Crazy For You

PREVIEW

「アンジェリーク、ちょっと来てくれないか?」
 授業が終わり、美術室を出て行こうとすると、美術の教科担任であるセイランに、アンジェリークは呼び止められた。
「はい」
 彼女は屈託なく返事をすると、彼に促されるようにして美術準備室絵へ入る。
「アンジェリーク…、突然だけど、僕の絵のモデルになってくれない?」
「え!?」
 うっすらと微笑むと、セイランは値踏みをするかのように、彼女を見つめる。
「そんな…、私なんかが絵のモデルになっても、ダメです!! セイラン先生の絵に傷がつきます!」
 彼女が否定するも、セイランはうっすらと微笑をy壁ながら、眉を僅かに上げた。
「そんなことないよ。絵のコンセプトである"天使”は、君以外には考えられないと思うけど?」
「ですが・・・」
「でもや、ですがはなしだよ? アンジェリーク。まあ、前向きに考えておいてくれればいいさ」
 ポンと、彼女の貨車中他をセイランは叩く。
 ”期待をしている”という思いを込めて。
「用件はそれだけだよ? 戻っていい」
「あ、はい・・・」
 彼女は戸惑いながら頷くと、そのまま一礼して、準備室を後にした。
「アンジェ! セイラン先生何だって?」
「レイチェル・・・」
 準備室から出てくるなり、待っていた親友のレイチェルは、アンジェリークに近寄ってくる。
 興味深げな眼差しと共に---
「ねえ、何だって?」
 好奇心の塊のようなレイチェルは、アンジェリークに楽しげに詰め寄る。
 もちろん悪気などあろうはずはない。
 彼女にとって、アンジェリークは大切な人なのだから・・・。
「うん・・・」
 彼女は躊躇いがちにあいまいな返事をする。
「ねえ、アンジェ!」
「----絵のモデル・・・、頼まれちゃったの・・・」
 上目遣いで恥ずかしそうに、アンジェリークはやっとのことでレイチェルに告げた。
「それ、ホント!! 凄いじゃない!! あのセイラン先生の絵のモデルだよ!!」
 親友はもちろん屈託なく微笑み、喜びの溢れる声で、まるで自分のことのように喜んでくれる。
「テーマは”天使”なんだけれどね・・・、ただ・・・」
「ただ・・・」
 余り表情の冴えないアンジェリークに、レイチェルはようやく彼女が意図する気持ちを組み入れ、声を上げる。
 そう、アンジェリークが問題にしているのは、彼女のモデルとしての技量云々の話ではなく、独占欲の強い、恋人についてだった。
 彼女の恋人は高等部の保険医。
 少し冷たい感じすらするクールな彼が、唯一、心からの愛情を送っている相手が、アンジェリークだった。
 当然ただで済むはずはない。
 あの独占欲の高い彼が、このことを知ったら、どのようになるか、容易に考えられてしまうから、恐ろしい。
「そうか・・・、レヴィアス先生・・」
「うん・・・。このことを知れば、レヴィアスはどうなるか・・・」
 二人はそっと見詰め合って、大きなため息を付き合う。
 知られないように、穏便にセイランにモデルの件は断らなければならない。
 だが、そうは問屋が卸さないのである。

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「レヴィアス先生」
 廊下で急に艶やかな少しさめた声に名前を呼ばれ、彼は歩みを止め、振り返った。
「セイラン・・・か」
 異色の眼差しに映る、明らかな不快感。
 彼はそれに答えるかのように、僅かに片方の眉を上げると、冷笑を彼に投げつけた。
「先生に話がありまして・・・」
「----何だ・・・」
 その答えにふっとセイランは微笑む。
「先生、アンジェリーク・コレットと、とても仲がいいそうですね?」
 彼の天子の名前を聞き、レヴィアスは異色の瞳に、さらにセイランへの嫌悪感を募らせる。
「僕は、今日彼女に、モデルを申し込みました・・・。とても絵になる娘ですから」
 その間、レヴィアスは強靭な精神力で表情を変えなかったが、内心はそうではなく、波立っている。

 俺の女に手を出すな・・・!
 このキザ野郎・・・

 レヴィアスとて大人のせいか、決しておくびにもそのような感情は出さない。
「どうして・・・、そんなことを俺に言う・・・?」
「さあ? 言ってみたかっただけですよ?」
 侮れない不適な微笑で、レヴィアスの氷のように詰めたい眼差しを捕らえる。
 一呼吸置いて、彼は真っ直ぐ真摯な眼差しをレヴィアスに向ける。
「----僕は、あなたに負けませんから・・・」
「・・・」
 その眼差しが、彼がアンジェリークに対して本気であることを何よりもあらわし、レヴィアスは息を飲む。
 二人の魅力的な青年は、たった一人の少女を巡って、互いをけん制しあう眼差しを送りあう。
 競い合う炎が、今、音を立てて燃え盛り始めた----


TO BE CONTINUED・・・


コメント

16820(いろはにおへど)のキリ番を踏まれた、あいこ様のリクエストで、
「嫉妬する保険医レヴィアス」です。
まだ続きますので、よろしくお願いします!