「アンジェリーク、今日は絶対に来いよ。手下と一緒出迎えるから」
レヴィアスは朝食を取りながら、アンジェリークに妖艶な笑みを浮かべる。その姿には、どこかしら気品が感じられる。
アンジェリークは、そんな我が子に思わず苦笑いする。
「アリオスと一緒に行くから、待っててね」
「----あいつは来なくていい!」
アリオス----恋敵の名前をアンジェリークから云われ、レヴィアスは嫉妬の余り眉間に皺を寄せる。
「俺は、アンジェリークのボディ・ガードで行くだけだ、誰がおまえのために行くかよ」
ラフなスーツ姿でダイニングに現れたアリオスは、いかにも面倒くさそうだった。
「アリオスもレヴィアスもそんなこと言わないの!」
アンジェリークは、両手を腰に置き仁王立ちになって、二人を制する。
「ほら、二人ともさっさとご飯を食べて!」
続きを食べようとして、レヴィアスは、アリオスの皿をふと見た。
「あー!!! アリオスの目玉焼きの方がでかい!! なぜだ? アンジェリーク」
「・・・・・・。鶏に訊いて」
アンジェリークは、頭を抱えながら、システムキッチンの前に立つと、そっと深い溜め息を吐いた。
「おい、アンジェリーク!! 俺を愛していないのか!!」
レヴィアスは、テーブルから立ち上がり、キッチンにいるアンジェリークに駆け寄って、その足をつかむ。
「レ、レヴィアス!」
アンジェリークは、足に絡みつくレヴィアスに、大きな瞳をさらに丸くして、唖然とした。
「アンジェリーク、俺を愛しているか訊いているんだ?」
アンジェリークに縋るような視線を向けながらも、レヴィアスは、彼女の白くて、細く柔らかい足を撫でる。
「レヴィアス・・・! 止めなさい・・・」
「何、金色夜叉やってんだよ!!」
「・・・って!!」
アリオスは、レヴィアスの頭を叩くと、強引にレヴィアスをアンジェリークの足から引き離しにかかる。
「こら、バカ息子! 俺のアンジェリークから離れろ! アンジェリークの足を触っていいのは、俺だけだ」
「アンジェリークは、我の者だ! おまえなんかガチョーンのくせに!」
「何訳のわからないこと云ってやがる!」
二人は、互いにアンジェリークの足をつかみながら、喧嘩を始める。
コレには、さすがのアンジェリークも堪らない。彼女は、肩を震わせながら、堪え、堪え、堪えて・・・。
「いいかげんにしなさい!!! 二人とも!」
朝から大きなアンジェリークの雷が、今日も二人に落ちた。
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「またアンジェリーク様を取り合っての負傷ですか? レヴィアス様」
カインは、傷だらけのレヴィアスを見ながら穏やかな微笑を浮かべる。
「我とアンジェリークは愛し合っているのに、アリオスの奴が邪魔をする」
レヴィアスは、煙草を銜えながら、深い憎悪に充ちた瞳で宙を仰ぐ。
ここは、スモルニィ学院初等部の裏庭。
小学1年生にして裏番のレヴィアスと、彼の配下である「レヴィアス私設騎士団」の溜まり場になっている。
「----しかし、親分のご母堂は可愛いもんなあー。うちのとえらいちげえだ」
大工の棟梁の息子ゲルハルトは、したり顔で言う。
「母親ではない、我の女だ!」
レヴィアスは、煙草の煙をゲルハルトに吹きかけ、彼を睨みつける。
「す、すんません」
「これだからゲルハルトはよー」
魚屋の息子ウォルターは、今日も元気にゲルハルトにツッコミをいれ、ご機嫌だ。
「----レヴィアス様・・・」
校門まで様子を見に行っていたユージンが、静かに戻ってきた。
「ご苦労だった、ユージン」
レヴィアスは、煙草を足で揉み消すと、探るように視線をユージンに送る。
「そろそろお着きになられるようですよ」
「そうか・・・」
レヴィアスは、口元に深い笑みを浮かべる。誰もが魅了されずにいられない笑顔だ。
現に、レヴィアスのカリスマ性に惹かれて、9人もの手下が集まっているのだ。
「校門に行くぞ」
レヴィアスは、姿勢を正して歩き、その後を軍隊のようにぞろぞろと手下が続く。
校門についた彼らは、左右に別れて整列し、アンジェリークがやってくるのを待ち構えた。
今日は日曜日。
スモルニィ学院初等部では、参観日である。
アリオスとアンジェリークは、我が子の勉強振りを見るために、学院へとやってきた。
このあたりでは、名門私立校として有名なせいか、立派な駐車場も完備されている。
シルバー・メタリックのスポーツ・カーを駐車場に入れ、アリオスとアンジェリークは校門へと向かう。まさか我が子とその手下が整列しているとは知らずに。
「ね、アリオス、恥ずかしい・・・」
「いいじゃねえか、見せ付けてやれ」
アリオスは、アンジェリークの手を繋いだまま離さず、彼女は頬を染めて俯く。
二人が、校門を潜った瞬間----
「ようこそいらっしゃいました!! アンジェリーク様!」
統率の取れた声と共に、レヴィアスの手下たちが次々に頭を下げる。
「----えっ、なに?」
「コイツらホントに小学生かよ」
アリオスは、銀色の柔らかい髪をかきあげながら、うざったそうに手下たちを見る。
「アンジェリーク!」
手下たちが並ぶ中央を通り抜け、レヴィアスが嬉しそうにやって来た。
「レヴィアス」
アンジェリークも笑顔で手を振って、それに応える。
可愛すぎる・・・。我の天使は!
「俺がいなくて寂しかっただろ?」
レヴィアスは、アンジェリークの腰に抱きつき、お尻に手を回す。
「なにやってんだ、このスケベ!」
アンジェリークとずっと手を繋いでいるアリオスは、繋いでいないほうの手で、毎度おなじみの叩きをレヴィアスに食らわせた。
「----何をする・・・!」
レヴィアスの、心の奥から搾り出される憎悪の含んだ声に、私設騎士団たちもアリオスを取り囲む。
「アンジェリークのケツを触って、悦ばせられるのは、俺だけだぜ?」
取り囲まれても、アリオスは余裕で、彼らを鼻で笑う。
「・・・レヴィアス・・・、このお友達は・・・なに?」
アンジェリークは、不安げにレヴィアスに訊いた。
「俺の手下だ」
レヴィアスは得意そうに言ったが、またまたアリオスに殴られてしまう。
「ばーか、アンジェリークが恐がっているだろうが」
「・・・貴様・・・!」
アリオスとレヴィアスは火花を散らしあって、にらみ合う。
「おまえはどうして来たんだ」
「云っただろう・・・、アンジェリークのボディ・ガードだって」
「・・・もう・・・、やめてよ、こんなところで」
アンジェリークが大きな溜め息を吐いたところで、彼女を助けるように始業のチャイムが鳴った。
「ほら、行きなさいレヴィアス」
「----アンジェリーク、俺の思いの深さを綴った作文を読むから、楽しみにしてくれ」
レヴィアスは、アンジェリークには、愛しげな甘い笑みを浮かべ、アリオスには不敵な笑みをニヤリと浮かべ、手下を従え教室へと入っていく。
「あいつ・・・、絶対何かやりやがる・・・!」
本日の1年へ組(ここの学校はクラスは、いろはです)の授業参観は、国語だった。今日は生徒に家族についての作文を書かせ、それを発表するのだ。
アリオスとアンジェリークは、教室の後ろの窓際でレヴィアスの様子を見ていた。
日曜日のせいか、夫婦で見にきているところも少なくない。
大工の棟梁であるゲルハルト父は、終始大声を出して騒いでいる。
しかし、アリオスとアンジェリーク夫妻が、総ての意味で一番目立っていた。
アンジェリークが、かなり若いということもあったが、二人がずっと手を繋いでいたことが最大の原因だった。
これは主に、アリオスが原因なのだが。
レヴィアスは、嫉妬の渦に狂いながら、授業中であることを思い、何とか我慢していた。
アリオスの奴、覚えておけ! 我がアンジェリークへの赤裸々な想いをこの作文にこめて、告白して、おまえなんか、逆転してやる!!!
「はい次は、レヴィアスくんね」
担任のディアに指名され、レヴィアスはゆっくりと立ち上がった」
拍手と、女生徒とからは黄色い声援が、私設騎士団からは激励の声が飛ぶ。
「レヴィアスって人気者」
アンジェリークは、我が子ながら妙に感心してしまう。
「だろーな」
レヴィアスは、作文を手にとると、姿勢を正して、読み始める。
「わ・・・、僕の家族。
僕の家族は、とても綺麗で世界で一番可愛いアン・・・、お母さんと、銀色のとても凶暴な狼がいる」
「あのやろ〜」
アリオスは不機嫌そうにしていたが、アンジェリークはふふと微笑んでいる。
「お母さんは、白いレースのエプロンがよく似合い、まるで天使のようにいつも笑ってくれる。
料理もとても上手で、たまに失敗したりするところが、可愛くてたまりません。
凶暴な狼は、いつも僕とお母さんが楽しんでいると、間に入ってきて邪魔をします。ガチョーンなやつで、はらほれひれはれガッピーンなのに、とてもスケベでこまります」(意味不明)
レヴィアスはニヤリと不気味な笑顔を浮かべながら、読みつづける。
これには、周りの保護者から偲び笑いが起こる。
「----あいつ〜、帰ったら覚えとけよ〜」
アンジェリークは、この後起こるであろう二人の喧嘩を想像し、どんよりとなんだか疲れた気分になる。
「お母さんは、いつも僕と銀の狼を幸せな気分にさせてくれる。
お母さんがいるから、僕らの家族は幸せです」
「レヴィアス・・・」
アンジェリークは、心の奥から熱いものがこみ上げてきて、すこし俯きかげんになる。本当に心から嬉しいと彼女は、思った。
横にいるアリオスを、ふいに見る。
レヴィアスと同じ色の瞳には、暖かな深い優しさが影を落としていた。
「僕は、お母さんを・・・」
レヴィアスはそこで切り、一瞬、アンジェリークとアリオスを見る。
一呼吸を置いて、一番云いたかったことを、レヴィアスは口にした。
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コメント
「FAMILY TIES」のいよいよ3回目です。今回は、授業参観ネタでした。オチをいつもと違う形にしたくて、あえてこうしました。
ちょっとちゅーとはんぱやなー(BYちゃらんぽらん)
レヴィアスは回を増すにつれて、その暴走ぶりがひどくなってくるような気がします(汗)
次回は、EXTRAが2本続くので、当分お休みです。
今回のアリオス、あんまりかつやくがないですな(^^:)
ですから、リクエストがあれば、二人のなれ初め、新婚、出産と書こうかな。
