DREAM LOVER

後編


 レウ゛ィアスが来るまで、ルウ゛ァはじっと待っていた。
「すまない!」
 ネクタイを乱したレウ゛ィアスか、息も乱してやってきた。
「こんばんは、レウ゛ィアスさん」
「ああ、こんばんは」
 一瞬、困ったような顔をすると、ルウ゛ァはレウ゛ィアスを見た。
「アンジェリークは・・・」
「アンジェはがっくりして、自分の部屋に戻りましたよ。せっかくお洒落をして待ってたのに。連絡を一本、入れてくれれば・・・」 ルウ゛ァの言うことはもっともだったが、レウ゛ィアスも、商品開発発表の会議を、自らの発案ゆえ抜けることも、電話をかけることも出来なかったのである。
 だがそんなことを言っても、いいわけにしか聞こえないのは、判っていたから。
「本当にすまないことをした」
 何も理由を言わないが、謝る彼の姿勢は、とても真摯なものだ。
「頭を上げて下さい。このことは、私からアンジェリークに言っておきますから、今夜はこれでお引き取り下さい」
 アンジェリークにどうしても謝りたかった。だが、ここで粘ったところで、何も覆らない。
「判った・・・。今日は帰る。アンジェリークにはまた謝罪に来よう」
 ぎゅっと持っていた紙袋を握り締め、レウ゛ィアスが踵を返そうとした、その時----
「待って!!!」
 振り向くと、まだワンピース姿のアンジェリークが店から出てきていた。
「アンジェリーク・・・」
 ふたりの姿を交互に見ると、ルウ゛ァはフッと安心したかのように微笑む。
「アンジェ」
 ポケットから鍵を取り出すと、ルウ゛ァはそれを妹に投げた。
「ちゃんと仲直りしてくるまでは、帰って来てはいけませんよ」「お兄ちゃん・・・」
 受け取った鍵と、兄の顔を交互に見つめながら、アンジェリークは胸が突かれる。
「さあ、ちゃんと話を聞いてきなさい」
「うん・・・、有り難う、お兄ちゃん・・・」
 ルウ゛ァはニコリと微笑んでみせ、そのまま看板と共に店の中に消えた。
 後ろに響くはシャッターが閉まる無情な音。
 だが優しくて。
「アンジェリーク・・・」
 異色のまなざしでレウ゛ィアスは優しくアンジェリークを見つめる。
「すまなかった。連絡をしたくても出来ない状態だった」
 深々と頭を下げる彼に、彼女は戸惑った。
「だ、だけど・・・、私・・・、色々考えて・・・、あなたが事故に遭わなかったとか・・・」
 少し拗ねたような、怒ったような顔を彼女はした。
「心配かけたな。すまなかった。何か食べたか?」
 少女は静かに首を振る。
「そうか・・・。じゃあこれから旨い店に連れていこう。デザートもな?」
 不機嫌そうな少女の顔が、僅かに明るくなった。
「じゃあお兄ちゃんに言ってきます」
「車をここまで持ってくる」
 アンジェリークは兄の部屋の前に向かい、レウ゛ィアスは近くのパーキングに停めている車を取りにいった。
「お兄ちゃん、レウ゛ィアスさんとごはん食べて来るから〜!」
 兄の部屋の窓の前で大声で兄に聞こえるように言うと、アンジェリークはそのまま戻る。
「判りましたよ〜!」
 兄の少し明るい調子の大きな声に見送られて、店の前に出ると、レウ゛ィアスの車がきていた。
「乗れ」
 そのまま助手席側が空き、アンジェリークはそこに乗り込む。
「どちらに?」
「今日連れていこうとした店だ」
「まだ間に合うの?」
 その問いにレウ゛ィアスはフッと微笑むだけだ。
 暗闇の中車は進む。彼は話をしなかったが優しい雰囲気が伝わって来るのを感じた。
 窓には様々な明かりが流れるように写り、まるで星屑を泳いでいるようだ。
 いつの間にか、アンジェリークはよい気分になって、うつらうつらしていた。
「アンジェリーク、着いたぞ?」
 レウ゛ィアスに優しく起こされて、アンジェリークは目を覚ました。
「レウ゛ィアスさん・・・」
「行くぞ? 着いたからな?」
 彼に連れられて、アンジェリークは息を飲む。
 そこは、小ぢんまりとした家屋にあるレストランであったが、ライトアップがされており、幽玄な雰囲気をかもし出されている。
「素敵…」
「おまえさんが喜んでくれると思ってな?」
「有難うございます…」
 彼女がペコリと頭を下げると、レヴィアスはおかしそうに笑った。
「いいかげん、"敬語”は止めてくれないか? 我のことは"レヴィアス”と呼んでくれ。
 おまえのことは”アンジェ”と呼んで構わぬか?」
 胸に甘い感覚が走り抜ける。
 それは決して不快ではないもの。
「…うん…、レヴィアス」
 少しはにかんで彼の名を呼んだ彼女に、レヴィアスは本当に嬉しそうな眼差しを向け、腕を差し出した。
「行こう」
「…うん…」
 レヴィアスの腕に自分の腕を絡ませ、アンジェリークは彼のエスコートされてレストランに入った。


 レストランの、味、雰囲気とも申し分ないものだった。
 フルコースはとても美味しくて、何度も無言になるアンジェリークに、レヴィアスは目を細めて愛しそうに見ることしか出来ない

 本当に可愛いな…。
 アンジェ…

 コースの料理は総てすんで、後はデザートだけになった。
「アンジェ・…、今日、我が遅れた理由は、これだ…」
 レヴィアスは持っていた白い紙袋をアンジェリークに差し出し、彼女は何かと判らぬまま、それを受け取った。
「開けてくれ」
「うん…」
 アンジェリークは袋を開けると、思わず声を上げてしまう。
「アルヴィースのドレス!!」
「そうだ。
 俺の名は"レヴィアス・ラグナ・アルヴィース”
 服飾ブランド"アルヴィース”のオーナーだ…」
 またまた驚いて、アンジェリークはレヴィアスの顔を、あんぐりと見つめる。
「そんな顔をするな…。
 そんワンピースは、若い女性をターゲットにしたうちの新しいラインだ…。
 上品なワンピースのラインを中心にする予定だ…。今夜はこの試作品のプレゼンをしていたのだ…。
 それで遅くなった…。
”Angelique”これが、新しいうちのラインだ…」

 Angelique…!!!

 ひょっとしてと。
 アンジェリークは涙の滲んだ眼差しを彼に向ける。
「そうだ…。
 おまえに出会って、急遽作ったラインだ…。
 このワンピースはおまえだけのものだ・・・。一号品は非売品だ…」
 少し照れくさそうな、それでいて、深みのある表情を垣間見て、アンジェリークは視界が涙でくもって見れなくなるのを感じた。
「レヴィアス…」
 この嬉しさをどう表現したらいいのだろう。
 だが言葉が見つからない。
「このドレスを着てくれ…。
 更衣場所は用意している。
 我はテラスで待っているから…」
「うん…」
 レヴィアスがメイドを呼ぶとすぐに飛んできてくれた。
 彼女に案内されて、アンジェリークは更衣場塩に連れて行かれて、そこで着替えをし、軽く化粧をしてもらう。

 さすが大企業のオーナーだな。

 アンジェリーク亜葉すっかり綺麗にしてもらって、レヴィアスの待つテラスへと案内された。
 テラスは、満天の星空を見ることができる、とてもロマンティックな場所だった。
 照明も薄暗くてちょうどいい。
 暗闇に浮かび上がるレヴィアスの精悍な背中に、アンジェリークは心がときめくことを押さえることが出来ない。

 私…。
 この男性のことが、本当に大好きなんだ…

「レヴィアス・…」
 その名を呼べば、彼は流れるように振り向いた。
「アンジェ…」
 その売る駆使差に、レヴィアスは、暫し、見惚れる。
「綺麗だ…」
 艶やかさの滲む彼の眼差しから、アンジェリークは目をそらすことが出来なかった。
「アンジェ!!」
 突然、レヴィアスにきつく抱きしめられて、アンジェリークは喘ぐ。
「あ…」
「ずっとおまえを愛してる…。あのケーキを足に落とされた日から…」
 甘い言葉が愛情になって降りてくる。
 彼女の心を甘く優しく包み込んでゆく。
 アンジェリークは、嬉しくて、彼にぎゅっとしがみつくと、その顔を見た。
「私も、あなたを愛してる…。
 ケーキを落としたときから…」
 少女のぎこちない告白が嬉しい。
 レヴィアスは甘く真摯な眼差しを向けると、そっと顎を持ち上げた。
「おまえは…、この世で一番甘いデザートだ…」
「レヴィアス」
 そのまま唇が重ねられる。
 アンジェリークも、これほど甘いデザートはないだろうと、心のそこから思っていた。 

コメント

41000番を踏まれた華響雅様 のリクエストで、
「レヴィ×アンバカップル」です。
ようやくバカップルになれました(笑)
ですがすみません…。
バカップル以前で…。