびレウ゛ィアスのレントゲンとMRIの解析結果を持ってきた。 「診察をしますから、息子さんをこちらへ。アンジェ、奥の控え室を、エリスの授乳に使え」 「うん…」 アリオスがレヴィアスの車椅子を、診察椅子の近くまでひいてやる。 その後を二人のアンジェリークが続いた。 「じゃあ、レヴィアス、おっぱい上げてみるね?」 「ああ」 新米ママは奥の控え室に、ぐずる赤ん坊とともに消える。 「さてと」 視線で妻を見送った後、レヴィアスは、レントゲンをレントゲン大に移し、先ずはMRIの解析結果を見た。 「先生!?」 アンジェリークは母親特有のいいようのない不安にさいなまれて、心配そうにおろおろとしている。 「「アンジェ…」」 余りにもの彼女の心細そうな態度に、アリオスとちびレヴィアスの親子は同時に、アンジェリークの名を呼び、彼女の身体に手を回す。 本当に同じタイミングだったので、レヴィアスは思わず笑ってしまった。 「他の個所の問題はないです…。 足首も、折れてない…。 これだと、捻挫の少し重いやつでしょう」 奥の部屋から聞こえる我が子の声をBGMに、レヴィアスは淡々と話をする。 その瞬間。 アンジェリークとそしてアリオスの表情にも安堵感が広がる。 「湿布をしておきます。当分の間は歩くのが難しいでしょうから、支えの松葉杖、それと湿布薬も投薬しておきます。後、今夜熱が出るかもしれませんから、解熱剤も出しておきますから」 「有難うございます」 ほっとしたのか、アンジェリークは大きな溜息を付いて、ふっとアリオスの肩に凭れた。 「良かった…」 同時にレヴィアスの娘も泣き止んだ。 新米ママのアンジェリークは、奥の控え室から出てきて、嬉しそうにアンジェリークに頭を下げる。 「有難うございました! おなかがすいていたみたいで、すっかり泣き止みました」 「良かった…」 アンジェリークも自分のことのように嬉しくなる。 「本当に、有難うございます」 「少し抱かせてもらえますか?」 「ええ、どうぞ」 新米ママからアンジェリークの腕にやって来たエリスは、まだ生まれたばかりで、柔らかくて、そして小さい「可愛い〜」 アンジェリークが嬉しそうに目を細めるものだから、アリオストちびレヴィアスもうっとりと彼女の笑顔を見つめる。 レヴィアスは思う。 この手の顔は、皆、あの手の顔がすきなのか…。 まあ、俺のアンジェが世界で一番可愛いが… 「本当に有難う…」 名残惜しげに、アンジェリークは新米ママにエリスを手渡した---- 病院で手続きなどを済ませ、三人は、車で岐路に着いた。 「良かったね、レヴィアス。 もう危ないことはしないでね!」 「判ってる…」 今回の母親の取り乱しようが可愛くて、ほんの少し"美味しい"思いをしたと感じたとは、口に出してもいえないレヴィアスである。 「でも可愛かったな〜、赤ちゃん!!」 「クッ、おまえ凄く嬉しそうだったからな? 作るか? だったら全面的に協力するぜ」 アリオスの甘い言葉に、アンジェリークは真っ赤になる。 「・・・も・・・ばか!」 「アンジェ!! 今度は俺の子を産むんだろ! こんな耄碌止めて、俺にしろ? 俺の将来は、今日の外科医みたいになるぞ? 招来有望だ」 レヴィアスは言葉をもって、父に対抗した。 だが、大人も彼は余裕で…。 「種もねえくせに、そんなことをいううんじゃねえぜ」 「何!?」 車内はいつものバトルモードに突入する。 「もう!!! 二人とも止めなさい!!!」 アンジェリークのいつもの怒鳴り声が車内に響き、バトルを止めさせる魔法の威力を発揮するのであった。 「今日の親子連れ、おもしろかったわね」 「ああ」 診療がすんで、レヴィアスは妻のいる病室に戻った。 シャワーつきのこの病室は、彼女が退院するまでは、レヴィアスの"家"と化している。 「憧れちゃうな、あんなうるさい家族」 アンジェリークはふふっと思い出し笑いをしながら、夫に甘えて凭れる。 「・・だったら、たくさん子供を作らないとな?」 艶やかな微笑を浮かべながら静かに話す夫に、アンジェリークはそっと定番の言葉を囁いた。 「…バカ…」 |