CUTS LIKE A KNIFE

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 アリオスとオスカーの射撃は完璧だった。
 シュルツの両足に正確に射撃をし、しかも、二発目のアリオスの弾丸は、シュルツが持っていた銃を飛ばしていた。
 タイミングもよかった。
「おのれ・・・、おまえたち・・・」
 シュルツは蹲り、アリオスたちに悪態を吐くが、それも今更のようである。
 ウ゛ィクトールは、素早くシュルツのところまで走っていき、素早く処理を開始する。
「ウ゛ィクトール、おまえもか・・・」
 シュルツは恨めしそうに、ウ゛ィクトールを睨みつける。
 表情のないまなざしでウ゛ィクトールはシュルツに一瞥を投げると、その鼻先に保安官バッヂを突き付けた。
「連邦保安官だ。これを見ればおまえにも判るはずだ・・・。違うか?」
 シュルツは万策が尽きたとばかりに、肩を落とし、ウ゛ィクトールに縄をかけられる。
 がっくりとうなだれているシュルツを、アンジェリークはまるで夢の中の出来事かのように、遠くからじっと見つめている。
 まるで麻痺をしているかのように。
「アンジェリーク」
 最も胸をくすぐる声が聞こえ、彼女は、驚きの余り朦朧としていた意識が、少しずつ回復していくのを感じた

 アリオス・・・

「アンジェリーク」
 再び呼ばれて、身体を起こされ、アリオスの正面に向かされる。
 視界に彼が写り、アンジェリークはようやく感情が戻ってくるような気がした。
「アリ・・・オス?」
「アンジェ・・・」
 潤んだ瞳をアンジェリークはアリオスを見つめる。
「アリオス!!!」
 彼女は、今までの感情を全て爆発させ、アリオスの広い胸に飛び込んだ。
「心臓が止まるかとおもったんだから〜!!!」
 そこに顔を埋めて、わんわんと泣き叫ぶ彼女がとても愛しく、アリオスは思う。
 栗色の髪を撫で、アリオスはアンジェリークをしっかりと抱き締めてやる。
 しばらく、アンジェリークはそのままアリオスのぬくもりを吸い込んだ。
「アリオス、シュルツをウ゛ィクトールと一緒に、保安官事務所に護送してくるから、後は楽しめ?」
 オスカーは笑うと、そのままシュルツの元に向かった。
「仲間だったんだ・・・」
「ああ。俺たちは連邦保安官だ。
 シュルツは、数件の強盗殺人、この牧場を不正に取得した詐欺と脅迫の疑いでずっと追っていた。
 俺たちは三つに分かれて行動し、オスカーはそのまま保安官として近づき、ヴィクトールは射程として、俺は流れ者として入って、あいつを捕まえるための包囲網をしていた」
「そうだったんだ・・・」
 謎が少しだけ解けたせいか、アンジェリークは少しだけほっとする。
 だが、まだ訊きたいことは山ほどある。
 その中でも一番の事を訊きたくて、アンジェリークは上目遣いでアリオスを見た。
「アリオス・・・」
「何だ、アンジェ・・・」

 きっとアリオスがあのおにいちゃんだわ・・・

 アンジェリークはアリオスを見つめると、今度こそ訊こうと思っていたあのことを、再び口にしようとした。
「あのね・・・」
 しかし、それをさえぎるかのように、足音が聞こえてくる。
「シュルツさん!!!」
 不審な銃声に、シュルツの部下たちが駆けつけたきたのだ。
「後でたっぷりと聞いてやる」
 アリオスの緊張感がみなぎった言葉に、アンジェリークは頷くことしか出来ない。
 主の変わり果てた姿に、彼らは呆然としていた。
 その中には、アリオスが締め上げたやつらもいる。
「話は後だ。行くぞ? 
----お前は必ず守る」
「判ったわ」
 アリオスは、アンジェリークの手をしっかりと取って、駆けていく。
 彼女を全力で守ると誓って。
 シュルツの配下たちは、すぐに自分を取り戻し、ホルスターに手を掛けようとする。
 しかし、男達は抜く前に、オスカーとウ゛ィクトールは、持ち前の腕で次々に手を撃ち、使いものに出来ないようにする。
「ううっ!」
 手をやられた男達は、次々に痛みの余り蹲ってしまっている。
「助太刀にきた」
 アリオスは背中でアンジェリークを守りながら、銃を構え、トリガーを引く。
 たった三人で二十人もの相手に次々と銃弾を撃ちこみ、倒していく。
 そのチームワークに、アンジェリークは舌を巻いた。
 ほんの一瞬にして、男たちは倒れこみうずくまってしまい、荒くれの影すらもなくなっている。
 同時に大きな足音が再び聞こえてきた。
「オスカーさん〜、アリオスさん〜、ヴィクトールさ〜ん!」
 何名もの保安官たちがばたばたと走ってくる。
「何ナノ?」
「応援を呼んでおいた」
 応援の保安官たちは、次々に男たちを縛り上げて連行していく。
「アンジェリーク!!!」
 姉のディアが応援の保安官に保護をされて、アンジェリークの前にかけてきた。
「お姉ちゃん!!!」
 姉妹はうれしそうに抱き合い、ようやく圧力に開放されたことを喜びながら、お互いに泣き笑いの表情を浮かべる。
「よかった〜」
「ホントね! 
 これで私も安心してお嫁にいけるわ」
 ディアはうれしそうに笑うと、ちらりとアリオスとアンジェリークを交互に見つめて、満足そうな表情をする。
「何、お姉ちゃん!?」
 ディアはじっとアリオスを見つめる。
「アリオス、私はあなたを覚えているわよ? この牧場のカウボーイ」
 アリオスはフッと笑うと、アンジェリークに向き直る。
 彼女の瞳は潤み、アリオスをじっと見つめている。
 感極まり方を震わせ、彼に期待に満ちた表情を浮かべている。
「アンジェ」
 アリオスはアンジェリークの頬に指を伸ばし、やさしく触れた。
「そうだ・・・。俺だ。覚えている、おまえのことを」
 アンジェリークはもう何もいらなかった。
 心の中で大切に思っていた想いを、彼女は今爆発させる。
「アリオス!!!!」
「アンジェリーク」
 飛び込んできたアンジェリークを、アリオスはしっかりと抱きしめ、包み込む。
「うそついててごめんな?」
「もういいの」
 アリオスは、ふと、二人の様子を見つめている周りにいるものたちを見た。
 そのまなざしには”見るな”と書いてある。
「見ないぜ〜」
「見ないぞ」
 全員が、一応は、目を閉じたのを確認してから、彼は彼女のあごを持ち上げる。
 そのままアリオスはアンジェリークの唇に自分の唇を近づけ、彼女に優しいキスをした。
 もちろん、その様子を、うっすら目をあけてそこにいたものが見ていたのは言うまでもない。

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 ディアが無事にお嫁に行き、アンジェリークもアリオスと婚約した。
 牧場にも牧童が雇われ、活気づいている。
 今は、アリオスが連邦保安官として町におり、頼もしいなくてはならない存在になっている。
 町も再び活気と平和を取り戻し、明るく、活気に満ちているものになっている。

 ディアお姉ちゃん・・・。
 この牧場をしっかり守っていくわ・・・。
 アリオスとともに・・・

「アリオス、今、私、すごく幸せよ?」

 アンジェリークは、アリオスも肩に首をもたれさせると、幸せそうに微笑んだ-----
THE END

コメント

72000番のキリ番を踏まれた沙羅様のリクエストで、西部劇なアリオス・アンジェです。
 今回のアンジェは勝気のはいった元気娘。
書いててとても楽しかったです。
また西部劇は書きたいなあっと個人的に思っています。
ありがとうございました!!!