アルヴィース医院の朝は早い。 正確には、長女のアンジェリークの朝が早いのだ。 今日も彼女は、洗濯をしながら、医院を軽く掃除機を掛けて、その後、兄弟全員の朝食作りにかかる。 てきぱきと家事をこなす姿は堂に行っている。 三年前、両親が事故で亡くなり、それ以来兄弟六人で肩を寄せ合ってがんばってきた。 それ以来家事の一切を彼女は引き受けてきた。 今やベテラン主婦並みの腕前である。 「えっと、ミニかつはみんな好きだから入れてと…、レイチェルは美容に気を使ってるから繊維物をたくさん、アリオスお兄ちゃんとオスカーお兄ちゃんはバランス弁当、ゼフェルはお肉いっぱいで、マルセルは鳥のから揚げは嫌いだから入れないと…」 一気に、自分の分を含めたお弁当を六人分を作り上げている上に、微妙に全員のお弁当の内容が違うのだ。 「えっと、出来たと」 手早くお弁当を包みに包んだ後は、今度は朝食の準備。 これも彼女は手を抜かない。 簡単な栄養たっぷりのサラダを作った後、全員分のパンを焼きながら、プレーンオムレツを作るのだ。 そうしているうちに、ばたばたとみんなが起き始める。 やはり最初はアリオスだ。 「おはよう、アンジェ」 「おはようお兄ちゃん」 「お、今日のサラダは…」 と、手を出そうとしたところで、お約束にもアンジェリークに手をぺしりと叩かれた。 「お兄ちゃん、そんな暇が合ったら手伝って?」 「ああ」 出来上がった料理を、彼は両手にいっぱいダイニングのテーブルに運ぶ。 アリオスはこの家の長男で、医師だ。元々は大学病院で働いていたのだが、両親の事故死をきっかけに病院を継いだのだ。 頼りになる存在である。 「よ、俺も手伝うぜ?」 きちんとおしゃれに気を使って完璧な装いで次男オスカーがキッチンへとやって来た。 アリオスとは又違ってトラディショナルな服装に身を包んでいる。 「だったらオスカーお兄ちゃん、ゼフェルとマルセルを・・・」 と言いかけたところで、二階からベットから落ちるような音が二回する。 「兄貴が起こしてるみたいだ。じゃあ、俺は料理を運ぶぜ」 「うん」 オスカーがこまめにテーブルのセッティングしている間も、二階が騒がしい。 アンジェリークはそんな瞬間が凄く嬉しく思えるのだ。 「あんだよ!! アリオス!!」 ベットから布団ごと引き摺り下ろされて、枕を抱えながら、ゼフェルは悪態を吐いた。 「起きないおまえが悪い」 アリオスは腕を組みながら当然とばかりに、のたまう。 「わ〜ん、アリオスお兄ちゃんのばか〜!!!」 マルセルも寝ぼけ眼で枕を抱きしめ、いつものようにべそをかいていた。 「ほら、ガキどもは学校だろ? さっさと着替えろ? あまりアンジェリークに迷惑をかけるんじゃねえぞ?」 ギロリと睨んだゼフェルを、アリオスは軽く足でけった後出てゆく。 「くっそ!! 覚えてやがれ!!」 「ゼフェル…時代劇みたい…」 二人はそそくさと制服に着替え始めた。 「おはよ〜、アンジェおねえちゃん」 キッチンに入ってくるなり、レイチェルはアンジェリークに挨拶をする。 兄二人を無視してである。 「おはよう、レイチェル。今朝はレイチェルの大好きなサラダよ」 「きゃ〜嬉しい」 レイチェルは嬉しそうにテーブルにつく。 「おまえ…それで女かよ? 俺たち男がアンジェの手伝いをしたって言うのに」 「だって、おしゃれに時間がかかるもの」 きっぱりと離すレイチェルに、頭を抱えるアリオスである。 「ちったあ、アンジェを見習え?」 「いいもん〜! アリオスお兄ちゃんの意地悪!!」 「おまえね・・・」 その会話にアンジェリークは又くすりと笑った。 ゼフェルもマルセルも身支度をしてダイニングにやって来た。 最後にアンジェリークが席について、騒がしくも朝食が始まる。 「いただきます」 アリオスの号令の元、全員が手を合わせていただきますをする。 その後は…、又戦争である。 「あ〜、ゼフェルがぼくのサラダ取った!」 「だって、おまえが残してるからだろ?」 「美味しいものは最後にとっておくの〜」 いつもの騒がしさに、アンジェリークはくすりと笑った。 このまま、ずっとこのままでいられればいいのに… 彼女はご飯を食べながら、そう想わずに入られなかった。 朝食が終わって、再び戦争だ。 アンジェリークは食器を食器荒い乾燥機に入れて、スタートボタンを押して、テーブルなどを吹き、綺麗に片付けてから、エプロンを外す。 その間にも、同じ学校組の、ゼフェル、レイチェル、マルセルの準備は整う。 「アンジェ、お姉ちゃん行くよ?」 「待って」 レイチェルに声を掛けられて、アンジェリークはばたばたと玄関に向かう。 アンジェリーク、ゼフェル、レイチェル、マルセルの四人は、同じスモルニィ学院に、それぞれ高等部と中等部で所属しているのだ。 「じゃあ、行ってくるね? アリオスお兄ちゃん」 「ああ、気をつけてな?」 「お昼ご飯のお弁当は、冷蔵庫だから」 「サンキュ!!」 妹と弟を見送った後、アリオスは椅子に座ると、煙草を吸い始めた。 こうして、一家の一日は始まるのだ---- |