枯れた大地に
雷鳴が響き渡る

不思議と雨は降らず

ここは乾ききったままだ

もう何も 芽生えることはないだろう




プラトニック  6   












怖かった


いつもは待ちわびていたはずの草履のぺた、ぺたという足音が。

だってその細い首を絞めてしまうかもしれない

薄い胸にナイフを突き刺すかもしれない

弾力のある頬を殴ってしまうかもしれない

指先は冷え切って冷や汗とか出てるのに。
体をめぐる血液はドク、ドクとやけに大きく流動し心臓が熱かった。

煙草を持つ手がらしくなく震える。
火を点けて早々に床に落っことし、慌てて拾ったが吸う気が失せてそのままシンクで煙を消した。
ついでに頭から水を被ってみた。
中でどろどろする熱い何かを冷やしたくて。



「なにしてんだサンジ」


水音で気づかなかったらしい。すぐ後ろから聞きなれた声がする。

振り返れなかった。
自分が何をしでかすのかわからなくて。

お前を好きすぎて

裏切られた事実についていけなくて

固まっている俺の体にルフィが触れる

「!」

思わず身を固くしてしまった。

ルフィはさして気にする様子もなくそのまま背中を擦ってきた。

「気分、悪りぃのか?頭が痛てェとか?」
うわ、シャツもびっしょびしょと言いながら覗き込んできた顔と目が合う。

ビリっと電流が走ったようだった。
大好きな顔。
大きな黒い瞳。
頬に残る傷ですら魅力的な

この世にふたつとない愛しい塊。

















今までの俺なら
すぐさま飛びついて
されるがままのその体を貪っていただろうけど。















何故だろう
なんの感情も湧かなかった。

「サン ジ?」

何も答えない俺に焦れたのかルフィが上目遣いで見詰めてくる。

それでも


俺は目を瞬かせてから、今とるべき行動に出た。


ルフィの横を抜けて、バスルームへ。

「濡れちまったからついでに浴びてくる…」

するりと普通に声が出て。
その場にルフィを置いてスタスタと浴場に向かう。

あれ?と思うくらい俺は冷静になってる。
さっきまであんなに自分に怯えてたのになあ。

熱い湯に打たれながら、冷たい気がしてた手先足先を温める。
頭上から降るキラキラした水の粒を見つめながら考えた。

考えた

なにを?

なんか必要だっけ?

ルフィを前にしたって激情のまま手をかけるなんてヘタな芝居みたいなことにならなかったし
あの女誰よとか髪を振り乱す可哀そうなレディみたいに縋ることもなかったし

案外自分の淡泊さにあきれながらもこれで良かったのかもあとくされもないしって

思考を止めてただただその身に湯を浴びた。

外へ出るとルフィが心配そうに近寄って来たが、礼を言って男部屋へ足を向けた。
大丈夫、と一言伝えるとホっとした表情になり大人しく後ろを付いてきたルフィ。

その晩は何事もなく平和に終了したのだった。