
『アリオス、何時でもあなたを見守っているわ。
だから、早く見つけて。早く気付いて…』
栗色の髪が揺れるのが見え、断片的に白い羽根が舞い落ちる。
柔らかな声。
優美な姿。
小さな陽だまりに包まれた、天使。
天使の夢を見る度に、美しいメロディが生まれる。
天使に会いたい。
彼女が俺に気付くまで、ずっと音を奏でていたい。
そのためにも、最高の音を奏でよう。
おまえに出会うために----
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大手のレコード会社、ウォンミュージックの会議室では、会社の稼ぎ頭である、カリスマバンド”DOLIS”のミーティングが行われていた。
リーダーでギター担当のオスカー、ヴォーカルのアリオス、キーボードのセイラン、ベースのオリヴィエ、ドラムスのヴィクトール。そして、チーフマネージャーのエルンストまでが、頭を抱えて唸っていた。
「おい、俺やっぱりちょっと出てくるぜ。ここにいたら煮詰まっていていけねえ」
銀色の前髪をくしゃりとかきあげると、アリオスはそのままスタジオを出てゆく。
「しょうがないか。プロモーションビデオの肝心の天使役の子が見つからないいんじゃね」
キーボード担当のセイランも立ち上がり、溜め息をついて窓から空を見つめる。
「曲も最高、レコーディングも上手くいって、後は、プロモーションビデオだけのところで、まさか躓いてしまうとはね〜」
オリヴィエも、ビデオの企画書をテーブルの上に放り投げ、だらりと足を伸ばした。
「そうだな。今回の曲の作者であるアリオスが気に入らない以上は、仕方があるまい。
現に俺たちだって妥協することが出来ないんだからな。
プロのモデルを、あんなにしらみつぶしに捜してオーディションを繰り返しても、いい子が見つからないんだからな」
いつもパワフルなリーダーのオスカーにも、疲れの表情が見られる。
「だな。やはりやる以上は完璧なものを目指したいからな」
ドラムスでバンドの常識人ヴィクトールも深く頷いた。
「私もまた、がんばって見ますよ。皆さんも休憩を取られてはいかがですか?」
マネージャーであり、信頼するアドヴァイザーであるエルンストの声に、全員は深く同意した。
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アリオスはバイクに乗り、お気に入りの公園まで来ていた。
曲作りに詰まると、彼は必ず顔を出す、お気に入りの公園だ。
都心の喧騒から離れた、緑と小さな池のある小ぢんまりとしたそこは、空気もよく、静かで、彼の心を和ませてくれる。
「----一体どこに落ちてやがるんだよ…俺の”天使”はよ…」
クロムハーツのサングラスをかけたまま、アリオスはじっと池を見つめる。
そこに答えなどあろうはずがないというのに、彼は見つめずに入られない。
午後の優しい陽だまりが、彼の銀色の髪を宝石のようにきらきらと輝かせている。
池の横を通る、誰もが、彼に振り返ってしまう。
「ねえ、あれ、”DOLIS”のアリオスじゃない!?」
「バカ、違うわよ! アリオスがこんなところにいるわけがないじゃない!」
「そっか、それもそうね」
すれ違いざまに話している女子高生の声を聴きながら、彼はほっと胸を撫で下ろした。
「こんなとこにいるのが俺様なんだよ」
言って、自嘲気味に笑うと、彼は空を見上げる。
このまま、CGのイメージを使うことになるんだろうな…
アリオスは、愛飲している煙草を銜え、革のジャケットの胸ポケットから、ライターを取り出そうとした。
「おかしいな・・・」
彼は様々なポケットを探るが、ライターは一向に出てこない。
「あの…、もしかしてこれを捜されているのですか?」
ふいに優しい柔らかな声賀して、彼は導かれるように振り返る。
聞き覚えのある声だ…
そう思い、声の主を見た瞬間、図らずも彼は息を飲んだ。
天使!!
そこにいたのは栗色の髪をした、華奢な、向日葵のような笑顔を浮かべた少女だった。
肩まで切り揃えた髪を軽く揺らし、アリオスにライターを差し出している。
「ここに落ちていたので拾ったんですけど・…」
彼女が身に纏う暖かさは、彼が見る夢の天使と同じようなオーラがあり、彼は暫し、言葉を忘れる。
「あの?」
探るように声を掛けられて、彼はやっと我に帰る。
彼の心は、既にこの少女に奪われていた。
「サンキュ」
彼は、いつもは邪険に扱っているライターを、少女から受け取るという理由だけで、今日は壊れ物を扱うように大切にしている。
口角を上げ、甘やかさが滲んだ笑顔を彼女に向ける。
「いいえどういたしまして…」
少女は、その笑顔に少しはにかみ、嬉しそうに彼に笑いかける。
それは、彼の心を鷲掴みにするのには充分だった。
少女の柔らかな姿と、天使の優美な姿が重なり合い、アリオスははっとする。
それと同時に、心の奥底から、ようやく会えた事への嬉しさがこみ上げてくる。
いた! ここに天使が!!
ようやく見つけた…!
「じゃあ、私はこのへんで」
「待ってくれ!」
にこやかに微笑み、立ち去ろうとした彼女に、アリオスは引き止めた。
「はい?」
首を傾げて振り向く彼女に、彼は確信する。
今度のプロモーションビデオのイメージは彼女しかいないと。
「お礼がしたい」
彼は、サングラスを取り、異色の瞳を彼女に向けると、真摯に少女だけを捕えていた。
何て綺麗な男性(ひと)なんだろう・…
アリオスの艶やかな魅力に、少女は魅入ることしか出来ない。
息が苦しくなって、甘い想いが華奢な身体を覆う。
「…お礼なんてそんな・・・・…」
少女は俯いて、小さな声で消え入るように囁いた。
「そうだ。ろくなお礼も出来ねえが」
アリオスはポケットの中からバックステージパスを彼女に手渡した。
「なんですか?」
少女は怪訝そうに青年を見る。
「明後日、ここに出る。これを入り口で見せてもらえば、席は手配をしておく」
「どうも有り難う…」
アリオスが少女に渡したのは、明後日に行われる、王立武道館でのライヴのバックステージパスだった。
「是非、来て欲しい」
渡されて、アンジェリークは、幸せそうな笑顔を青年に向けた。
たった一枚のバックステージパスが、これから二人の”恋”のキーワードになるとは、このとき二人は思わなかった。
ショービジネス界に住むアリオスと、普通の女子高生アンジェリークの恋は、もう始まっていた-----
TO BE CONTINUED…
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コメント
アリオス・アンジェのバンドものを、また懲りずに書いてしまいました。
これから更新もチョコチョコしてゆきますので宜しくお願いします
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