世界が終わりを迎えるなら

自分も一緒に消えてなくなる筈なのに

鮮やかに広がる景色も

地についているこの脚も

なぜ

何も

変わらないのだろう




プラトニック  5   












動けなかった


目を逸らすことも


足を動かすことも


声が喉の奥で張り付いて何も発せず

警鐘が鳴るのに全ての器官が機能しなくて

見てはならないものほど見たくなってしまう、と言ったらいいのか

視界の先に居る二人をただただ見つめた。

ルフィの手の動きがやけに遅く感じられた。
そっと眠る男にその手は触れて、震えるようにおどおどとたどたどしくその体を滑る。
おそらくほんの数秒、行われた行為。
俺には何時間とも感じられる苦痛な時間。
すぐにルフィは眠りの妨げにならないようにと気を使うかのようにそっとその場を離れていった。

なんだ これ

わかっているのに問うてみる。

なんだこれ
なんだこれ

元々心配症なところがある俺。
ちょっとした動作に深い意味を取ろうとすることはありがちだけど。
違う そうじゃない 勘違いなんかじゃない。

やけに 体が重い

時が 止まってしまったみたいだ。

いま目の前で起きたことを忘れたい。

忘れたい
忘れたい
忘れたい
忘れたい
忘れたい


なのにより鮮明になっていく 二人の残像

大したことじゃない?
ただの思い違い?
なんでもない日常の一部?

ちがう

ちがう
ちがう
ちがう

頭の中で言葉が飛び交う





ゾロを見つめるあの瞳。

ゾロの体をなぞるあの指あの手つき。


ルフィのあの瞳

俺を見るときにはうっとりしてるけど

アイツを見るときは
愛おしそうだった

ルフィのあの手

俺に触れる時は誘うように軽やかなのに

アイツに触れるときは
壊れ物を扱うみたいにそっと丁寧だった



ああ考えたくない
胸が痛い頭が痛い体中張り裂けそうに痛い

ああだこうだと言葉を紡ぐ他人の様な頭を抱え聞きたくないとばかりに耳を塞ぐ。
強く強く。
それは頭の中から響く声なのに。

うるさい

うるさい
うるさい

考えたくない
考えてはいけない


それなのにざわめく声はひとつの結果を導いてきて。


ウソだ

ウソだと誰か言ってほしい

今まで難解だったパズルはピタリと合わさって。

まさかこんな残酷な答えが待っていたなんて。


ルフィは

俺を

愛してない。


だから仲間にも公表しないしさせない。
バレるとわかると青ざめるほど慌てて
二人で共有し合うような感情に共感しない。


仲間、というか。
特定の一人に。

知られたくない のだろう。


問い詰めたい


問い詰めたくない

ああ どちらだろう

どうしたらいいのだろう?





「どうした」

目の前に急に現れた緑の頭。
俺の口はまだ動かない。

「お前、さっきからずっと突っ立ってっけど。」

仏頂面が無表情な言葉を発している。

「…メシ…」

かろうじてそれだけ言って、その場を離れた。
なぜかその後をゾロもついてきてイライラしたが、メシって俺が言ったんだから行き着く場所は同じ食堂だったなと思い出す。
匂いでほかのみんなも集まっていて、その中に混じる赤いベストに目がとまり軽い眩暈を覚えた。

いつもと変わらない笑顔と、笑い声と、大ぶりな仕草。

そう、変わらないはずなのに。
その動きのひとつひとつに胸が詰まる思いがした。

賑やかな食事。
それが終われば夜が待っていて。

何も知らないアイツは何も知らないはずの俺の元へとやってくるのだろう。

ああ

どうしたらいいのだろう―――






















続