DREAM LOVER

前編


 ケーキ、上手く出来たかな・・・。

 アンジェリークは、出来て間もないケーキを箱にいれ、大事そうに抱えながら歩いていた。

 レイチェルとエルンストさんに差し入れに焼いたけど、上手く出来てたらいいな・・・。

 足下も見ず、アンジェリークは楽しそうに歩いていた----


「レウ゛ィアス様、お歩きになられるのですか?」
「気分転換に散歩でもな?」
 レウ゛ィアスは、特に感情の感じられない声で呟くと、車から降りる。
 カインを残して、彼はゆっくりと歩き出した。

 あいも変わらずアンジェリークは、鼻歌混じりに下も見ず、ご機嫌に歩いている。
 突然、足下が引っ掛かり、はっとしたのも束の間。
「きゃあっ!」
 そのまま、お約束にも躓いてしまい、彼女は倒れかける。
「危ない!」
 たまたま目の前にいたレウ゛ィアスが、親切心を出して手を出したのが始まりだった。
 華奢な少女の腕を掴んだと同時に、足下に冷たい感触がある。

 何だ・・・。

 恐ろしくて見たくなかったが、そこにはケーキの残骸があった。
「あ・・・」
 その光景を呆然と見ていた少女と、目があってしまう。
 潰れたケーキを見つめる少女のアクアマリンの瞳に、涙が滲んでいる。
「あ・・・、ケーキ、片付けなきゃ・・・」
 そのままアンジェリークはしゃがんで、ティッシュを使って、レウ゛ィアスの靴についたケーキを拾い集めた。
「ごめんなさい・・・」
「構わぬ。我も手伝おう」
 ケーキを始末しながら、アンジェリークのまなざしに涙が滲む。

 せっかく、陣中見舞で作ったのに・・・。

 始末を終え、ゴミ箱に全てを捨てたとき、アンジェリークは急に哀しくなって泣き始めた。
「おいっ!」
 レウ゛ィアスは肩を震わせて泣き始める少女を、どうしていいか判らない。
「おい、泣きやんでくれ」
「だって・・・、せっかく作ったのに・・・」
 その場にうずくまって泣く少女に、困ったとばかりに、レウ゛ィアスは溜め息を吐いた。
「落ち着いたら送ってやる・・・」
 栗色の髪をした少女は頷くが、泣きやまない。
 そのうち、好奇な目で見られるようになってきて、レウ゛ィアスはますます困ってしまう。

 しょうがない・・・。

 取りあえずここから離れなければと、彼は彼女の前に、背中を見せて腰を下ろした。
「ほら、おぶされ。取りあえずどこか座れる場所まで行くぞ」
 今、ケーキのこと以外何も考えられない彼女は、それに従った。
 長身の彼におんぶをされているにもかかわらず、アンジェリークはその恥ずかしさにまだ気がつかない。
 ただ広い精悍な背中に包まれて、アンジェリークは安心する。
「ほら、泣くな?」
「だって、レイチェルとエルンストさんが、がんばってレポートしてて、だからお店で作ったケーキを差し入れしたくて・・・」
 まるで幼子のように、胸を引きつらせながら泣く彼女に、彼は思わず微笑んでしまう。

 面白いものを拾ってしまったな・・・。

「判ったから・・・、ケーキは我が買ってやるから・・・」
「ごめん・・・なさい・・・」
 アンジェリークは、そのままレウ゛ィアスの胸に顔を埋める。
 ハタから見れば、ふたりは十分バカップルにみえる。
 レウ゛ィアスは、ケーキをテイクアウト出来、しかもお茶が出来るカフェを探し、そこに入った。
 おんぶのカップルに誰もが注目する。視線を感じながら、レウ゛ィアスはアンジェリークを席に座らせ、その向かいに彼は腰を掛けた。
「何が食べたい?」
 訊いて、ようやくアンジェリークは、泣きやんだ。
 まだ大きく呼吸をしているが。
「はい・・・」
 レウ゛ィアスからメニューを受け取り、アンジェリークはそれに視線を落とした。
「じゃあベリータルトとミルクティを・・・」
「他には?」
「他にはって?」
「もうひとつどうだ?」
「えっ、でも、そんなにお小遣い持って来てないですから・・・」
 戸惑いと少し恥ずかしそうに彼女はしている。
「構わん。今日は我のおごりだ・・・」
「有り難うございます。でもご迷惑を掛けたのに、ごちそうまでして頂くわけには・・・」
 申し訳なさそうにする彼女を見て、彼はむしろ好ましく思う。
「かまわん。ケーキセットにすれば、幾分か安くなる」
 その優しい声に導かれて、彼の顔を初めて垣間見て驚いた。

 あ・・・、この男性凄くすてきだったんだ・…。
 あんなカッコいい男性に、私、おぶられていたんだ・・・。

 そう思うだけで、耳まで真っ赤になってしまう。
「ほら、選んでいいぞ?」
「はい・・・」
 促されて、恥ずかしく思いながら、真っ赤な顔を見せたくなくて、メニューで顔を隠す、いい口実になっていた。
「だったら・・・、ピーチタルト・・・」
「判った」
 すぐさまレウ゛ィアスは店員を呼ぶと、注文をした。
「ケーキセットふたつ。ケーキはベリータルトとピーチタルト。飲み物は、ロイヤルミルクティとコーヒー。それと持ち帰りで、ケーキを適当に10個包んでくれ」
「畏まりました」
 店員がいった後、ふたりはしばらく見つめあう。
「ケーキを、"陣中見舞い"とやらに持っていくといい」
「すみません。わざわざごちそうまでしていただいて・・・」
「いや」
「あの・・・、このままだと気がすみません・・・。お礼させて下さい!」
 そう言って、アンジェリークは鞄からごそごそとカードを取り出した。
「これは・・?」
 差し出されたカードを見、レヴィアスは不思議そうに訊く。
 そのカードはフェザーワルツの紙で刷られた、とても清楚な感じのするカードだった。
 "ケーキハウス・Angel Planet”と書かれている。
「私の家なんです。
 まだオープンにしたてですが、是非遊びに来てください!!」
 少女は一生懸命力説した。
「ケーキ屋か…。
 おまえさん、名前は?」
「アンジェリークです」
 泣き顔しか見せなかったアンジェリークが、今は満面の笑みを浮かべて彼を見ている。
 その笑顔は、まるで太陽のように輝いていて可愛くて。
 レヴィアスは思わず見惚れる。
「あの・…、あなたのお名前は…?」
 そう尋ねられて、レヴィアスははっとした。
「レヴィアスだ…。宜しくアンジェリーク…」
 低く囁かれた名前を、アンジェリークは噛み締める。
「レヴィアス…」
 二人は再び見つめあい、微笑みあった。
 ケーキと飲み物が運ばれてくる。
 それにも二人は見詰め合ったまま。
「あの…、お客様…?」
 店員に言われて、ようやく二人は気が付く。
「じゃあ、アンジェリークケーキを」
「はい・・・いただきます!」
 ケーキを本当に美味しそうに食べる彼女が、彼の何よりもの"ご馳走"となる。
 二人は暖かな雰囲気の中、何も話さなくてもても幸せな気分になってしまう。

 今日は凄くいい気分だわ…。


 ケーキ屋か・・・
 我は甘いものが苦手だが…、それでも通う勝ちはあるようだ…。

 それは恋に落ちた瞬間だった----

コメント

41000番を踏まれた華響雅様 のリクエストで、
「レヴィ×アンバカップル」です。
何だかバカップル一直線みたいですねえ…