森に現れた二人の天使に、誰もが息を飲んだ。
二人とも、オリヴィエデザインの白いドレスに身を包み、あたかも今地上に舞い降りたようだ。
「アンジェ〜、綺麗!!」
「レイチェルだって!!」
二人は互いに手を取り合い、少女らしくきゃきゃと声を上げている。
彼女たちの周りには、既に撮影スタッフが勢ぞろいしていた。
その中には当然アリオスもいる。
アンジェリークは、立ち会うスタッフの中でいち早くアリオスを見つけ、彼に微笑みかけた。
彼は微笑みこそしなかったが、深い眼差しを見守るように彼女に向ける。僅かに翳った熱い光が、彼女への独占欲を表している。
アリオス…、あなたが見守ってくれるから、頑張れる…
その視線に、アンジェリークは笑顔で返した。
そのやり取りを、例チェル書きが着かないはずはない。
何かあったのかな〜。だったらいいな!
「お嬢ちゃんたち準備はいいか? 撮影を始めるぞ! いつものようにリラックスしていけよ。じゃあ先ず大きく深呼吸!!」
二人は両手を広げて、大きく深呼吸をする。
それはまるで天使が羽を広げているようで、森の風景とも溶け合っていた。
それをオスカーが逃すはずがない。
彼は素早くシャッターを切り、天使たちを美しく焼き付けてゆく。
二人が写真を撮られていると気付いた時には、すでにシャッターは切り終っていた。
流石だと、彼女たちは思う。
「オッケ、二人とも。あっちのカフェ形式の椅子と机に飲み物を用意したから、飲んでくれ!」
「はいっ!」
オスカーに促され、二人は嬉しそうに、とても瀟洒なパラソルの下のテーブルに向かい、席に着いた。
それに合わせてスタッフも移動する。
席に座るなり、レイチェルはアンジェリークに小さくて招きした。
「何? レイチェル」
不思議そうに小首をかしげながら、アンジェリークはそっとレイチェルに顔を近づける。
「----ね、アリオスさんと何かいいことあった?」
「…!!!!」
親友の鋭い突っ込みに、アンジェリークは大きな目を更に大きく見開いた。
「や・・・やだ…」
「アナタとアリオス産は、とってもお似合いよ! 最も…、ワタシとエルンストほどではないけどね〜!!」
レイチェルの囁きに、アンジェリークはすっかり顔を赤らめてしまい、はにかむように頬を両手で包み込んでいる。
その姿が可愛らしくて、レイチェルが楽しそうに笑っている。
その間もオスカーはカメラのシャッターを切りつづける。
「ホントに絵になるお嬢ちゃんたちだぜ」
彼は満足げに溜め息を吐く。
こんなに満足が行く写真を撮れたのは久しぶりだと感じながら。
「ホント、あのコたちをモデルに使ってよかった」
デザイナーであるオリヴィエは、とことん満足しているようだ。
「二人とも天使みたいだ、ね、アリオス?」
ヘアメイク担当にセイランも、自分の仕事にほっとしていると言ったところだ。
だがアリオスは違った。
ポーカーフェースのまま、じっとアンジェリークだけを見つめている。
愛しさと所有を滲ませた視線だった。
誰もが、もう二人の間に入ることなんて出来やしないと、痛感させられた一瞬だった----
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一日目の撮影は無事に終了した。
最高のデザイナー、最高のカメラマン、そして、最高のヘアメイクが終結した、珠玉の広告写真となった。
誰もが思う。
きっと広告界に残る作品になるだろうと----
モデルの二人も、自然にさせてくれたことを感謝していた。
あの雰囲気がなければ、あんなに自然な表情を出すことは出来なかったであろうと。
メイクも落とし、シャワーを浴びてさっぱりした気分になってから、アンジェリークとレイチェルは夕食を食べるために、大食堂にやってきた。
4人1組で座るテーブルは、自然と、アリオス、アンジェリーク、レイチェル、エルンストの組み合わせになっていた。
アリオスの目の前で夕食を食べるのは何だか照れくさく、アンジェリークははにかみながら夕食を食べている。
何度もチラリと上目遣いでアリオスを見つめる仕草に、彼は思わず喉を鳴らして笑う。
「何だよ、俺に何か用か? ん?」
判っていながら彼はわざと訊く。
「何でもないもん…」
「そうか?」
彼に顔を覗き込まれるだけで、彼女は益々顔を赤らめた。
やだ〜、何だか顔が火照ってくる!!
二人のアツアツぶりに、レイチェルとエルンストも顔を見合わせて笑ってる。
よかったね、アンジェ!!
「さてと、バカをからかうのはこれぐらいにして、エルンスト、明日の打ち合わせだ。行くぜ?」
「はい」
すっかり夕食を平らげた男性陣は静かに席から立ち上がる。
「アンジェ」
「え?」
声をかけられて振り向きざまに、アンジェリークはアリオスから鍵を瞬時に渡される。
「…この部屋で待ってろ・・・」
低く甘く囁かれて、彼女が顔を赤らめている間に、アリオスとエルンストはテーブルから離れた。
アリオスの精悍な後姿にうっとりと見惚れながら。アンジェリークの耳元に昼間の彼の言葉が蘇る。
『----女には俺がしてやる』
その官能的な響きに、彼女は全身を粟立たせた----
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「レイチェル、ごめん、ちょっと…出てくるね」
「アリオスさんのとこ?」
間髪いれずに返ってきた怜悧な性質の親友の言葉に、アンジェリークは全身を真赤にさせる。
全く判りやすい子だと、レイチェルは苦笑する。
もちろん、彼のこういったところが大好きなのだが。
「アンジェ、今夜は帰ってきても部屋に入れないからね? エルンストを呼ぶんだから」
魅力的に笑いながらウィンクする親友に叶わないと、アンジェリークは思う。
自然と笑顔が零れ落ちる。
「頑張れ、アンジェ!!」
「うん!!」
親友に見送られて、彼女は部屋を後にする。
「いってきます!!」
「いってらっしゃい!!」
ドアが閉じられる音がして、アンジェリークは姿勢を正す。
ありがと…、レイチェル
アンジェリークは、キーのナンバーだけを頼りに部屋へと向かった。
「301…、あった…」
部屋はすぐに見つかり、彼女は緊張の面持ちで鍵を開ける。
手には僅かに冷たい汗が滲んでいる。
何とか鍵を開けて中に入ると、すぐに部屋の電気をつけた。
先ず目に入ってきたのは、やはりベッドだった。
部屋の中央に置かれたベッドはダブルベッドだけ・・・。
可愛いカントリー調のキルトがかけられ、部屋の雰囲気を優しくしている。
その存在は、彼女に羞恥と嬉しさ、そして、緊張を与える。
一番大好きな男性(ひと)と結ばれるのはとても言葉では表現できないほど嬉しい。
だが、その甘美な行為を考えるだけで、羞恥心がこみ上げてくる。
アリオスなら…、アリオスならってずっと思ってた…
だから嫌じゃない…。
だけど…、恥ずかしさと緊張で…、心臓がばくばくする。
彼女は、ゆっくりと、ベッドの端に腰掛けて、彼が来るのを待つ。
その行為が、彼を誘って見えるなんて、彼女は全く気がつかない。
時計の針だけが、音を立てて動いている。
アリオス…、早く帰ってこないかな…
彼女は、疲れが出たせいかどんどん瞼が重くなる。
何時しか彼女は、ベッドに倒れこみ、規則正しい寝息を立てていた。
打ち合わせは思いのほか延びてしまい、アリオスが部屋に着いたのは10時を過ぎていた。
彼はそっと部屋に入りドアの鍵をかけると、明りの着いた部屋に入ってゆく。
「アンジェ?」
名前を呼んでも彼女から返事は無い。
ふと、彼がベッドに視線を落すと、無防備に眠る天使の姿があった。
規則正しい寝息を立てる彼女が、ひどく愛らしい。
彼は、優しく深い愛情がこもった眼差しで彼女を見つめると、フッと愛しげに微笑む。
「アンジェ…、近いうちにな・・・? 今度はこうはいかないからな?」
アリオスは優しい口づけをそっと彼女に送った----
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翌朝、アンジェリークが目覚めると、視界には先ず、見慣れない天井が入ってきた。
そうか…、私、昨日、ここで寝ちゃったんだ…
身じろぎをしようとして、彼女は動けないことに気がついた。
目を良く凝らしてみると、逞しい腕に抱かれ、その広い胸に体を預けている自分がいる。
視線を上げると、そこには、綺麗な銀の髪を艶やかに乱した愛しい男性(ひと)が、規則正しい寝息を立てている。
アリオスの寝顔初めて見た。可愛いんだな…
思わずその寝顔に見惚れてしまう。
「バーカ、何、見惚れてんだよ!!」
「あ。アリオス!!」
抱きしめられる腕に力を込められ、彼女の呼吸が速くなる。
「愛してる…」
「…ん…!!」
深い口づけを送られ、アンジェリークは身体に旋律を覚える。
初めての時とは違い、アンジェリークはアリオスの舌に上手く絡ませる。
唇が離されても、アンジェリークはくらりと首を仰け反らせる。
「これからおまえの場所は俺の腕の中だからな、離れるなよ…」
甘く、低い囁き。
それを聞くだけで、彼女は大きな瞳に涙を浮かべる。
「バーカ、泣くな。これから撮影があるのに、目を腫らすなよ?」
クシャりと彼に栗色の髪を撫でられて、彼女は顔をくしゃくしゃにした。
「うん…。大好きだから、世界で一番大好きだから…!!」
彼女は彼の首に腕を絡ませ、肩を震わせている。
アリオスは、小さな彼女の暖かさに、思わず優しい笑顔になってしまう。
「バーカ、判ってる。こんな場所でこういうことすんなよ。俺の理性が持たねえだろ?」
「ゴメンね、私が寝ちゃったばっかりに…」
「いいぜ? 今度こそ、女にしてやるからな、覚悟しとけ?」
艶やかに微笑まれると、アンジェリークの理性もどこかに行ってしまいそうになる。
「うん、今度ね!」
二人はじっとお互いに見惚れあう。
「もう…、俺の傍を離れるなよ? ずっと、一緒だからな…」
「うん…、ずっと傍にいる。私はずっとあなたの傍にいたいから…」
再び唇が重ねられる。
お姉さん…
私のたった”一人の男性(ひと)”がようやく、振り向いてくれました-----
THE END
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「少女漫画と私」
「(I LONG TO BE)CLOSE TO YOU」もようやく大団円を迎えることが出来ました。
3回まではかなりだれ気味で更新していましたが、皆様の投票などのご意見に支えられて、
何とかここまで辿り着くことが出来ました。
当初から、ふたりが付き合うまでのプロセスを書きたかったので、ここで連載はおしまいです。
今回のテーマは最初にお話したように、「少女漫画」です。
「少女漫画」の鉄則で、「結ばれるまでの過程を描く」というのがあり、今回はそれを踏襲してみました。
私はマンガ好きなで、かなりの数を読んでおりまして、少女漫画もまた然りです。
その王道を今回は選ばせて頂きました。
ちなみにこの二人は、誕生日創作「EVERLASTING」ではじめて・・・と言う設定です。
(ですがこの裏は書いてませんが(苦笑い))
肝心のところでアンジェに寝られて、アリオスさんは悔しいでしょうが…。
最後に、投票をしてくださいました皆様、及び、ここまで辛抱強く読んでくださった皆様に感謝を申し上げます。
2001年1月26日 金曜日 午後 11:52:14 tink
