アリオスは、少女の背中に羽根が生えているのではないかと、一瞬、錯覚をする。 彼は、少女を、見つめずにはいられない。 「ようこそ! あなたをお待ちしておりました。私は、アンジェリーク・コレットのチーフマネージャのエルンストと申します」 堅い印象の青年が立上がり、アリオスに握手を求めた。 握手をしながらも、アリオスの瞳はアンジェリークに釘付けだ。 「お噂はかねがね聞いております。どうかよろしくお願い致します。アンジェリーク、ご挨拶を」 すっとソファから立ち上がった彼女はその身のこなしは、一分の隙もない。 「アンジェリーク・コレットと申します。ご迷惑をお掛けします」 しっかりと頭を下げて挨拶が出来るのは、アリオスにとっては好ましい。 その眼差しも澄んでいるが頼もしかった。 「アリオスだ。宜しく頼む」 手を差し出した時、アンジェリークが一瞬はかなげに笑うのを彼は見逃さなかった。 とても印象的だ。明るく笑ってはいるが、孤独を感じる。 これが”スーパースターゆえなのか・・・。 「アンジェリーク、アリオスさんは、シークレット・サービス出身の、ガードについては彼以上の人はいません。安心なさって下さい」 コクリと頷くが、アンジェリークはどこか大袈裟のような気がしていた。 「なんだか大層なきがするわ。うちにはちゃんとボディガードがいるわ」 「何を言っているんですか! 現にあなたは危険にさらされ狙われたんですから!」 自覚が余りなさそうに見える少女に、アリオスは眉根を寄せた。 危機管理の感覚がないお姫様か・・・。 アリオスは、数人の取り巻きに囲まれている彼女を、探るように見つめ、僅かにに目を細めた。 「庭のセキュリティを見たい」 「ご案内します」 エルンストが立ち上がり、アリオスを庭へと出る大きなガラス戸に案内する。 「ここからの眺めは最高ですよ」 「でも警備には、最悪だ」 冷たく言い放つと、アリオスは庭へと足を踏み入れる。 その広く、精悍な背中に、光が差し込む。 スーツのジャケットを脱いだせいか、白いカッターシャツに光が反射して眩しい。 その光が眩しくて、アンジェリークは見惚れてしまう。逞しく頼れる広い背中が、彼女には甘やかな羨望を抱かせる。 頼り甲斐のある、広い背中をした人・・・。だけど、どこか寂しい影がある・・・。私と同じ孤独な人・・・。 アリオスが外に出ていく姿を、彼女は見つめずにはいられなかった。 アリオスは庭を見てまわる。 庭は広大だった。 ホテルの中庭と匹敵するほどの美しさと広さがある。 「流石は”スーパースター”か・・・」 しみじみと呟くアリオスに、エルンストは複雑な表情をする。 「アンジェリークは、あなたが考えている、ショービジネス界の典型的なタイプではありません。普通の17歳の少女です」 「世界で一番有名なな」 「確かに・・・」 庭をくまなく見つめながら、アリオスは警備状態を確認する。 「セキュリティ状態は最悪だな」 「ええ。それは分かっています。そのアドバイスも欲しくて、あなたにお願いしたんです。ウ゛ィクトールさんにご無理を言って・・・」 罰が悪げにエルンストは呟き、頼るかのようにアリオスを見つめる。 「シークレット・サービスにいたあなたなら、確実だと思いましてね。あなたがいれば、”大統領暗殺未遂”は起きなかったと・・・。あなたが非番ゆえに起こったと、聞きました」 「良く言い過ぎた」 簡潔に言うと、アリオスはバルコニーに上っていく。 あくまで彼は、その職業柄か、とても冷静である。 「大統領には何年付かれたんですか?」 「4年付いた」 エルンストは満足げに頷いた。 「あなたなら、きっと、今回のことからアンジェリークを守れるはずです!」 「----その前に」 アリオスはバルコニーの直ぐ上の部屋を一瞬だけ見つめる。 「本人に自覚を持たせろ…。 "自分は狙われているのだ”ということをな---- 本人があれでは守りがいはねえよ」 諭すように感情なく溜息交じりで言うと、アリオスはスーツのジャケットを纏う。 「では…」 明らかにエルンストは、ネガティブに捕らえ、その表情を曇らせた。 「明日から、先ずは屋敷の周りのセキュリティを重点に考える」 「では!」 途端にエルンストの表情が明るくなり、アリオスに頭を下げ、その思いを伝える。 「有難うございます!!!」 「じゃあ、明日な」 彼はすぐさまルンストに背を向けると、そのまま、車を止めてある場所へと向う。 …狙われた、お姫様か…。 騎士の役は俺のしょうにはあわねえ… 屋敷を出て行くアリオスの様子を、アンジェリークは部屋から見ていた---- --------------------------------- 暗闇の中、アンジェリークのプロモーションビデオを見ている、一人のファンがいた。 新聞の切抜きを不気味にも張り合わせながら----- I HAVE NOTHING YOU HAVE EVERYTHING 薄気味悪い光が、瞳を覆っていた。 --------------------------------- 翌日から、アリオスの仕事は本格的に始まった。 彼はあらゆる場所のセキュリティをチェックし、すぐさまその対策を立ててゆく。 「せいが出ますね」 「ああ、あんたか…」 振り返ると、そこには書類を抱えたエルンストがいた。 「頼もしい限りです。あなたのようなプロをお迎えできて」 アリオスは、冷たい眼差しでエルンストを捕らえると、感情なく声を出す。 「油断はするな。 どんな無能な暗殺者であっても、一人だけは殺せる。隙をつける。 今までの例を見てみろ」 冷静なアリオスの言葉に、エルンストははっとする。 過去の事件は、殆どがそういった例だ。 「そうですね、すみませんでした」 「これから気をつければ良い。 ところで、男手を借りたいが」 「直ぐに!」 エルンストはすぐさま屋敷にいる男手をアリオスの元によこし、アリオスは彼らとともに庭に出た。 「庭の木の葉はなるべく刈れ。太陽が当たって、顔が見れるようにしろ」 「はいっ!」 アリオスの指示の下、力を合わせて、屋敷のセキュリティがより完璧なものへと動いてゆく。 何が起ってしまうのかしら… その様子を見つめながら、アンジェリークは、居たたまれない不安に襲われていた---- |
TO BE CONTINUED…

コメント
一体いつ更新したか、忘れてしまいました…
ごめんなさい、本当に申し訳ないです。
真面目にこれからは更新しますので、
お待たせした皆様、お楽しみに。
映画では、「レーガンのSS」だったという設定で(まあ時代ですね)
ヒンクリー事件の話なども絡んでますねえ。
ところで、このヒンクリー事件ですが、詳しいことは下に書いておくのでご興味のある方だけお読みください。
じつはですね、
この事件の背景を下にして作ったのが「DESPERADO」の元ねたでした。
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「ヒンクリー事件」(レーガン大統領暗殺未遂事件)
1981.3.30午後2時35分。レ−ガンは、首都ワシントン北東部にある「ワシントン・ヒルトン・ホテル」から出てきたところを狙撃された。
犯人はジョン・ヒンクリー25歳。
6発発射された銃弾は、一発は大統領専用リムジンに当たって跳ね返り、レーガンの左側から命中し、肋骨と肺を突き抜け
心臓まで後3cmのところで止まった。
一発は大統領報道官だったジェイムズ・ブレイディの頭部に命中、別の一発はシークレットサービスのティム・マッカーシー、さらに一発は、
警官のトーマス・デラハンティに当たった。いずれも重傷を負い、後の二発外れた。
掴まったヒンクリーは、
犯行に及ぶまでにロバート・デニーロが主役を演じ、当時14歳だったジョディ・フォスターが売春婦を演じた
「タクシードライバー」を15回も見(この映画は大統領候補の暗殺を扱っている)、サウンドトラック、原作本などを集めていた。
そして、狙撃に2時間前には、ジョディ・フォスターに「アナタを振り向かせるために大統領を暗殺する所だ」とファンレターを書いていた。
投函はされなかったが、結局、ジョディ・フォスターは、この後、女優業を半ば休養せざるを得なかった。