8時過ぎの職員室。 氷室はいつものように、電話に手をかけた。 「氷室です」 「申しわけございません。の母です」 「の…」 朝この時間に連絡があるということは、ひとつのことしか考えられない。 は欠席---------- 彼女が病気かもしれない------ それだけで、氷室の心は乱れた。 「先生?」 に良く似た、彼女の母の声に、氷室ははっとして我に帰る。 「はい」 「ですけど、少し過労で今日と明日はとりあえず休ませていただけますでしょうか?」 「過労ですか・・・」 「はい」 過労-------- 昨日あったときも、確かにの顔色は至極悪かった。 どこか疲れているようだったが、それでもいつものようにニコニコと笑っていたのだ。 胸が裂かれるよう痛い------ 氷室は気が気でなかった。 「過労とは・・・、どこか悪いのですか!?」 「えっ!?」 余りにもの氷室の勢いにたじろいだのは、の母。 「あ、今日も点滴に行くので、それを何度かして、ゆっくり休めば、直ると聞いておりますが…」 「そうですか・・」 点滴をする------ それだけでも氷室はかなり動揺していた。 「あ、先生、大丈夫ですから、娘もそのように伝えてくれといってましたので」 「------そうですか…」 「では失礼いたします」 の母からの電話を切ったあとも、氷室は暫く呆然と電話の受話器を持っていることしか出来なかった------- 珪がの欠席を知ったのは、それから30分後のことだった。 いつものように遅刻ぎりぎりで黄門に入り、ショートホームルームで氷室が入ってくる前に、席についた。 が------。 カバンを置いて席につくなり、珪は妙な違和感を感じる------ がいない-------- 『おはよう、珪くん!』 明るく、元気に挨拶をしてくれる、トナリの席のが今日に限ってはいない。 彼女が遅刻するというのは、先ずはありえない。 氷室お気に入りの、真面目な生徒だから当然だ。 不意に、の友達の、奈津美や珠美を見てみると、携帯を見て心配そうにしている。 「ちゃん大丈夫かなあ、奈津美ちゃん」 「まあ、のことだから大丈夫だと思うけどさあ。 なんかね・・・」 奈津美はチラリと珪を見た後、ドアの先を見つめる。 「”仁義無き戦い”のせいやって言いたいんか?」 小声で姫城が奈津美に囁き、もちろんとばかりに頷く。 「それ以外は考えられないでしょ」 「まあ、なあ」 こそこそと話している途中で、氷室の品行方正な足跡が聴こえてくる。 それを合図に奈津美は黙りこくった。 氷室がスライド式のドアを珍しく乱暴に開け、それに驚きながら、クラス委員守村が号令を掛ける。 珪もしぶしぶながら、立ち上がって礼をした。 「欠席はだけだな」 名前を呼びながら、氷室が動揺していることを、一部の生徒は知っている。 「今朝の連絡だが、特にはない。以上でショートホームルームを終わる」 「先生」 珍しく珪は立ち上がると、目線での席を指す。 「のやつはどうしたんだ?」 真剣に珪は氷室を見つめ、どこか問いただしているかのように見える。 「------過労だと聞いている。今日、明日は休むそうだ」 氷室は冷たい声で事務的に要点だけを伝えると、珪を見ようともせず、すたすたと教室から出ていった。 あんたにぬけがけはさせねえ!! 珪は睨みつけるように、氷室の精悍な背中を見つめた。 今日は仕事に身が入らない・・・。 あとで”家庭訪問”してやらないとな… 氷室はすたすたと廊下を歩きながら、最も早くの家に”家庭訪問”ができるように画策するのであった-------- 二人の男の熱いバトルは、”倒れる”報で、いっそう盛り上がるのであった----- つづく・・・ |
コメント 仁義無きシリーズ!! コレからもっと激しく戦わせます!! |