「親分、あの木に俺のカイトが…」 木を見上げながら、泣きそうな顔をしているゲルハルトに、レヴィアスは大きな溜息をつく。 「で…、我に登れと…」 「おやび〜ん!!」 レヴィアスは、木と情けない子分を見つめながら、ふうと溜息を吐く。 まあまあの高さだな…。 「レヴィアス様、ここは私からもお願いします…」 「・・しょうがないな…」 手下の不始末にレヴィアスは舌打ちをしながらも、木にするすると登り始める。 やはり、一年生にして学校一の頭脳と運動能力があると知られているレヴィアスは、簡単に木を登りきってしまった。 「おい、このカイトだな?」 「親分、有難うございます〜」 感激しているゲルハルトを尻目に、レヴィアスはカイトを簡単に取って、下り始める。 「親分を御迎えに上がらねば!」 ゲルハルトは感激の余り、そのまま木の途中まで登り、レヴィアスを向かえる。 「親分」 「よせっ! 登ってくるな!! 俺が降りられん」 「親分!」 「止めろ!」 「わああ」 ゲルハルトは、そのままバランスを崩し、縋るようにしてレヴィアスの足を掴む。 「おい、よせ、やめろ!」 「わああああ」 「わあ!」 レヴィアスは、そのままゲルハルトに掴まれたまま、木から落ちてしまった---- レヴィアスが先ず地面に落ちその上逃げる春とが落ちてくる。 「…!! っ!!!」 「あ・・・?」 レヴィアスのクッションのお陰で、ゲルハルトは無傷だった。 だが---- 「レヴィアス様!! ゲルハルト!!!」 カインが真っ青な顔をして、おろおろとかけより、、その後のほかの手下もついて来る。 「いやあ、何だ皆? 俺は無事だぜ!」 嬉しそうに仲間を見るゲル春とだが、そのままカインに突き飛ばされる。 「!!!!」 「レヴィアス様!!!」 カインはそのまま倒れているレヴィアスを抱き起こし、心配そうに声を掛ける。 「大丈夫ですか!?」 「…あ…、カインか…、大丈夫だ・・…っ!!!」 足を動かした瞬間、走った激痛に、レヴィアスは思わず顔をしかめた。 「レヴィアス様!!」 その余り物形相に、カインはおろおろする。 「大丈夫だ…」 「あ、ジョヴァンニ、すぐにロザリア先生を!!」 「オッケ〜」 ジョバンニはそのまま職員室にロザリアを呼びに駆けて行った。 「大丈夫ですか!? レヴィアス様!!」 「ああ…」 激痛に遠い目になりながら、レヴィアスは母親のことを考える。 彼が愛してやまない母親のことを---- アンジェ…。 怒るだろうな…。 ----------------------------------- 「ほら、お父さんだエリス」 その頃、外科医レヴィアスは、出産したばかりの妻と生まれたばかりの娘のいる病室で、くつろいでいた。 「もう、レヴィアスったら、ここで働いているのをいいことに、休み時間ごとに飛んできて…」 クスリと微笑みながら、新米ママであるアンジェリークは、娘を抱いている夫を見つめている。 「おまえの顔も見たいのだ…、アンジェリーク…」 「もう…」 娘をベビーベッドに寝かせ、彼は妻のいる大きなベッドに腰掛け、抱きしめる。 「…あ、レヴィアス? 誰か入ってきたら…」 「かまわん…」 「もう…」 わがままな夫に苦笑しながら、アンジェリークは彼の漆黒の髪を優しく撫でる。 「あのね・・・、退院したらお義母さんが、少しの間実家で過ごさないかって…」 「ああ。俺もそのほうがいいと思う。おまえも休めるしな? 俺もあの家から当分は通うから…」 「…うん…」 二人はしっかりと抱き合って、甘いひと時を堪能していた。 親子水入らずのひと時を破ったのは、ノックだった。 「レヴィアス先生! いますか!」 外科の婦長の声に、レヴィアスは仕方ないとばかりに妻への抱擁を解き、ドアを少し睨みつける。 「ああ、入れ」 「しつれいします」 婦長は、レヴィアスが怒っていることをある程度予測しながら、病室の中に入ってゆく。 「先生・・、あのどうしても急患が入って…」 そういった瞬間、レヴィアスはもの鋭く切れるような眼差しを婦長に向けた。 「レヴィアス…!」 小さな声で妻に窘められて、レヴィアスは少し視線を柔らかなものにする。 「すみません…。スモルニィの小学部からの急患で、たまたま手術などで先生方が出払っていて、ここに行けば、レヴィアス先生がまだいらっしゃると思ったので」 ふうと大きな溜息を深く吐くと、レヴィアスは仕方がないとばかりにベッドから立ち上がった。 「おまえには、妻の出産のときに上手く立ち合わせてくれたカリがある。 …行こう」 「有難うございます!」 レヴィアスは、かけていた白衣を手にとり上から着る。 「いってらっしゃい、レヴィアス!!」 夫の白衣姿にうっとりと見惚れながら、アンジェリークは笑って彼を送り出す。 「すぐに帰ってくるからな」 婦長が見ているにもかかわらず、レヴィアスは妻に熱い口付けを送る。 「あ…」 その熱さに、誰かに見られていることへの羞恥が、アンジェリークの頬を薔薇色に染めさせた。 「…もう…」 「行ってくる!」 「行ってらっしゃい!!」 レヴィアスは、妻に見送られながら、病室から仕事場へと向う。 部屋を出た瞬間、外科医としての引き締まった表情になるレヴィアスを、婦長は心の中で微笑ましいとすら思ってしまう。 奥様にはとっても甘いのですわね、先生…。 手早く消毒をしてから、レヴィアスは診察室に入った。 そのタイミングで、ちびッコレヴィアスが車椅子に乗せられて、担任のロザリアと一緒に入ってきた。 「先生、よろしくお願いします!」 「ああ」 ロザリアの声に、外科医レヴィアスは運ばれてきた子供をじっと見つめる。 何だか奇妙な感じがするな… そして、ちびレヴィアスも。 なんかこの医者、我に似てる…。 あの銀の狼に比べて落ち着きもあって、男前だな…。(勝手な判断) 俺に似ているにしては、どうもやんちゃのようだな、このガキ!! 念のため、娘のエリスには近づかせないようにしておこう… 二人はなぜかじっと見詰め合う。 その様子を見ていたロザリアも、息を飲む。 そっくりだわ…。 二人とも…。 この先生、レヴィアス君を大きくしたみたい…。 将来有望ね、レヴィアスくん!! 「すみません!!! レヴィアスは!!!」 物凄い勢いで入ってきた母アンジェリークに、これまた外科医レヴィアスは驚く。 アンジェにそっくりだ・・・!! レヴィアスはじっと見つめずにはいられない。 診察室は、不思議な空間と化していた---- |