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梟がその城から飛び立ったのは、少女に逢いに行くためだった---- 梟はいつも見ていた。 少女の哀しみ、やるせなさを----- そこから必ず彼女を助け出してやりたいと、彼は少女のところに向かう。 彼女の為に歌い聴かせる。 永遠なんて、あっという間だ…。 ただ孤独なだけ…。 誰も責めたりはしない。 おまえがここからいなくなっても…。 波風の立たない日々は今のうちだけ 少女よ、真実の味は苦い…。 心を裂くように…。 だが我の世界に行けば、そこには真実があり、クリスタルの月でおまえを照らしてやれる。 我の世界へおまえを導こう…。 おまえの苦痛を取ってやるために… 梟は、少女の部屋の窓から見える、樹を止まり木にして、じっと少女を伺う。 「ねえ、メル泣き止んで?」 「うぎゃあああっ!」 彼女の腕の中にいる赤ん坊は、癇癪を起こして、泣き叫んでいる。 「ね、お願い? お姉ちゃんの言うことを訊けない?」 何度あやしても、少女の切ない思いに弟は応えてはくれなかった。 「アンジェリーク!」 「はい!」 名前を呼ばれて、彼女は慌てて部屋から顔を出す。 「メルを頼んだわよ! ちゃんとしないと、明日の外出は許可しませんからね!」 「はい! お母様」 階段下から聴こえる継母の声に少しうんざりとしながらも、アンジェリークと呼ばれた少女は、従順に応えた。 「そう。じゃあ頼んだわよ!」 「いってらっしゃい!!」 アンジェリークは、心無くそう言うと、ドアを締め、溜息をついた。 大きな青緑の瞳が哀しげに揺れる。 彼女の暗い表情を察したのか、メルは再び泣き出す。 「ごめん! お姉ちゃんが悪かったわ!」 17歳離れた弟メル。 父親と昨年再婚した後妻との間に出来た、コレット家の跡取だ。 それゆえに大切にされ、甘やかされている。 そして、アンジェリークの自由な時間を奪っていた。 彼女は、メルの子守りに忙殺され、疲れきっている。 その様子を、梟はじっと見ていたのだ。 「お話しようか? そうしたら寝てくれる?」 メルのくりっとした瞳が輝いた。 彼女は溜息をつくと、メルを寝かせるために、お話を始める。 ベビーベッドに寝かされたメルは、とても嬉しそうにアンジェリークを見つめた。 「昔、昔あるところに、不幸な女の子がいました。弟の子守りばかりをさせられ、継母には蔑まれていました。ですが、彼女は、いつも魔王に見守られていました。 魔王は見守っているうちに、彼女に恋をしてしまったのです…。 ある日、彼女は、弟の子守りに疲れ、魔王に祈ったのです。”私を子守りから自由にして下さい!”」 その部分をアンジェリークが感情をこめていったときだった。 不意に、停電が起こった---- 「停電!?」 アンジェリークは慌てて、スイッチのところに行き、何度かスイッチを押して試して見た。 「あれ!?」 その瞬間、外は真っ黒になり、風が嵐となって、木々を揺さぶり始める。 「メル!!」 やはりアンジェリークにとってはメル大切な弟だ。 彼女はベビーベッドに行き、弟を抱き上げようとした。 「メル!?」 不思議なことにベッドには弟がいなくなっている。 「メル!!!!」 アンジェリークはベッドのシーツをはいだ。 だがそこには誰もいない。 「メル!!!」 梟がドアから侵入しようとしている。 アンジェリークは、その恐怖とメルが突然いなくなった不安とで、半ばパニックになりそうだった。 どういうこと!? 「ねえメル!!! 何所にいるの!!!」 必死でアンジェリークは叫び、あたりを探し回るが弟はいない。 「あっ!!」 とうとう梟はドアを蹴破り、激しい嵐と共に部屋へと侵入してきた。 アンジェリークは、その嵐の風圧に、思わず目をきつく閉じた。 次の瞬間----- 風が柔らかくなり、目をあけてみると、そこには、漆黒の髪をした、青年が立っていた。 マント姿が、豊かな身長と、しなやかに鍛えられた肢体に様になっている。 足も長く、黒いブーツを着こなしている。 冷たいほど整った容貌。 感情の無い黄金と翡翠の眼差しが、アンジェリークを捕らえていた。 「あなたは…?」 「我を呼んだのはおまえだろう…。 アンジェリーク…」 青年の低い声は魅力的で、アンジェリークは、魅入られるかのように、動けないでいた--- |
TO BE CONTINUED…