翌日から、何だかんだ言っても、利害の一致があるレウ゛ィアスとエリスは、互いに最大限の譲歩だと思いつつ、課題に取り組んでいた。
「レウ゛ィアスくん、私の足を引っ張らないでよね!」
「それは我の台詞だ!」
「おふたりとも〜」
二人が啀み合うと、決まってカインが間に入っておろおろとする。まるで中間管理職の悲哀を、ロザリアは感じた。
カインくんも大変ねえ・・・。
我慢よ! エリス我慢! ママにいいところ見せるまでの少しの辛抱よ!
くそ! アンジェリークのためじゃなかったら、誰がこんな真似をする!
二人は自分のほうが協調性があると(笑)と思いながら、なんとかぶつかりながらも作業を進めていた。
エリスの弟レウ゛ィアスと言えば、隣のクラスで和気あいあいと作業を続けていた。
姉とは凄い違いである。
ママ、パパ、喜んでくれるかな〜。
子供らしくそのようなことを考えていた。
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いよいよ、学習発表会の日。
エリスとレウ゛ィアスの兄弟は、会場であるスモルニィ会館の前で、手を繋いで両親を待っていた。
「あ、ママ!! パパ!」両
親の姿を見るなり、二人は駆け寄ってゆく。
パパったらまたママにべったり。いつまでも新婚気分なんだから…。
お腹に子供がいるせいか、二人の母親のアンジェリークは、うったりとしたワンピースを纏い、父親のアリオスはこれ見よがしにしっかりと手を繋いでいた。
「よ、おまえらしっかりやってるか?」
「うん、頑張ってるよ!」
子供らしく屈託なく答えるレヴィアスに対して、エリスは不敵に微笑む。
「任せといて! うちが一番よ! ママ!!!!」
自信を漲らせて答える娘に、アンジェリークは穏やかに笑う。
エリスは外見は私かもしれないけど、中身はアリオスによく似ている。
「お兄ちゃん、頑張るからね〜」
レウ゛ィアスは兄になるのが嬉しいのか、母のほんの少し突き出たお腹を嬉しそうに撫でる。
「ふふ、レウ゛ィアス嬉しそうね」
片手はアリオスが繋いだまま離さないので、アンジェリークは空いた手で息子を撫でてやった。
それを見たエリスも、自分もとばかりに、アンジェリークのお腹に抱き付いて、顔を埋めた。
「ママの為にがんばる〜」
「エリスったら」
娘の可愛らしさにアンジェリークは目を細めながら、自分と同じ栗色の髪を撫でてやる。
「ママ〜、いい匂い〜」
がっちりと母親にしがみつく娘に、アリオスは対抗心をむき出しにした。
「おい、エリス! アンジェから離れてさっさと準備に行け!」
「いやだ〜」
なんとか、エリスをアンジェリークから剥がすと、アリオスは二人の肩をぽんと叩いた。
「行ってこい」
「うん、パパ!」
「はーい」
はっきりと返事をしたレウ゛ィアスと違って、エリスは唇を尖らせながら、しぶしぶ返事をする。
「二人とも頑張ってね! パパとママも見てるからね」
やはり二人とも母親の笑顔にはからきし弱いらしく、しっかりと頷いた。
「ママ、パパ、後でね〜!」
二人は手を振りながら建物の中に入っていった。
「ったくエリスのやつは・・・」
まるで子供のように、むくれるアリオスに、アンジェリークはくすりと笑った。
「でも可愛いんでしょ?」
「ああ。おまえとの子供だからな」
「私も、あなたの子供だからさらに愛しいの」
二人は微笑みあって、ゆっくりと手を繋ぎながら観客席に向かった。
「アンジェリーク!」
母親を見つけるなり、レウ゛ィアスは駆け寄っていった
「我の晴れ姿を見るのが待ちどおしかったか?
こいつ〜」
「レウ゛ィアス、今日は頑張ってね。アリオスと一緒に見ているから」
その名前にレウ゛ィアスはぴくりと反応する。
「あの男が来ているのか!?」
パシリと、背後から叩かれて、レウ゛ィアスは怯んだ。
「何をする! この暴力男が!」
「アンジェのいるところは、俺がいるに決まってるだろ!?」
アリオスはこれみよがしにアンジェリークの細いウェストを抱き、息子に見せつける。
「ほら、アンジェから離れて、とっとと支度しに行きやがれ!」
アンジェリークから離しにかかるアリオスに抵抗するかのように、レウ゛ィアスは母にしがみつく。
「きゃあ! レウ゛ィアス!」
まるでその姿は、コアラの子供のようである。
「離れろ」
「嫌だ!」
「アンジェは俺のもんだ!」
「ね、レウ゛ィアス、そろそろ準備に行かなきゃ、ね?」
優しい母親の声に、レウ゛ィアスは素直に離した。
「アンジェ、我の研究成果をしっかりと見ててくれ?
頑張るから」
真摯なまなざしを息子に向けられて、アンジェリークは柔らかな微笑みを浮かべた。
「うん、楽しみにしている」
そう言われて、レウ゛ィアスは勝ちほこったようなまなざしを父に向ける。
「ほら、とっと行きやがれ」
「おまえになんぞ言われる筋合いはない!」
完全にご立腹のレヴィアスは、そのまま父親を睨みつけた。
「アンジェ、しっかり見ててくれ! 我のおまえへの愛を見せてやる」
「楽しみにしているわね?」
天使の温かい一言に、レヴィアスは素直に頷く。
そのまま彼は、会場の会館の中に駆けて行く。
「後でな?」
アリオスとアンジェリークは小さな背中を見つめながら、満足そうに微笑みあった----
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「遅いわよ!」
「悪い…」
レヴィアスが会場につくと、既に班のほかのメンバーが待っていた。
「アンジェリークがいたので長居をした」
「うちのママと同じ名前よね。わたしも、ママに会ったけれど、パパがママを離さないから・…」
どこかで聞いた話だとレヴィアスは思う。
「うちのアリオスもだ。アンジェリークを離さない」
「アリオス〜、うちのパパも同じ名前!」
二人は余りにもの偶然の一致に、顔を見合わせた。
「アリオスと言う名は、"独占欲"が強い男の名なのか」
「そうかもね」
二人は自分のことを棚に上げて…である。
「うちのパパは凄いの。
ママを10歳のときに引き取って、そのままママが17歳のときに結婚して、その次の年には私たちが生まれたの」
光源氏計画!!!
エリスの話を聞いて、レヴィアスは少し羨ましいと思ったのだった。
いよいよ、エリスとレヴィアスの班の発表となった。
「我の足を引っ張るなよ」
「こっちこそ!」
二人は少し不協和音があったが、何とか修復する。
もう少しで、こんな男と一緒に作業せずにすむわ!
生意気女と勉強せずにすむ!!!
我慢だ…
その頃二人の両親はというと。
「アリオス、次はエリスのクラスの番ね? この子にもお姉ちゃんの活躍がわかるかしら?」
「ああ。きっとな…」
お腹に手を置いたアンジェリークの手に、アリオスはそっと自分のそれを重ね合わせた。
「次は、レヴィアスの番ね…」
「ああ。あいつのことだからそつなくやるさ」
「認めてるの?」
「バカ。俺とおまえの子供だぜ? 賢くないわけがねえじゃねえか…」
「うん…」
二人はそのまま手を握り合って、ステージに注目した。
「なんや〜、今日の会館はめっさ暑いな〜」
そんな声が、二組の夫婦のアツアツぶりのために、暫し聞かれた。
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発表会は、結局、エリスとレヴィアスの最強チームが獲得をした。
「ママ!! ママ!!! やったわ!!」
嬉しそうに、賞状とともに、かけてくる娘を見て、アンジェリークは暖かく微笑んだ。
「よくやったわね!」
「おい、"パパ”はねえのかよ? 俺だっておまえの勉強を手伝っただろう?」
苦笑するアリオスに、エリスは神妙に頷いてみせる。
「有難うパパ!」
「よし」
「でも、エリスお姉ちゃんは凄いよね〜」
感心するレヴィアスに、エリスは照れくさそうに微笑む。
「さてと、エリスもレヴィアスも頑張ったから、どこかにメシ食いに行くか?」
子供たちが歓声をあげたのは言うまでもなかった。
「アンジェリーク、やったぞ!!!!」
嬉しそうに、賞状とともに、かけてくる息子を見て、アンジェリークは暖かく微笑んだ。
「レヴィアス、よかったわね!」
「おい、俺はねえのかよ? 俺だっておまえの勉強を見てやったじゃねえか?」
苦笑するアリオスに、レヴィアスはばつの悪そうな表情になる。
「有難う…」
「よし」
自然と、レヴィアスを真中にして、三人は手を繋ぐ。
「さて、レヴィアスが良くやったから、どこかにメシでも食いに行くか?」
「ああ!」
親子三人で仲良く駐車場まで歩いていると、レヴィアスは向こうでファミリー向けのボックス型の外車に乗り込もうとしてる、エリス一家を発見した。
「おい、あいつが、この間言ってた、やつ」
「へ〜」
レヴィアスに言われて、アンジェリークはそちらに集中した。
「アリオス、ほらあのご夫婦…」
「あ、ママ」
「何、エリス?」
車に乗り込もうとして、突然立ち止まった娘に、アンジェリークは不思議そうに尋ねる。
「あの遠くにいる子が、この間言ってた男の子」
「へ〜」
エリスに言われて、アンジェリークホそちらに集中する。
「あら、アリオス、あのご夫婦・…」
二組の夫婦は遠くから対面した。
エリスの両親が頭を下げると、レヴィアスの両親が頭を下げる。
何だか不思議・…。
こんなに良く似た夫婦がいるなんて…
二組の夫婦ともそう思わずに入られない。
遠くからの挨拶が済み、先ずはレヴィアス一家は車に乗り込んだ。
「レヴィアス、エリスちゃんのこと好きだったんじゃないの?」
「え!? 心配するな! 俺はアンジェリーク一筋だって!!」
「おい、アンジェは俺のものだぜ!」
「何〜」
楽しくも仁義なき戦いがまた車の中で、ゴングを鳴らした。
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コメント
今回は、SPECIAL EDITIONです。
「WHERE DO WE GO FROM HERE?」のアリオスXアンジェの子供、
エリスとレヴィアスの登場です。
ラストの対面シーンはずっと書きたかったものです。