暗闇に一発の銃声がなった---- 男は銃を構えながら、依頼人である初老の男の頭を、片手で押さえつける。 「動くな!」 小声で諭すと、依頼人の男は僅かに頷く。 狭く、小さな地下駐車場。 彼はすでに、三人もの刺客を撃ち殺していた。 背後の非常階段に、かすかな人の気配がする。 彼は銀の髪を乱して振り返り、銃口を向ける。 銃声は、その瞬間響いた。 男は正確にトリガーを引くと、そのまま微動だにしない。 「うわあああ!!」 階段から大きな悲鳴と共に、男が墜落してゆく。 片手に、銃を忍ばせて。 それを、彼は表情一つ変えずに見守った。 「もう大丈夫だ…」 男は特に感情のない声で呟くと、そのまま依頼人を抱き起こしす。 ----そう、それは彼にとっては日常茶飯事。 命を守る"ボディ・ガード”の彼にとっては---- ------------------------------- グラスが合わさる音がする。 一仕事を終えた男は、依頼人に労われていた。 今回の彼の依頼人は、富豪の男性だった。 そのせいか、ボディガード料も破格だ。 グラスに入るウォッカの味をゆっくりと楽しみながら、男は、豪華に装飾をされたバースタイルのパーティルームを、無機質に見つめた。 俺には一生縁のない世界だ… 「ところでアリオス」 アリオスと呼ばれた銀色の男は、僅かの不思議な異色の瞳で依頼人を見つめる。 もちろん、そこには感情など宿ってはいない。 「なんでしょうか?」 「今日はあの状況でよく判ったものだな?」 感心するように依頼人は呟き、何度も何度も頷く。 「あんなところで、普通、洗車はしない…」 簡潔にテノールが響く。 「そうか…」 依頼人はさらに恐れ入ったとばかりに、感嘆のため息をついた。 「どうだ…、私の専属にならんか?」 それは心から感心しての申し出であった。 実際、悪くない申し出ではある。 だが。 「いいえ。お断りします」 予想できていた答えだったせいか、依頼人は余り驚かなかった。 「やはりな…。だが、なぜ専属にならない? 今のフリーの状態よりは、命の保証はされているだろう?」 「----俺は、一箇所みいられない性質の人間なもので」 アリオスらしい答えだと、男は思う。 彼はふっと微笑むと、アリオスを真摯に見上げる。 「君にも震えたりすることはあるのか?」 その言葉に、彼は僅かに笑みを浮かべた。 「それは…、あなたが思ったとおりですよ」 ------------------------------ アンジェリーク・コレット---- その名を知らないものは、世界中にいないとまで言わしめる、絶頂の歌手だ。 彼女の歌声は”天使の歌声"と言われ、誰もの心を癒す不思議な力があった。 彼女の微笑みも、任期の要因おひとつになっており、その大きな瞳ではにかむように微笑んだとき。 女たちは、彼女が知ったしい友達のように感じ、男たちには女神に思え、そして年配のものには抱きしめてやりたいように思われる。 彼女は夢の女性。 誰もが夢を紡ぐ天使。 きっと、誰もが彼女に出会えば、彼女だけのために生きていこうと思うに違いない。 だが彼女は誰よりも孤独だった。 どうして誰も私を理解してくれないの… 誰からも愛されるアンジェリークであったが、愛されるゆえの深刻な悩みも抱えていた。 半年前から、奇妙なファンレターが届き始めたのである。 そして---- 彼女にプレゼントされた、彼女を模した人形が爆発し、コンサートの中の楽屋がこなごなになる事件が起こったのである。 人形は、彼女の楽屋を跡形も残さなかった---- ---------------------------------- 「週2000ドルでどうだ?」 「だから、芸能人のガードはいやだと言っているだろう?」 郊外にあるアリオス邸では、先ほどからこのようなやり取りが際限なく続いていた。 アリオスの迫っていたのは、彼のSS以来の先輩、ヴィクトールである。 彼は何度もアリオスに交渉を掛ける。 「じゃあ、週に2500ドルは?」 「あのさ、ヴィクトール。何も俺じゃあなくても、芸能人のガードなら、特に女のガードなら、オスカーが飛びついてくるだろう?} 面倒くさそうに言いながら、アリオスは庭にあるダーツにナイフを次々に投げて、命中させている。 「俺はおまえにあっているかと思うし、それに、狙われている以上は、凄腕のおまえしか彼女を守ることは出来ないだろう?」 アリオスは僅かに身体をピクリとさせる。 「3000ドルの週給ならやっていいぜ?」 無理難題を押し付けるかのように言ったが、ヴィクトールの返事は意外にイエスだった。 「出そう!」 ああいってしまった以上、アリオスは、穴居浮く、引くに惹かれない状況に、自分を追い詰めてしまったのであった。 --------------------------------------- 翌日、アリオスはおんぼろ車で、ヴィクトールに教えられた屋敷へと来ていた。 インターホンを通るために言うう、暗号もしっかりと覚えて。 彼は運転席から、インターホンを押す。 「はい」 「電話の父ベルです」 「間に合ってます」 「元素記号は30」 「判りました、開けます」 このような、意味のない会話を繰り返した挙句、彼はようやく中に入れた。 適当に庭で車をとめると、彼はまた、車を洗う男に声を掛けた。 「エジソンです」 そう言った瞬間、彼は、洗う手を止める。 「お待ちしてました。"エジソン様”。アンジェリークがお待ちです」 男はそのままアリオスに深く頭をたれる。 「ではどうぞ、こちらへ」 男に案内されている間も、何度かセキュリティを通過して、ようやく、少女のいる、豪華な部屋へと通された。 「アンジェリーク」 呼ばれて振り返った栗色の紙の少女に、アリオスは息を飲んだ。 天使…!! |
TO BE CONTINUED…

コメント
ようやく「幻想映画館」の第二弾をお届けできました。
今回は「ボディ・ガード」です。
またよろしくお願いします!!
![]()