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CAN’T EXPLANE


 午前中、は点滴を打ちに病院に行った。
 点滴を打つと随分と躰が楽になり、家に帰る頃には、熱は少し下がっていた。
 家に帰って携帯電話を見ていると、何通か新着メールがある。
 その送り主の名前を見るだけで、は幸せな気分になった。
「なっちん、たまぷー、珪君、…先生…」
 珍しく氷室からのものもあり、は益々心が温かくなる。
へ! とっとと直しなよ! よくなったらまた喫茶店でお茶しようね! 奈津美』
ちゃんへ! 大丈夫? いつも元気なちゃんが病気でお休みなんて・・・。早く直してね! 皆で一緒に、また屋台のクレープ食べようね(^^)珠美』
へ。具合大丈夫か? 学校の帰りに、連絡とかプリントもってお見舞いに行く。早くよくなってくれ。珪』
へ。今日の授業の補習をしに家庭訪問をする。以上。氷室』
 最後の氷室のメールを読むなり、はくすりと微笑んだ。

 先生らしいな・・・。

 ベッドの中に入ると、は早速全員に返信する。
 もちろん氷室にもである。
 友人たちには『やっほ〜、心配してくれて有難う! 直ったら、また、皆で屋台のクレープ食べに行こうね! (^^)/〜 』と送り、珪には『珪君へ。心配してくれて有難う。直ぐによくなるからね! 心配しないでね。お見舞い有難う。待ってるね。』と返した。
 そして氷室には------

 先生忙しいから、中々見てもらえないだろうな・・・

 そんなことを思いながら、は心を込めてメールを打つ。
 しか知らない氷室の携帯のメールアドレス。
 この間の”社会見学”のときに、何かあったときに連絡するようにと教えてもらったのだ。
『先生へ。朝きっとお母さんが大げさに行ったかもしれませんが、大丈夫です。点滴を打って、かなり楽になりました。勉強が遅れるのは辛いですが、先生や葉月君、それに友達がフォローしてくれるみたいなので、少しだけほっとしています。いつも有難うございます先生。お言葉に甘えます。
 メールを打ち終えてほっとしたのか、は大きく息をついた後に、ベッドにもぐりこむと、うつらうつらと眠り始めた。

 からのメールを見た、氷室と葉月は、昼休みに電話しようときめた。
 声が聴きたい-----
 今日は二人して見舞いに行くのをきめているにも拘らず、である。
 うとうととしていると携帯が鳴った。
 はぼんやりとした頭で携帯を手にとると、着信のところに珪の名前がある。
「はい」
「もしもし、? 俺、葉月」
「珪君…」
「ひょっとして寝てた?」
 が少し寝ぼけた声をしていたからだろう。
葉月は ほんの少し心配そうな声を上げて訊いてきてくれた。
「ううん、大丈夫よ、葉月君」
「よかった…」
 受話器から珪の息が漏れて、本当に安堵しているのがわかる。
 可愛らしくて、は思わず微笑を漏らしてしまう。
「今、お昼休みよね?」
「ああ。食堂で適当にうどん食って、直ぐに電話かけた」
「ちゃんとお昼は食べなくっちゃ、消化悪いわよ?」
 くすくすと笑いながら、まるで、姉のようには珪を心配した。
「判ってる。でも、の声が聴きたかったから・・・」
「有難う・・・、珪くん」
「具合はどうなんだ?」
 本当に心配そうに珪は尋ねてきた。低い声が不安そうに揺れているのが判る。
「大丈夫よ? 今朝点滴したら、かなり楽になったし」
「点滴したのか!?」
 珪の声がかなりっ強くなり、はびっくりする。
 同時に、彼がここまで心配してくれたのかと思うと、胸が熱くなった。
「うん、もう平気だから・・・。珪くん。心配してくれて有難う」
 わざと明るく元気な声で、は元気であることをアピールする。
 珪は、のやさしい心根につい笑顔を零してしまう。
「学校終わったら直ぐに行くから。5時ぐらいまでだったら、いられるから…」
「うん、有難う」
「俺が行くまでしっかり寝てろよ?」
「うん・・、有難う」
 これにはも思わず微笑んでしまった。
「じゃあ、後でな?」
「うん」
 電話が切れた後、はもう一眠りしようと、再び上掛けを被ろうとした。
 再び電話が鳴る。
「あ・・・」
 今度は氷室である。
 は再び布団から出ると、電話に出た。
「氷室だ」
「氷室先生…」
 わざとらしい咳払いが聴こえた後、氷室の硬い声が聞こえる。
、具合はどうだ?」
「大丈夫です…」
 の穏やかな声に、氷室は心を乱される。
「大丈夫か? ? 直ぐに行ってやりたいのは山々だが・・・」
「大丈夫ですよ先生? ちゃんとお仕事をなさってからきてくださいね?」
「・・・家庭訪問も、し、仕事のうちだ」
「先生・・・」
 それがそう思っていないことぐらいには充分にわかっている。
「点滴を打ったそうだが、本当に平気か?」
「本当に大丈夫ですよ? それより先生はちゃんとお昼を食べられたんですか?」
 優しいの言葉に、氷室は胸が更に高まってしまう。
「大丈夫だ。ちゃんとライ麦パンも食べた」
「だったらいいですけど」
 くすくすとは笑う。
 の前だと、氷室は冷静でいられなくなる。
 ましてや、彼女が倒れたとなれば尚更である。
「ちゃんとゆっくり休みなさい・・・。私が行くまではちゃんとな?」
「はい、先生」
「よろしい」
 素直に返事をしてくれるが、氷室は可愛くてしょうがなかった。
「・・・仕事は直ぐに済ませていくから・・」
「ハイ、先生・・・」
「補習は私が責任を持って行うからな。心配するな」
 ”責任を持って”というところを強調し、氷室はに安堵感を与えた。
 その裏には、葉月には負けないという、ライバル心があることを、は、そう言った点は鈍いので、もちろん気がつかない。
「はい、先生。早く休んだ分をとりかえしますね」
「いい心がけだ。では、後で」
「はい・・・」
 電話を切った後、は少しだけ微笑む。
 あの氷室がわざわざ電話をかけてきてくれたのだ。
 それだけでも嬉しくて堪らない。
 笑いながらゆっくりとふとんの中に入る。
 この数時間後に、仁義なき場取るが開始されるのも知らずに、はゆっくりと眠りに落ちた。

  

コメント

仁義無きシリーズ!!
コレからもっと激しく戦わせます!!

マエ モドル ツギ