はじめからわかっていたんだ
届かないものに 手を出していただけ
自分で広げた虚の世界は
自分でまた、たためばいい
プラトニック 9
翌朝ボロボロになったルフィを見てクルー達はさすがに驚いていたが、ここ連日盗み食いをしてたのがバレたとニカッと笑うルフィに「サンジも苦労するなぁ」とウソップがツッコんで「怒りの度合いがみてとれる」とか「でもほどほどにしてあげてくれよな」という船医のアドバイスとか、滑稽に見えるくらいののんびりした雰囲気で事は片づいてしまった。
当の本人は食卓につきぱくぱくと朝食を口にしている。
食事が終わればぱたぱたとどこかへ駆けていき、やがてウソップやチョッパー達と遊ぶ楽しそうな声が聞こえてきた。
各々が思うように過ごす日常のひと時。
俺だけが置き去りにされたような感覚。あれだけのことをしてどうして何も変わらないんだ?
なんでもない事にしたかったのか?
働かない頭を巡らしてみるが、ルフィの考えは読めなかった。
昨日。
初めこそ抵抗していたものの最後には罵るでもなく責めることも問いだたす事もしてこなかった。
ボロボロになったルフィと、心がボロボロの俺。
抜け殻みたいになって動かなくなった俺に、行為の終りを悟ったルフィは下から這い出てそのまま消えてしまった。
あそこまで痛めつけたのにさすがに我らが船長は逞しいというか、普通だったら死んでもおかしくないくらいの打撃にも今日はもう復活している。
痛々しいまでの傷痕はそこらじゅうに残っているが…
それを見て心が痛む反面、渾身の想いすら痕ぐらいにしかならないのだと絶望もした。
ああ、遂にやってしまったんだ
そう後悔して一睡もできなかった。
なのにこれだ。
もっともっと伝えないとわかってくれないんだ。
わかってほしい。わかってくれれば。
…何になるというのだろう
今までの蓄積された想いが俺をああさせた。
俺のありったけをぶつけたのだ。
それでもルフィを素通りしてしまう。
もう、終りなんだ
ふいに理解した。
ぽっかりと心に穴が空いた
足掻いても無駄なんだ
失恋、したんだ
厨房を出て誰もいない方へと船内を進む。
外は眩しく太陽が照らしていて。
遠巻きにクルー達の楽しそうな声を聞きながら一人、ばったりと仰向けに倒れてその光を仰ぎ見た。
てのひらを広げてもその間からこぼれていく日の光。
「届かない存在、だったんだよなぁ」
万物を照らすそれに重ねて
今までの事を思い返す。
俺から始まって、俺から終りにした。
ものすごく好きだった。こんな風に人を好きになるなんて初めてだった。
体を繋げて愛を確かめた。その行為がこんなに幸せなこと今までなかった。
ルフィは太陽なんだ。
振り向かれれば誰だって幸せになれる。
そして、誰が求めたって幸せをくれる。
俺はそれをちょっと勘違いしただけ。
調子に乗って求めるだけ求めて、俺だけの物だって錯覚したんだ。
ルフィは俺を好きだと言った
でもルフィはこの船のみんなが好きなのだ。
恋だ愛だ騒ぐ俺に、付き合ってくれただけなんじゃないかな
でもルフィは最初に仲間にしたあの男が好きだった、訳で。
俺が、一人で。
舞い上がってただけ。
だからそれに気づいた時点でこの恋は終わり。
でも、想いは溢れるばっかりで。
船長だってことを忘れて普通の恋人として、酷いことされたって思ったけど、それでも楽しい時のことばっか思い出して。
終わったもんは忘れようとかそんなんじゃなくて。
ルフィに触れて沢山愛した、あの時の思い出は宝物だから
一生大事に胸に抱えていくんだ。
続>
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