THE BODYGUARD

CHAPTER1 NOBODY KNOWS


 暗闇に一発の銃声がなった----
 男は銃を構えながら、依頼人である初老の男の頭を、片手で押さえつける。
「動くな!」
 小声で諭すと、依頼人の男は僅かに頷く。
 狭く、小さな地下駐車場。
 彼はすでに、三人もの刺客を撃ち殺していた。
 背後の非常階段に、かすかな人の気配がする。
 彼は銀の髪を乱して振り返り、銃口を向ける。
 銃声は、その瞬間響いた。
 男は正確にトリガーを引くと、そのまま微動だにしない。
「うわあああ!!」
 階段から大きな悲鳴と共に、男が墜落してゆく。
 片手に、銃を忍ばせて。
 それを、彼は表情一つ変えずに見守った。
「もう大丈夫だ…」
 男は特に感情のない声で呟くと、そのまま依頼人を抱き起こしす。

 ----そう、それは彼にとっては日常茶飯事。
  命を守る"ボディ・ガード”の彼にとっては----

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 グラスが合わさる音がする。
 一仕事を終えた男は、依頼人に労われていた。
 今回の彼の依頼人は、富豪の男性だった。
 そのせいか、ボディガード料も破格だ。
 グラスに入るウォッカの味をゆっくりと楽しみながら、男は、豪華に装飾をされたバースタイルのパーティルームを、無機質に見つめた。

 俺には一生縁のない世界だ…

「ところでアリオス」
 アリオスと呼ばれた銀色の男は、僅かの不思議な異色の瞳で依頼人を見つめる。
 もちろん、そこには感情など宿ってはいない。
「なんでしょうか?」
「今日はあの状況でよく判ったものだな?」
 感心するように依頼人は呟き、何度も何度も頷く。
「あんなところで、普通、洗車はしない…」
 簡潔にテノールが響く。
「そうか…」
 依頼人はさらに恐れ入ったとばかりに、感嘆のため息をついた。
「どうだ…、私の専属にならんか?」
 それは心から感心しての申し出であった。
 実際、悪くない申し出ではある。
 だが。
「いいえ。お断りします」
 予想できていた答えだったせいか、依頼人は余り驚かなかった。
「やはりな…。だが、なぜ専属にならない? 今のフリーの状態よりは、命の保証はされているだろう?」
「----俺は、一箇所みいられない性質の人間なもので」
 アリオスらしい答えだと、男は思う。
 彼はふっと微笑むと、アリオスを真摯に見上げる。
「君にも震えたりすることはあるのか?」
 その言葉に、彼は僅かに笑みを浮かべた。
「それは…、あなたが思ったとおりですよ」

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 アンジェリーク・コレット----
 その名を知らないものは、世界中にいないとまで言わしめる、絶頂の歌手だ。
 彼女の歌声は”天使の歌声"と言われ、誰もの心を癒す不思議な力があった。
 彼女の微笑みも、任期の要因おひとつになっており、その大きな瞳ではにかむように微笑んだとき。
 女たちは、彼女が知ったしい友達のように感じ、男たちには女神に思え、そして年配のものには抱きしめてやりたいように思われる。
 彼女は夢の女性。
 誰もが夢を紡ぐ天使。
 きっと、誰もが彼女に出会えば、彼女だけのために生きていこうと思うに違いない。
 だが彼女は誰よりも孤独だった。

 どうして誰も私を理解してくれないの…

 誰からも愛されるアンジェリークであったが、愛されるゆえの深刻な悩みも抱えていた。
 半年前から、奇妙なファンレターが届き始めたのである。
 そして----
 彼女にプレゼントされた、彼女を模した人形が爆発し、コンサートの中の楽屋がこなごなになる事件が起こったのである。
 人形は、彼女の楽屋を跡形も残さなかった----

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「週2000ドルでどうだ?」
「だから、芸能人のガードはいやだと言っているだろう?」
 郊外にあるアリオス邸では、先ほどからこのようなやり取りが際限なく続いていた。
 アリオスの迫っていたのは、彼のSS以来の先輩、ヴィクトールである。
 彼は何度もアリオスに交渉を掛ける。
「じゃあ、週に2500ドルは?」
「あのさ、ヴィクトール。何も俺じゃあなくても、芸能人のガードなら、特に女のガードなら、オスカーが飛びついてくるだろう?}
 面倒くさそうに言いながら、アリオスは庭にあるダーツにナイフを次々に投げて、命中させている。
「俺はおまえにあっているかと思うし、それに、狙われている以上は、凄腕のおまえしか彼女を守ることは出来ないだろう?」
 アリオスは僅かに身体をピクリとさせる。
「3000ドルの週給ならやっていいぜ?」
 無理難題を押し付けるかのように言ったが、ヴィクトールの返事は意外にイエスだった。
「出そう!」
 ああいってしまった以上、アリオスは、穴居浮く、引くに惹かれない状況に、自分を追い詰めてしまったのであった。

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 翌日、アリオスはおんぼろ車で、ヴィクトールに教えられた屋敷へと来ていた。
 インターホンを通るために言うう、暗号もしっかりと覚えて。
 彼は運転席から、インターホンを押す。
「はい」
「電話の父ベルです」
「間に合ってます」
「元素記号は30」
「判りました、開けます」
 このような、意味のない会話を繰り返した挙句、彼はようやく中に入れた。
 適当に庭で車をとめると、彼はまた、車を洗う男に声を掛けた。
「エジソンです」
 そう言った瞬間、彼は、洗う手を止める。
「お待ちしてました。"エジソン様”。アンジェリークがお待ちです」
 男はそのままアリオスに深く頭をたれる。
「ではどうぞ、こちらへ」
 男に案内されている間も、何度かセキュリティを通過して、ようやく、少女のいる、豪華な部屋へと通された。
「アンジェリーク」
 呼ばれて振り返った栗色の紙の少女に、アリオスは息を飲んだ。

 天使…!!    

TO BE CONTINUED…



コメント

ようやく「幻想映画館」の第二弾をお届けできました。
今回は「ボディ・ガード」です。
またよろしくお願いします!!