14.各部を調整する

いよいよ車体に搭載された燃焼式ヒーター。すぐにでもスイッチオン!といきたいところですが、ここで最大の難関、ヒーター各部の調整が待っています。実は燃焼式ヒーターのオーバーホールの肝はここです。ここでは便宜上二つに分けて書くことにしますが、実際には同時にやらなければならなかったり使用の度にやったり、或いは機能を回復するにしたがって前回やった調整が全くあてにならなかったりと様々なケースが出てきます。この調整は使用しながら長い日数かかるものとあきらめて行うようにしましょう。ここでは楽はできないものと思って下さい。
調整穴最初にサーモスイッチの調整です。ヒーターリレーの台座の下にこのような穴が空いています。この下にあるマイナスネジ(以下調整ビス)の頭、これを回してヒーターの作動を司るサーモスイッチの調整を行います。
ドライバーさすドライバーを入れて調整ビスを左右どちらかに回していきます。途中で「カチッ」とスイッチが切り替わるところがありますので、その位置を求めます。そこから調整ビスを右に二回転締めこみ、スイッチを入れる前の暫定調整位置とします。なお、オーバーホール以前まで作動していたからという理由でこの調整をしないのはお勧めできません。当然オーバーホール以前と比べれば能力は回復されるので、それ以前の調整値はあてにならないからです。この後の調整には計時する必要が有りますのでストップウォッチを準備してください。
スイッチアップ暫定の調整位置を求めたところでいよいよ車室内のスイッチを入れます。すると車室内ではパイロットランプが薄暗く点灯し、ガソリンがグロープラグにかかり燃焼が始まります。燃焼が始まらない場合は別項の「良くある症状に対処する」を参照のこと。燃やされたガソリンが安定燃焼に入り、燃焼炉内の温度を上げるとサーモスイッチが作動し、グローランプに行く電気を遮断します。その時にはパイロットランプが明るく点灯しています。スイッチを入れた後、あまりにも安定燃焼に移るまでに時間がかかる(およそ2分オーバー)場合には不具合のある可能性大ですので使用を即中止してください。
以下、手元にある資料「トヨタパブリカ用 燃焼式カーヒーター 点検修理書/日本電装株式会社 営業部サービス課刊行(昭和44年1月)」より適宜引用します。ヒータースイッチを入れて安定燃焼に入ってから10分燃焼した後、ヒータースイッチを一段押し込みヒーターの電源をオフにします。燃焼式ヒーターはスイッチオフ後も燃焼炉が冷えるまでの間、ブロアモーターが回り続けますが、このスイッチオフからブロアモーターが止まる(以下サーモアウトと略する)までの間の時間を計測し、結果に応じてサーモスイッチを調整します。サーモアウトまでの時間が1分30秒から3分の間なら作動は正常です。そうでない場合の調整ビスの調整値は以下の通り。

○サーモアウトまでの時間が1分30秒以下の場合

30秒〜1分 左に110度回す
1分〜1分30秒以下 左に60度回す

○サーモアウトまでの時間が3分以上の場合

3分〜3分30秒 右に50度回す
3分30秒〜4分 右に60度回す
4分〜4分30秒 右に70度回す
4分30秒〜5分 右に80度回す

ただし、これはサーモスイッチに使われているマイクロスイッチが正常に作動している場合の調整値であることを言っておかなければなりません。現在まで残っている燃焼式ヒーターのスイッチはコンディションの劣化があり、必ずしもこのような値が適用できるものばかりではありません。経験則で言えば、スイッチオンから安定燃焼に入るまでの時間が1分以内、サーモアウトまでの時間が10分以内であれば十分使用に耐えられるものであると判断していいものと思われます。
次に実際の使用状況と同じ環境での作動を確認します。燃焼式ヒーターを使用しながら路上を走り、静止状態での運転に比べて変化があれば適宜調整をします。

ヒューズ交換使用している途中で突然パイロットランプが消えて、ブロアモーターも動かなくなる瞬間があります。こういうときはヒューズが切れたときが多いです。特に5Aのヒューズ。このヒューズはヒーターケースについているバイメタルスイッチが作動するとヒューズが切れます。その時には新しいヒューズを入れなおしてください。なお、くれぐれもヒューズのアンペア増しはしないようにしてください。このヒューズはヒーターの調子が出るまでかなりの本数を切ることになるので、たくさん用意しておいて下さい。
バイメタルスイッチヒューズが切れるのはこのバイメタルスイッチが働いている証拠ですので、必ずしも悪いことではありません。このスイッチはヒーターの燃焼炉の温度が異常過昇した際の安全を守るために設けられています。ですが、使っているうちにあっというまにヒューズが切れるようになるので、ポイントギャップの調整をする必要があります。ヒーターケースからバイメタルスイッチを取り外して、ポイントギャップ調整をします。
ポイントギャップ取り付ける前に調整したのになんで?と思われるかもしれませんが、このバイメタルは熱を受けない時間が長くなると曲がる度合いが大きくなる傾向にあるようです。特に何年も動いていなかったヒーターに至ってはここの調整が決まるまで何度も調整が必要になります。熱をうけるにしたがってこの振れ幅は規定の量に近くなります。ですので、使用し始めると、最初に決めたポイントギャップが変化していますので、その都度ポイントギャップを調整します。なお、このポイントギャップを広くしてヒューズが切れずらくするのは絶対にやめましょう。安全装置としてのこのスイッチの意味がなくなります。
この段階に来たらできる限り使用している状態での調整をしましょう。ことによっては路上でヒューズ交換やバイメタルスイッチのポイントギャップ調整をやるなんてことになりますが、その方が調子よくヒーターを運転できるようになります。これでヒーターのオーバーホールは一応の完成です。