新宇宙の女王を選ぶ試験が行われている聖地に、事件は起こった。 聖地七不思議よろしく、「白銀の騎士」が聖地を夜な夜な徘徊しているというのである。 馬ではなくバイクではあるが。 これには、試験で多忙な守護聖や教官までもが、対策に苦慮していた。 当然、好奇心が表に出る世代の、女王候補の耳にも入っている。 「アンジェ、”白銀の騎士”の噂聞いた?」 「うん、勿論、レイチェル」 学芸館からの帰り、ライバルであるのにすっかり”親友”になってしまった、女王候補二人。アンジェリークとレイチェルはおしゃべりに花を咲かせていた。 もちろん話題は、”白銀の騎士”。 「エルンストなんかさ、絶対、誰かが故意にやってる者だって言い張ってるけどね〜」 「でもロマンティックじゃない? ”白銀の騎士”だなんて」 うっとりと話すアンジェリークに、レイチェルはくすりと笑う。 「アンジェはロマンティストだもんね〜」 「もう、レイチェルったら!」 恥かしそうにする、この一つ年上には見えない少女が、レイチェルはひどく可愛く思った。 王立研究員に差し掛かると、二人は歩みを止めた。 「あ、じゃあ、ここで?」 「うん。エルンストさんと大事なデートだもんね?」 今度はアンジェリークがにやりと笑って、レイチェルが真っ赤になる番だ。 「バカ、アンジェ、もう!!」 クスクスと微笑み会った後、二人はそこで別れた。 「じゃあね、アンジェ! 夕飯の時間でね?」 「うん、レイチェル!!」 レイチェルが嬉しそうに研究員に入ってゆく姿に手を振りながら、アンジェリークは深い溜息をついた。 レイチェルはいいな…。 ああやって、支えてくれる人がいて…。 私たちは親友だけれど、それでもやっぱり、ああやって支えてくれる”異性”の存在は重要だもの…。 私もいつか…、レイチェルにとってのエルンストさんみたいな人が現れないかな? 想像すると少し胸の奥がこそばゆいけれども、決して悪くない感覚。 「さてと! 私も英気を養いに、丘で昼寝でもしようかな!」 アンジェリークのお気に入りの丘は、聖地を一望できる場所にあった。 何かあれば、彼女は必ずそこに行き、気持ちを落ち着かせていた。 そう、今も。 ようやく聖獣である「アルフォンシア」と心を通わすことが出来たとはいえ、まだまだ前途多難である。 宇宙に命が満ちるように。 幸せが満ちる明るい未来がありますように。 アンジェリークはそのことだけを祈りながら、育成を続けていた。 しかし、張り詰めてばかりいては、疲れがたまる。 たまには息抜きが必要なのだ。 「わあ〜、綺麗な青空〜」 空を見上げると、とても済んでいて、心までもが表れるような気がする。 「昼寝しちゃおうかな♪」 アンジェリークが丘に一歩踏み入れた、まさにその時----- 「いてっ!!」 お約束にも男の声が聞こえて、アンジェリークは大きな目をさらに見開いた。 え!? 男の人!! 「え、あ、あの、あわわ、ごめんなさいっ!!」 そのままパニックに陥った彼女は、あたふたとあたりを見渡して、そのまま帰ろうとした。 だが。 「きゃあああっ!!」 やはりそこはアンジェリーク。 お約束どおりに転んだりする。 どさりと大きな音を立てて転んだものの、アンジェリークはその衝撃の少なさにきょとんとした。 「あれ? 痛くない…」 あたりをきょろきょろと見渡す彼女に、下敷きになった青年は頭を抱えた。 「おい、俺が下にいるから、おまえは痛くねえんだよ!」 「え?」 魅力的なテノールに下を向いてみると、そこには銀の髪をした青年が寝ている。 「おい…、とにかく体起こすから、どいてくれ」 「どくって、どこから?」 「バッカ、俺の上だ! 俺の!!」 呆れたように言われて、アンジェリークは自分が今していたことに気がつく。 はしたなくも、男性の上に乗っている。 「あああ、ごめんなさいっ!!」 耳まで真っ赤にしてアンジェリークは、そのまま青年の体から降りる。 そのまま力が抜けたように、ペタンと彼女は座り込んでしまった。 「ったく…、人が昼寝しているって言うのによ?」 「ごめんなさい…」 「何度も謝らなくたっていい」 面倒くさそうに青年は、少し長めの髪をかきあげながら、起き上がる。 少女の大きなアクアマリンの眼差しと青年の魅惑的な翡翠の眼差しがぶつかったとき、お互いに息を飲んだ。 二人はお互いに動けず、その場で見詰め合っている。 なんて…、ステキな男性(ひと)なんだろうか…。 吸い込まれそうな…、そんな眼差し…。 だけど、どうして、そんなに寂しそうなんだろうか…。 似ている…。 どうしてそんなにおまえはエリスに似ている!!! 二人が見詰め合っていたのは、ほんの数秒だったかもしれない。 だが、二人は、それが”永遠”にすら感じた---- 銀の髪…。 使い込んだ甲冑…。 まさか… 「あなた”銀色の騎士”!!!!」 突然の大きな少女の声と、指を刺してくる屈託のなさに、青年は懸想を破られた。 「はあ? 今大騒ぎしてるあれか? んなわけねえだろうが。この俺が騎士、クッ」 心の動揺を巧みに隠し、青年は唇の端をあげて笑って見せる。 青年は端整な顔立ちをしており、その少し皮肉げな微笑はとても魅力的だった。 少女よりもかなり年上に見える。 その横顔に、”大人の男”としての魅力を感じ、ドキリとする。 目をあわせられない。 「だって、銀色の髪をなさってるし、その格好だって…」 はにかむように言うところが、どこか可愛いと感じ、青年は思わず喉を鳴らして笑う。 「悪ィけどよ。その敬語はやめてくれねえ? 俺も畏まったりしねえからよ?」 魅力的な翡翠の眼差しに少し悪戯っぽい光が宿り、彼女はその光に吸い込まれてしまうのではないかと思った。 そして同時に嬉しかった。 彼が申し出たことが。 「有難う!! じゃあ、そうするね? 私の名はアンジェリークよ」 「アンジェリーク…。天使だな…」 低い声で囁かれば、それだけで、ゾクリとする。 甘い旋律が身体を駆け抜けて、胸の奥が熱くなる。 「あなたは…?」 「アリオス。ただの剣士だ…」 「アリオス」 アンジェリークはその名前を心に刻みながら、その名をを囁いてみる。 「よろしくな? アンジェリーク」 「こちらこそ!!!」 二人は再びじっと見詰め合う。 それが二人にとっては、運命の出会いになることを、まだ気がついてはいなかった。 二人はその後他愛のない世間話をしながら、夕方まで過ごした。 帰り際、アンジェリークはアリオスに精一杯礼を言った。 こんなに愉しかった午後はなかったと。 「本当に有難う、アリオス」 そこで言葉を切ると、彼女は上目遣いで、まるで子供がないかを強請るように見つめる。 「何だ?」 「明日も会って、って言ったら、怒る?」 照れながら話す少女は、とても初々しくて、彼を魅了する。 「-----ああ。判った。当分の間ここにいるから、逢ってやるよ?」 途端にアンジェリークの表情は明るくなり、まるで太陽のような輝ける微笑を浮かべる。 その笑顔は彼の心の虚をついた。 もう長い間光を見ることがなっかた場所に、温かな光が刺しこんでくる。 「絶対よ!! 約束だから!!!」 「ああ」 何度も”約束”だといいながら、少女は門限に間に合うように走ってゆく。 その背中を見つめながら、アリオスは、複雑な思いに刈られていた。 アンジェリーク…。 おまえはどうしてそんなにエリスに似ている。 髪の色も、瞳も、唇さえも…。 俺の悲願である、”エリスの魔道生物”も、あの器さえあれば…。 だが…。 アリオスは改めてそう思いながらも、自分の心には勝てなくて。 笑ったのは…、久しぶりだったな… |
コメント
25000HIT記念、、由由様のリクエストによる、「白銀の騎士」エピソードのときに、二人があっていたら…、です。
「天空」のエピソードに繋がる、tinkなりの我流「白銀の騎士」です。
都合上、前項編とさせていただきました。

