CUTS LIKE A KNIFE

1


 幼い頃、何になりたいか、友達とよく話したものだ。
 私は漠然と、銀の髪のお兄さんがそばにいてくれたらと思っていた。
 幼い日、おつかいの帰り襲われそうになった私を助けてくれたお兄さん。
 一度しか逢ったことはなかったけれど、その人は私の初恋の人になった。



「最近、物騒だからね、あんたも気をつけるんだよ、アンジェちゃん!」
「有り難う! おばさん!」
 マーケットで買い物の後、アンジェリークは、今日も店主夫人に声を掛けられた。
 ”ゴールド・ラッシュ”の後、その余波を受けてか、エンジェル・タウンにも、ならず者が沢山入ってきている。
 女でひとりでは、昼間ですらも危険なのだ。

 うちにはロクに用心棒はいないものね・・・。
 おばさんが心配するのも無理はないか・・・。

 アンジェリークは、考えこむと、また溜め息を吐いた。
 店から出て、馬車に戻ろうとした時、目の前に繰り広げられる光景に、アンジェリークは唖然とする。
 彼女の馬車を、酔った男たちが襲っているのだ。
「ちょっと! 私の馬車よ!!!」
 アンジェリークは大声で叫ぶが、誰も取り合ってはくれない。
 女だからと平然としている。
「ちょっと! うちのよ!!」
 思い余って、アンジェリークは馬車に近付いた。
 一生懸命働いた糧の馬車には、おみやげの弟たちのおもちゃなども入れてあるのだ。
「なんだ、飛んで火にいる夏の虫か? ついでにいただこうぜ?」
 荒くれている男達の手が、アンジェリークの手にかかろうとした時だった。
「汚い手で触ってんじゃねえよ!」
「うわあああっ!」
 聞き慣れない声と共に、誰かが男の手をぎゅっと握り締めあげたのが判る。
 アンジェリークは、恐る恐る見てみると、銀の髪をした青年が、男をいとも簡単に締め上げていた。
 その姿は、アンジェリークに記憶の衝撃を与える。

 まさか・・・!? 
 銀の髪!

 青年は、眩しいばかりの銀の髪をしており、とても艶やかだ。
 それが彼女には衝撃だった。
「野郎!!!」
 男の仲間が青年にかかっていくと、青年は冷酷に笑い、ホルスターから銃を抜くと、男たちの一人に突き付ける。
「これで脳天を破壊されてえか? おっさん?」
 青年の指がトリガーにかかり、男達は震え上がった。
「もっ、もうしませんっ!!」
 青年の眼光の冷酷的な鋭さに、男達は恐れをなして馬車から飛び出していく。
 男たちの情けない姿と、青年のかっこの良い姿とを見比べながら、うっとりとしてしまう。

 間違いないわ。
 絶対に彼よ!

「有り難う」
 ペコリと頭を下げると、アンジェリークは青年の顔をじっと見つめる。
「何だ? 俺の顔がどうした?」
「あなた、この街で暮らしたことはある?」
「ねえよ」
 あっさりとした答えに、アンジェリークはあからさまにがっかりした。

 銀の髪の人ってごまんといるものね

「俺は流れ者だ。この街は初めてだしな・・・。賞金稼ぎをしながら、気ままに生活してる」
 賞金稼ぎイコール腕っぷしが強いイコール用心棒に最適。という図式が、即座にアンジェリークの中に成り立った。
「今夜の宿はありますか?」
「・・・いや、これから取るところだが・・・」
 アンジェリークの頭の中で鐘の音が鳴り響く。
 これ以上理想的な人はいない。
 彼女はじっと彼を見た。
「うちは牧場をやっているんですけど、今夜はうちで泊まりませんか?」
 アンジェリークは明るい調子で言うと、青年の革のベストをついっとひっぱる。
「おまえ、大胆だって言われたことねえか?」
 呆れたように青年は言うと、溜め息を吐いた。
「・・・無謀だとは・・・」
 段々と声が小さくなる彼女が妙におかしくて、青年は喉を鳴らして笑う。
「助けてもらったからって、ほいほい信じるのは甘いぜ? その甘さは命取りになるぜ? こんなならず者の多い西部じゃな」
「助けてくれた人を信じて何が悪いんですか?」
 まっすぐアンジェリークは青年を見つめた。その眼差しが、余りにも澄んでいて、アリオスは胸の奥を突かれた。

 今時いるんだな・・・。
 こんな真っ直ぐな奴…

「うちで泊まったほうが特よ! ごはんは美味しい!!」
 余りに必死で説得する少女が、青年にはなぜだか可愛く思える。
「ごはんって、まさかおまえが作るのかよ!?」
「そうだけど…」
「だったら期待出来そうにねえな…」
 わざとからかうかのように青年はいい、アンジェリークを挑発してくる。
「理由なんてないでしょ! うちに泊まってください!」
 強くアンジェリークは言う。
「判った。そこまで言うなら泊まらせてもらうぜ」
「ホント!」
 アンジェリークの表情は一気に晴れ上がり、明るい満面の笑顔を浮かべた。
「まだ、名前を言っていなかったな? 俺の名前はアリオスだ」
「アリオス・・・」
 アンジェリークは胸にその名前を刻み付けるかのように、呟いた。
「私はアンジェリークよ。宜しくね」
 澄んだ瞳を向けられて、小さな手を差し出されれば、アリオスも差し出して握り締める。
「よろしくな、アンジェリーク」
 二人はしっかりと手を握り合って、初めて握手を交わした。
 少し照れくさそうに握手をするアンジェリークが、アリオスには微笑ましい。

 ここにいれば、何か情報を得ることはできるだろう…。
 奴らの…

「話が決まった所で、うちに行くわよ!」
 アンジェリークは明るき言うと、馬車に乗り込み、手綱を持った。
「ああ」
 アリオスも、栗毛の馬に颯爽と跨ると、馬車の近くまで馬を歩かせる。
「準備出来たぜ?」
 馬上の彼もなんとカッコいいのかと思いながら、アンジェリークは見惚れてしまった。
「おい、いつになったら出発するんだ?」
 声を掛けられ、彼女ははっとする。
「ああ。じゃあ行くわよ! 着いてきて!!」
「オッケ」
 馬車がゆっくりと動き出し、アリオスもそれに続く。
 手綱をさばくアンジェリークは大したものだと、アリオス感心せずにはいられなかった。
「おまえ、随分と上手いじゃねえか?」
「子供の頃からやっていたもの。馴れるわ」
 笑いながら彼女は何でもないことのように言う姿が、アリオスには好ましく移る。
「馬はどうだ?」
「馬も乗れるわ。
 じゃないと牧場の娘は出来ないもの」
「だな…」
 二人のはなう様子を見ているひとつの影があった。
 この町の保安官オスカーである。

 牧場のお嬢ちゃんの横にいるあの男は…。
 ひょっとして…

 彼は複雑な思いで、二人の姿を見つめていた-----


コメント

72000番のキリ番を踏まれた沙羅様のリクエストで、西部劇なアリオス・アンジェです。
 今回は出会い編です。
これからカッコいいアリオスをお見せする予定です。
銃ももっとばしばしやりますので宜しくお願いします