幼い頃、何になりたいか、友達とよく話したものだ。 私は漠然と、銀の髪のお兄さんがそばにいてくれたらと思っていた。 幼い日、おつかいの帰り襲われそうになった私を助けてくれたお兄さん。 一度しか逢ったことはなかったけれど、その人は私の初恋の人になった。 「最近、物騒だからね、あんたも気をつけるんだよ、アンジェちゃん!」 「有り難う! おばさん!」 マーケットで買い物の後、アンジェリークは、今日も店主夫人に声を掛けられた。 ”ゴールド・ラッシュ”の後、その余波を受けてか、エンジェル・タウンにも、ならず者が沢山入ってきている。 女でひとりでは、昼間ですらも危険なのだ。 うちにはロクに用心棒はいないものね・・・。 おばさんが心配するのも無理はないか・・・。 アンジェリークは、考えこむと、また溜め息を吐いた。 店から出て、馬車に戻ろうとした時、目の前に繰り広げられる光景に、アンジェリークは唖然とする。 彼女の馬車を、酔った男たちが襲っているのだ。 「ちょっと! 私の馬車よ!!!」 アンジェリークは大声で叫ぶが、誰も取り合ってはくれない。 女だからと平然としている。 「ちょっと! うちのよ!!」 思い余って、アンジェリークは馬車に近付いた。 一生懸命働いた糧の馬車には、おみやげの弟たちのおもちゃなども入れてあるのだ。 「なんだ、飛んで火にいる夏の虫か? ついでにいただこうぜ?」 荒くれている男達の手が、アンジェリークの手にかかろうとした時だった。 「汚い手で触ってんじゃねえよ!」 「うわあああっ!」 聞き慣れない声と共に、誰かが男の手をぎゅっと握り締めあげたのが判る。 アンジェリークは、恐る恐る見てみると、銀の髪をした青年が、男をいとも簡単に締め上げていた。 その姿は、アンジェリークに記憶の衝撃を与える。 まさか・・・!? 銀の髪! 青年は、眩しいばかりの銀の髪をしており、とても艶やかだ。 それが彼女には衝撃だった。 「野郎!!!」 男の仲間が青年にかかっていくと、青年は冷酷に笑い、ホルスターから銃を抜くと、男たちの一人に突き付ける。 「これで脳天を破壊されてえか? おっさん?」 青年の指がトリガーにかかり、男達は震え上がった。 「もっ、もうしませんっ!!」 青年の眼光の冷酷的な鋭さに、男達は恐れをなして馬車から飛び出していく。 男たちの情けない姿と、青年のかっこの良い姿とを見比べながら、うっとりとしてしまう。 間違いないわ。 絶対に彼よ! 「有り難う」 ペコリと頭を下げると、アンジェリークは青年の顔をじっと見つめる。 「何だ? 俺の顔がどうした?」 「あなた、この街で暮らしたことはある?」 「ねえよ」 あっさりとした答えに、アンジェリークはあからさまにがっかりした。 銀の髪の人ってごまんといるものね 「俺は流れ者だ。この街は初めてだしな・・・。賞金稼ぎをしながら、気ままに生活してる」 賞金稼ぎイコール腕っぷしが強いイコール用心棒に最適。という図式が、即座にアンジェリークの中に成り立った。 「今夜の宿はありますか?」 「・・・いや、これから取るところだが・・・」 アンジェリークの頭の中で鐘の音が鳴り響く。 これ以上理想的な人はいない。 彼女はじっと彼を見た。 「うちは牧場をやっているんですけど、今夜はうちで泊まりませんか?」 アンジェリークは明るい調子で言うと、青年の革のベストをついっとひっぱる。 「おまえ、大胆だって言われたことねえか?」 呆れたように青年は言うと、溜め息を吐いた。 「・・・無謀だとは・・・」 段々と声が小さくなる彼女が妙におかしくて、青年は喉を鳴らして笑う。 「助けてもらったからって、ほいほい信じるのは甘いぜ? その甘さは命取りになるぜ? こんなならず者の多い西部じゃな」 「助けてくれた人を信じて何が悪いんですか?」 まっすぐアンジェリークは青年を見つめた。その眼差しが、余りにも澄んでいて、アリオスは胸の奥を突かれた。 今時いるんだな・・・。 こんな真っ直ぐな奴… 「うちで泊まったほうが特よ! ごはんは美味しい!!」 余りに必死で説得する少女が、青年にはなぜだか可愛く思える。 「ごはんって、まさかおまえが作るのかよ!?」 「そうだけど…」 「だったら期待出来そうにねえな…」 わざとからかうかのように青年はいい、アンジェリークを挑発してくる。 「理由なんてないでしょ! うちに泊まってください!」 強くアンジェリークは言う。 「判った。そこまで言うなら泊まらせてもらうぜ」 「ホント!」 アンジェリークの表情は一気に晴れ上がり、明るい満面の笑顔を浮かべた。 「まだ、名前を言っていなかったな? 俺の名前はアリオスだ」 「アリオス・・・」 アンジェリークは胸にその名前を刻み付けるかのように、呟いた。 「私はアンジェリークよ。宜しくね」 澄んだ瞳を向けられて、小さな手を差し出されれば、アリオスも差し出して握り締める。 「よろしくな、アンジェリーク」 二人はしっかりと手を握り合って、初めて握手を交わした。 少し照れくさそうに握手をするアンジェリークが、アリオスには微笑ましい。 ここにいれば、何か情報を得ることはできるだろう…。 奴らの… 「話が決まった所で、うちに行くわよ!」 アンジェリークは明るき言うと、馬車に乗り込み、手綱を持った。 「ああ」 アリオスも、栗毛の馬に颯爽と跨ると、馬車の近くまで馬を歩かせる。 「準備出来たぜ?」 馬上の彼もなんとカッコいいのかと思いながら、アンジェリークは見惚れてしまった。 「おい、いつになったら出発するんだ?」 声を掛けられ、彼女ははっとする。 「ああ。じゃあ行くわよ! 着いてきて!!」 「オッケ」 馬車がゆっくりと動き出し、アリオスもそれに続く。 手綱をさばくアンジェリークは大したものだと、アリオス感心せずにはいられなかった。 「おまえ、随分と上手いじゃねえか?」 「子供の頃からやっていたもの。馴れるわ」 笑いながら彼女は何でもないことのように言う姿が、アリオスには好ましく移る。 「馬はどうだ?」 「馬も乗れるわ。 じゃないと牧場の娘は出来ないもの」 「だな…」 二人のはなう様子を見ているひとつの影があった。 この町の保安官オスカーである。 牧場のお嬢ちゃんの横にいるあの男は…。 ひょっとして… 彼は複雑な思いで、二人の姿を見つめていた----- |
コメント
72000番のキリ番を踏まれた沙羅様のリクエストで、西部劇なアリオス・アンジェです。
今回は出会い編です。
これからカッコいいアリオスをお見せする予定です。
銃ももっとばしばしやりますので宜しくお願いします
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