Angel Can't Wait


 ふたりが自分たちの気持ちを確かめあって三か月あまり。
 甘く、まるで新婚のような生活をしている。
 毎日愛し合い、語り合い、甘く幸せな生活。
 アンジェリークはアルバイトを辞め、アリオスも女達とは完全に手を切った。

 今日も、アンジェリークは、学校の帰りに夕食の買い物をする。
 奥様さながらにきめ細かくアリオスの世話をするのが楽しかった。
 アリオスは、大学からすぐにフラットに帰り、アンジェリークと過ごす時間を大切にしている。
 週末は、ふたりでまったりと過ごし、本宅へは寄り付かなかった。

 そろそろ、週末は、アンジェと一緒に帰ってもかまわねえな・・・。

 そんな幸せな日々が続いている-----


「何だ、気分でも悪いのか?」
 夕食に余り手を付けないアンジェリークに、アリオスは怪訝そうに眉根を寄せ、顔を覗きこんだ。
「うん・・・。ごはんの匂いにむっときて・・・。しばらくしたら、すぐに治まるから・・・」
 必死に笑って気分の悪さを否定する彼女を、アリオスはそっと抱き寄せる。
「俺の前で強がりはやめろ。気分が悪かったら、明日は学校の帰りにでも病院に行け。
 夕食の支度は明日はしなくてかまわねえから」
「うん、有り難う」
 素直に頷き、アリオスの身体に凭れて、アンジェリークは甘えた。
「アリオスに甘えたら、少し食欲が出てきたみたい」
「バカ言ってねえで食いやがれ」
「うん」
 アンジェリークは笑いながら、食事を取り始めた。
「やっぱり明日病院に行け?」
「うん・・・」
 夕食をかなりの量、食べたにも関わらず、アンジェリークは再び気分が悪くなってしまった。
「ったく、あんなに気分が悪いのに、あんなに食うからだぜ?」
「反省してます・・・」
 しゅんと犬のように耳を垂れさせる彼女が、とても可愛らしい。
 最近の彼女は、愛らしさと美しさが同居しているようで、益々、アリオスは夢中で彼女を愛している。
「おまえ、本当に、最近は綺麗になったな? おかげで俺は、いつでもオールスタンバイだ」
「もう・・・」
 頬を薔薇色に染め、恥ずかしそうに彼の胸に顔を埋めるが、嬉しそうだ。
「なあアンジェ」
「なあに?」
「明日、ちゃんと病院に行けよ? 心配だからな」
 抱き締められたまま、甘く心配されるのは、くすぐったいが、とても嬉しい。
「有り難う。ちゃんと病院にいくわ」
「迎えに行くから、どこの病院に行くか教えてくれ」
「いいわよ。仕事が・・・」
 言いかけて、アンジェリークは、強く抱きすくめられた。
「仕事より、おまえが大事だ」
 ストレートな言葉に、アンジェリークは、真っ赤になってしまう。
「うん。判った。メールするね」
「ああ」
 何度かキスをして、しっかりと抱き合った。


 シャワーを浴び、かなり落ち着いたアンジェリークを、アリオスはしっかりと抱き締める。
「かまわねえか? 気分が悪かったら、今夜は止めるぜ?」
「いいわ・・・。大丈夫だからね?」
 ぎゅっと、愛しげに強く抱き締めると、アリオスはベッドにアンジェリークを横たえ、愛し始める。
「気分が悪かったら言え?」
「はい・・・」
 どの表情も、アリオスにとっては、可愛くて堪らない。
「おまえは最高の女だぜ?」
 気分がいつ悪くなってもおかしくないのにも関わらず、応えてくれる彼女が可愛らしくて堪らなかった。

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 翌日、学校を終えたアンジェリークは、アリオスに言われた通り、病院へと向かった。
 彼のアドバイスは「総合病院に行け」とのことだったので、アンジェリークは、その通りに従う。
 「アルカディア総合病院に行きます。アンジェ」
 アリオスにメールを送り、彼女は診察を受けることにした。

 病状を説明すると、すぐに医師は尿検査を指示し、アンジェリークはそれに従う。
 その後に、産婦人科に回され、少し不安になった。

 婦人科系の病気なのかな・・・。
 だったら嫌だな・・・。

 最終生理日を訊かれたことと超音波の検査で、ようやく一つのことに行き着いた。

 私・・・、妊娠してる?

「おめでとうございます。二か月ですね」
「あっ、有り難うございます・・・」
 思わず釣られて、アンジェリークもついつい頭を下げてしまう。

 アリオスの赤ちゃん・・・。可愛い子だろうな。

 診察室を出るときには、既に母親の顔をし、どこかしっかりとしてきている。
 アリオスに電話を掛けようとすると、彼が既に病院の前で待っいててくれた。
「どうだった?」
「うん・・・。健康は健康なんだけどね・・・」
 アンジェリークはそこまで言うと、少し言葉尻を震わせた。助手席にのりこみがらも、彼女は逡巡する。

 アリオス、怒るかな? だけど・・・。

 車を運転しながら、アリオスは不意に訊く。
「何か月だ?」
 アンジェリークはびくりと身体をさせると、驚いたように目を丸くした。
「どうして・・・」
「毎晩、愛し合ってるんだ。当然の結果じゃねえか。おまえに最初に言ったと思うが、愛し合うのは、”運動”とは違うぜ? ふたりの人間が、真剣に愛し合った結果だからな。
今から・・・、役所にいって、ちゃんと手続きをとるぞ」

 判っててくれたんだ・・・。

 嬉しくて、アンジェリークは身体に感動が押し寄せるのを感じる。
 涙が出て堪らない彼女の頬を、そっと指先でなぞった。
「-----嬉しいぜ。素直にな」
「産んでいいの?」
「あたりまえだ。
俺とおまえの子供だ。世界で一番幸せな子だからな?」
 彼は少し照れくさそうに笑うと、ハンドルをゆっくり切る。
 暫くして、車が静かに役所の前に止まった。
「待ってろ」
 車からアリオスが先に降り、助手席のドアを開けて、彼女に手を差し伸べる。
「まだ言っていなかったな?
 愛してる。結婚してくれ-----」
 夕陽にアリオスの銀色の髪が光り、その言葉はとても厳かに響いている。
「はい…」
 返事とともに、アンジェリークは、アリオスの手を取り、車から降りた。

 新たな一歩が始まる。
 だが、アリオスと同じ道ならば、どんな困難が待ち構えていても、乗り越えることが出来る。
 そして愛しい子供。
 アリオスの広い胸があれば、どんなことでも耐えていけるような気がアンジェリークにはしていた-----

 私たちの天使は、幸せになるのを少し待てなかったみたいね?

 

コメント

すみません。
書きたかったんです、こういうネタ・・・。
短期集中で8回。
さらりと読んでいただける、甘いものになったと思います。
(通常のだったらもうひと波乱ありますけどね(笑))
とりあえずほっとしています。
次は・・・(ニヤリ)