君を見る度にドギマギして

まるで思春期のガキみたいだ

俺は変わっちまったんだと思うけど

そんな自分はけっこう嫌いじゃない。




恋をした男   6








濡れた大きな黒い瞳。

太陽の匂いは今は影を潜めて漆黒の髪と対比するかの様に日焼けた肌が月に照らされて誘うように浮き立っていた。

扇情的な光景。

しかもソイツは俺を見つめて明らかに誘っている。

俺はゴクリと喉を鳴らし

激情のままその体へ覆い被さる。

紅く柔らかな唇を吸いしなやかな体を弄る。
唇を離した途端吐息と共に零れる甘やかな声。

全てが現実とかけ離れていて、自分の心と体、頭と感情もバラバラになってくる。
雄の本能のみ取り残されて、快楽に忠実に溺れていく。

それは相手にも言えることの様で。
俺を掻き抱く細い腕がより感じる箇所へと俺の頭を押し付け、主張を始めた下半身をアピールするように腰を擦り付けて来た。
早く、もっと深く絡まりたい欲望が頭の中を支配する。
しかし緊張の為体が上手く言う事をきかない。
震える手を叱咤し先走りに濡れた下着を取り払ってやり、そこをやんわりと掴む。
相手の嬌声が響く。
もっと悦んだ姿を見たくてソコにむしゃぶりつく。
さらに声が高くなる。食らい尽くすかの様にソレを喉元奥まで飲み込み、激しく扱いた。
やがて吐き出された欲望は甘美な味がした。
有り得ないことだが確かに美味かった。

痴態を見続け勃起した己を取り出し、処理しようとすると相手の手が絡んできた。
俺は驚いてその顔を見つめると綺麗な紅い唇が俺の――



そこで我に返った。
辺りは青空広がる穏やかな船の上。

他のクルー達が近くに居なかったことを幸いに思う。
夢の中身を見られることはさすがに無いだろうが、それによって盛り上がってしまった股間を見られては訝しがられることは必至だろう。
顔に手を当てハァーと長い溜息を吐く。
いきなり白昼夢に陥った自分に冷や汗すら掻いて。
ルフィの夢を見るのはもう日常だ。
しかしこんな普通に突っ立ってる時にまで出てくるなんて自分の頭は完全にイカレてる。
この間海に落っこちそうになっていたアイツに慌てて飛びついたのがいけなかったかもしれない。
久しぶりにその体に触れた途端電気のように衝撃が走ったことは記憶に新しい。

ナミに背中を押されて、全てを打ち明けるつもりだった。
しかし触れた途端に強張る体、振り返りもしない、声も発しないルフィのその態度にサンジはすっかり打ちのめされてしまった。
そのことにショックを受け思い通りに口が動かなかった。
絞り出すように話を切り出し、謝罪の言葉を告げるとルフィはやっと顔を見せてくれた。
久々に見る想い人の顔にサンジは興奮を隠し切れず誤魔化す様に視線を逸らしたが、始終向こうは見つめて来ているようでその視線に体が熱くなり耐え切れず逃げ帰ってきてしまった。
話は半分も出来なかった。
しかしたったそれだけの出来事で日々の欲望の夢はリアルさを増した。

認めたら堰を切って溢れ出す想い、欲望。
いつしか襲って犯しかねない。気が気じゃない。
早くどうにかしなければいけない。
ナミはルフィが冷たくあしらう事など有りはしないと言った。
肯定的な助言に目の前が晴れ渡る気分になったが、良く考えればそれは俺に対するルフィの接し方が、ということで。
あくまで気持ち悪いだとか馬鹿にされるだとかそういうことが無いという意味だ。
打ち明けたところでそれを受け入れてくれるか否かはあくまで別問題だということに今さら気付いた。
きっぱりと断られたとして自分はこの気持ちを綺麗に捨てられるのだろうか?
否。そんなワケがない。強い感情。痛いほど感じる。
玉砕したら自分はどうなってしまうか判らない。
自分は狂って無理矢理にでもルフィを自分の物にしようとするかもしれない。
サンジは初めてコントロールの出来ない愛情を抱き自身に恐れすら感じた。

嫌われたくない。
それが一番。
傷つけたくない。
悲しませたくない。
恐がらせたくないし
大事に 大事にしてやりたい。

冷静な自分が頭の片隅で男相手に乙女な発想してんじゃねえとかツッコミ入れてるけど、

ああ

好きなんだよ。

どうしようもなく。

あの細っこい体 思いっきり抱き締めてやりてぇんだ。

俺の腕の中で笑っててほしい。
俺の料理食っておいしいって言ってほしい。



「もう、それだけでもいいからさ…」

俺の腕の中、はかなり図々しい願いかもしれないが。
こんなことならいっそ今までのままでもいいから。


「あー…見てぇんだよお前のクソ笑顔が!」

すごくすごく我慢すれば、夜寝る時とか体中縛っとけば襲っちまうなんて心配もないだろうし、
毎日頑張ってりゃこの想いもいつかは穏やかなものに変わるかもしれない。

「ってそこまでやんなきゃ無理かっつーの!」

一人ノリツッコミをしながら、試行錯誤を繰り返す自分に笑いが零れてきた。


こんな危機的状況なのに楽しいなぁなんて思うのは、やっぱお前に恋しちゃってるから?

あーほんとにクるとこまでキちゃってんね俺の頭も、なんてもうひと笑いしてから、

「でも、お前が嫌なら俺マジで我慢すっからさ…」

穏やかな笑顔をそのままにその瞳は優しく水面を映した。


例エ報ワレナクテモ

想ウダケデ幸セ。

ソコマデ想エル 自分ハ幸セ。





続