CAN’T EXPLANE


 放課後になるのが待ち遠しくて堪らなかった。
 珪は落ち着かない風で、何度も壁掛け時計を眺める。
 だが、に今日の授業のノートを取ってやらなければならず、一生懸命ノートも取る。
 過ぎる時間は余りにもゆったりとしていた。
 ようやく拷問のような一日が終わり、ホームルームを向かえる。
 正直、珪はほっとしていた。

 なぜだ、いつものように授業をしているというのに・・・。
 どうしてこんなにもどかしい!?

 氷室はいらいらとしながら、何度も時計を眺めては、黒板に字を書き連ねていく。

 私は社会人のはずだ!
 教師として、しっかりと教えなければならない・・・! それが義務だ。
 だが、どうしてこんなに胸が痛い・・・。
 どうして・・・。

 動揺を生徒たちに知られたくなくて、氷室はいつものようにポーカーフェイスを突き通す。
 ようやく午後の授業を終えて、氷室はふっと一息を吐いた。

 私としたことが・・・。
 こんなに心が乱れるなんて・・・。
 早く、早く仕事が終わってほしいと、こんなに切望するのは初めてだ・・・。

 ようやくホームルームの時間------
 彼もまたほっと一息を吐きながら、教室に向かった。

 クラス委員の号令と共に、氷室が教室に入ってくる。
 一瞬、氷室と珪の眼差しがぶつかり、お互いに牽制しあった。
 火花を飛ばしあった後、ふたりは、顔を背ける。
「今日の連絡は特にない。本日は以上で終了する」
 誰もが一瞬唖然とする。
 いつもなら、「本日のお小言」とばかりに、小言を最低は5分間は言うというのに、今日に限っては一切なかった。
「き、起立!」
 これにはクラス委員もいささか狼狽している。
 何とか挨拶も終わり、氷室は機敏に教室を出ていく。
 誰もがあまりにもの早い解放に喜んでいるが、珪は少し複雑な心境だった。
 確かに、早くのところに行けるのは嬉しい。
 だが、氷室もそう思っているとなると、話は少し違ってくる。

 バイナリーの野郎・・・。
 俺は絶対をあんたに渡さないから・・・。


 珪は走って教室を出ると、まずはコンビニに向かった。
 そこで今日のノートをコピーしてやり、その足でケーキ屋に向かう。
 そこで、甘いものが大好きなの為に、彼女の大好きなケーキを3つほど見繕って買っていく。
 そして花屋では、秋桜を小さな束で買っていく。
 これで準備は万端だ。
 背筋を延ばして、珪はの家へと向かった。
 このようにお見舞いに行くのは初めてで、少し緊張する。
 彼は胸を高まらせながら、彼女の元に向かった。

 玄関のインターホンを押すのも、少し緊張してしまう。
「はい?」
「葉月です。さんのお見舞いに来ました」
「どうぞ」
 に良く似た声に、少し安心しながら、ドアを開ける。
 同時にぱたぱたと小刻みな音が聞こえ、のお馴染みの弟尽が出てきた。
「葉月、姉ちゃんの見舞いか? 連れてってやるよ?」
「有り難う」
 尽の後を珪はゆっくりとついていく。
「姉ちゃん、結構元気だからさ。風邪、うつすのだけを気にしてたから」
「ああ」
 部屋の前に来ると、更に緊張した。
「姉ちゃん、葉月が来たぜ」
「うん、入ってもらって」
 いつもよりも少し柔らかい感じのする声に、珪は胸を更に高まらせた。
 部屋に入ると、カーディガンを着ているが目に入る。
「来てくれて有り難う、珪くん」
「いや。これ、お見舞い・・・」
 秋桜の花束と、ケーキが入った箱をぶっきらぼうにに渡すと、彼女はそれを嬉しそうに受け取る。
「有り難う! 凄く綺麗なお花だわ・・・。本当に有り難う」
 秋桜の香りを鼻で楽しみながら、は心から嬉しそうに言った。
「ケーキも食べてくれ」
「うん、見ていい?」
「ああ」
 珪に了解を得て、はまるで子供のように箱の中を覗きこむ。
「うわあ〜! すごく美味しそう! 重ね重ね有り難う、珪くん!」
 の喜ぶ声が、何よりも珪には嬉しい。
「おい、葉月、座れよ」
「ああサンキュ」
 尽が椅子を差し出してくれたので、珪はそれに腰掛けた。
「葉月くん、いらっしゃい」
 の母親がジンジャークッキーとコーヒーを持って入ってきた。
 それと同時に、小さな猫が部屋に飛び込んでくる。
「あっ! アルフォンシア!」
 そのまま突進すると、ちゃっかり珪の膝の上に乗り、愛らしい声で鳴いた。
「こいつ、かわいいな・・・」
「猫は猫好きの人は判るのよ?」
 くすくすと笑うに、珪はまんざらでもない。
「じゃあ、ごゆっくりね、葉月君」
「ゆっくりな?」
 意味深に尽はウィンクをすると、母親と共に部屋から出ていった。
「あ、今日のノートコピーしてきたから」
「有り難う! 助かるわ!」
 コピーを大事そうに受け取ると、はそれを嬉しそうに視線を落とす。
「これぐらいのことはお安いご用だから」
「うん、有り難う」
 は珪の心遣いに本当に感謝を込めて、礼を述べた。

 その頃、氷室はようやく仕事から開放され、いつもよりも手早く片付けると、猛スピードで学校を出た。
 待っていろ・・・。

 途中、風邪を引いたの為に、パン屋で健康に良いライ麦パンを、ビタミンCを取るためのみかんを八百屋で、更には、花屋に寄って白のトルコ桔梗の小さな花束を買う。
 完璧に見舞い準備を手早く済ませ、氷室はの家に向かった。
 ”仁義なき戦い”のゴングが再び鳴るまで、あとわずか・・・。

コメント

仁義無きシリーズ!!
コレからもっと激しく戦わせます!!

マエ モドル ツギ