現在、まとまった」数の捕鯨を行っている国は、日本とノルウェーだけです。すでに商業捕鯨は凍結になっているのに、おかしいではないかという人も多いかもしれないですね。ノルウェーの場合には、IWC(国際捕鯨委員会)の商業捕鯨モラトリアム(1986年より全ての商業捕鯨の凍結)決定に意義を申し立て続け、商業捕鯨がいっこうに再開にならないのに憤慨し、ついに93年から自国の沖合いでミンククジラの商業捕鯨を再開してしまったのです。

  日本は1986年、商業捕鯨モラトリアムに従い商業捕鯨を凍結しました。しかし、捕鯨再開に向けた調査を目的に、翌87年から南極海で毎年ミンククジラの捕鯨を断続しており、最近では南極海と日本近海を合わせて540頭を捕獲しています。

  この捕鯨は資源量の管理を目的にしたものであり、捕獲もあらかじめ立てられた調査計画に沿って行われます。また、さまざまな生物学的情報を得るという目的もあります。これが調査捕鯨と呼ぶ所以であります。捕鯨が凍結されたいま、クジラの生物学的情報は漂着した固体などからしか得ることができず、その意味では調査捕鯨がもたらす成果は確かに大きいのです。

  水産庁では、捕鯨でなく調査であるという観点から、調査捕鯨という言葉は使わずに鯨類捕獲調査と呼んでいる。しかし、捕獲した後の鯨肉が市場に供給されるなど曖昧な点があるのも事実です。そのため、反捕鯨団体からは事実上の商業捕鯨ではないかと強い批判を浴びています。

  このほか、わが国の沿岸では、ツチクジラやコビレゴンドウなどが、古くから断続的に捕獲されています。これらのクジラはIWCの管理外の種であるために、規制に触れることはありません。イルカの追い込みや突きん棒漁なども古くから伝わる伝統漁業です。これらのイルカ漁は水産庁の管理のもとに行われており、科学的な調査によって捕獲枠が決められています。最近では保護団体などの反対のためにだいぶ少なくなりましたが、それでも現在いくつかの地域で行われています。

   ヨーロッパでは、大西洋に浮かぶデンマーク領のフェロー諸島でヒレナガゴンドウの捕獲が伝統的に続けられています。これもIWC管理外の種です。イッカクやシロイルカなどもカナダ北極圏やグリーンランドで食糧として、小規模ながら捕獲が続けられているようです。

   一方、IWC公認のもとに行われている捕鯨もあります。原住民捕鯨や生存捕鯨と呼ばれているものです。これはイヌイットなどの先住民たちに、日々の食糧としてクジラを狩ることを認めるもので、商業捕鯨とは一線を画しています。現在は、アラスカでホッキョククジラ、その対岸のロシア・チェコト地方でコククジラ、デンマークのグリーンランドでナガスクジラとミンククジラ、カリブ海のセントビンセントでザトウクジラの捕鯨が認められています。

  このほか、IWC非加盟国であるフィリピンやインドネシアなどでも小規模な捕鯨が行われています。なかでもインドネシアのレンバタ島で行われているマッコウクジラ捕鯨は有名です。ここでは中世と変わらぬ木造の帆船を操り、手銛による勇壮な捕鯨を行っています。この集落の民たちは伝統的にクジラだけを生活の糧としており、IWC公認ではないものの、やはり生存のための捕鯨であるのです。(河出書房新社「クジラの謎 イルカの秘密」より)
・・・・・続く

 


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