2003/1/10開設

予想1-1はねこまさんとYaさんのお二人によって独立に解かれ、予想1-2はYaさんによって解かれました。
予想1-1は反例があり正しくなく、予想1-2は正しいという結論になりました。一番下に解答を載せています。

予想1の提示

 数学の重要な局面で登場するベルヌイ数は、ふしぎな数です。この数を調べていて、とても奇妙な事実をみつけたので
紹介し、そのふしぎな性質に関し二つ予想を提出します。
ベルヌイ数は、
 x/(e^x−1)=B0+B1x+B2x^2/2!+B3x^3/3!+・・・・   -----@
として展開される有理数Bnです。

 B0 = 1         B20=-174611/330
 B1 = -1/2       B22=854513/138
 B2 = 1/6        B24=-236364091/2730
 B4 = -1/30      B26=8553103/6
 B6 = 1/42       B28=-23749461029/870
 B8 = -1/30      B30=8615841276005/14322
 B10 = 5/66       B32=-7709321041217/510
 B12 = -691/2730   B34=2577687858367/6
 B14 = 7/6         ・
 B16 = -3617/510    ・
 B18=43867/798

とどこまでも続いていきます。ちなみに、nが1を除く奇数の場合はすべて0です。
本によっては、B2nをBnと記しているものもあるのでご注意ください(つまり奇数は0だからはじめから除いている)。
(”ベルヌイ”数は、”ベルヌーイ”数とも呼ばれますが、”ベルヌイ”で表記しました)

さて、これが、とても不思議なのです。どう不思議なのか?
それは、上を素因数分解すればわかります。

 B0 = 1 =1
 B1 = -1/2 = -1/2
 B2 = 1/6 =1/(2×3)
 B4 = -1/30 =-1/(2×3×5)
 B6 = 1/42 =1/(2×3×7)
 B8 = -1/30 = -1/(2×3×5)
 B10 = 5/66 = 5/(2×3×11)
 B12 = -691/2730=-691/(2×3×5×7×13)
   ・
   ・
これを眺めていて、気付くことはないでしょうか?
じつは、各素数は一回きりしか!顔を出さないということです。
上のどれをみても、3^2とか7^3とかの累乗(何乗のこと)が一切現れず、とにかく同じ素数は一回切りしか出てこない
のです!(691は素数です)

どうやら、これがどんなnでも成り立っているようなのです。そこで、私はつぎのような予想を立ててみました。

予想1−1
 ベルヌイ数の素因数分解(分母、分子の)では、 同じ素数の累乗は現れない。
これが、1以外の奇数を除く任意のnに対してどこまでも成り立っていると予想される。


 みなさんは、どういう感想をもちますか?
ほんとうに、どこまでも成り立っているのでしょうか?
もしそうなら、非常に不思議です。ベルヌイ数は、興味のつきない数となります。

 ベルヌイ数は数学のいたるところに突如として現れるふしぎな数として知られていますが、このような
性質を論じている記述には、出合ったことがありません。
そこで、あえて予想として提示したのですが、どう思われますか?
 あまり根拠があって提示したものではないので、もちろん、反例が出てくる可能性もありますが、ベルヌイ数は
ゼータ関数にも関わる重要な数ですのでこのような特異な性質をもっていてもふしぎでない気もします。

 この予想は、まさに単純であり、その簡明さはフェルマー予想に勝るとも劣りません(証明の難しさは別として)。
 ともあれ、反例があるにしろ、成り立っているにしろ、私はこの予想を解きたくてしかたないのですが、どう解いて
よいのか見当がつきません。

 そこで、読者の方に、ぜひこの問題を解いてほしいのです。
つまり、成立するのか不成立か・・・成立の場合はその証明を、不成立の場合は反例を提示すればOKです。
「解決できたよ!」という朗報をまっています。解決者は、栄光を祝して、このサイトで紹介します(別証明ならば何人
でもOKです)

 また、もしn=36以上のベルヌイ数を調べられた場合どうであったかも、知らせて頂けるとうれしいです。順次、この
HPで紹介し追加していきたいと考えますので、よろしくお願いします。


知っておくとの有用ないくつかのこと
[1]便利なサイト
これまでB34まで調べましたが、そこまでは予想1−1は成り立っていました。
(私が知っている限界は、このB34です)
「どうしてそんな巨大な所まで調べられたの?」と思われるかもしれませんね。
世の中には便利なものがあります。下記のHPを参照して、調べました。
http://member.nifty.ne.jp/aya/misc/stl08.htm

http://home.highway.ne.jp/k-irie/JavaScript/resolu.html
(例えば「From 120 to 120」とすれば120一つだけの素因数分解ができます)

上がベルヌイ数が載っているサイト、下が素因数分解してくれるサイトです。便利なHPがあるものでしょう。
私は上を利用して、B34まで調べることができたのですが、そこまでは成立していました。

[2]ベルヌイ数の一般表記
 ベルヌイ数Bnはつぎのように一般表記することができます。

   B2n=(2n!){1+1/2^2n+1/3^2n+1/4^2n+・・・}/{(2^(2n−1)・π^2n・(-1)^(n+1)} ・・・・・A

ただし、n=1,2,3,4・・・・・で、B0=1、B1=-1/2とする。
この一般表記も、予想を解く上でなんらかのヒントになるのかもしれません。

参考までに、ゼータ関数とベルヌイ数との関係は、オイラーによって与えられました(1735年)。つぎのものです。
 m=0、2、4、6・・・・・・に対して

   ζ(m)=(-1)^k・2^h・Bm・π^m/m!  ・・・・・・・・B

ここで、k=m/2+1、h=m-1
じつは上の@式は、このA式より容易に与えられます。
ゼータ関数ζ()に関しては、下の参考文献の黒川信重さんらの本を参考にしてください。

文献
「数学の夢」素数からのひろがり (黒川信重著、岩波書店)
「マグロウヒル数学公式・数表ハンドブック」(Murray R. Spiegel著、氏家勝巳訳、オーム社)

[3]B14〜B34の素因数分解
念のため、B14〜B34の素因数分解も示しておきます。
 B14=7/6=7/(2×3)
 B16 = -3617/510=-3167/(2×3×5×17)
 B18=43867/798=43867/(2×3×7×19)
 B20=-174611/330=-283×617/(2×3×5×11)
 B22=854513/138=11×131×593/(2×3×23)
 B24=-236364091/2730=-103×2294797/(2×3×5×7×13)
 B26=8553103/6=13×657931/(2×3)
 B28=-23749461029/870=-7×9349×362903/(2×3×5×29)
 B30=8615841276005/14322=5×1721×1001259881/(2×3×7×11×31)
 B32=-7709321041217/510=-37×683×305065927/(2×3×5×17)
 B34=2577687858367/6=17×151628697551/(2×3)

 これと先のB0〜B12とを合わせて眺めて、気付くことはないでしょうか?
なんと、分母の素因数分解に必ず2×3が現れています。とてもふしぎです。B0〜B34まで全てにおいて
現れているというのは、なにか理由があるのでしょうか。
そして、この2×3は、この先どこまでも(n=36以上でも)現れてくるものなのでしょうか?

 さらに、あと一つ気付くことがあります。
nが大きくなってくると分子において極端に大きな素数が一つ出現する点です。なにやら意味ありげにみえますが、
もちろん、なぜこんなふうになるかまったくわかりません。これも、もっと高みにたてば、その理由もわかってくるの
かもしれません。読者の方でここらあたりで、気付かれたことがあれば教えてください。



追加2003/1/12              ベルヌイ数の面白い事実

 上のベルヌイ数に関してさらに気づいたことがあります。
もう一度、ベルヌイ数B0〜B34の素因数分解をならべてみましょう。

 B0 = 1 =1
 B1 = -1/2 = -1/2
 B2 = 1/6 =1/(2×3)
 B4 = -1/30 =-1/(2×3×5)
 B6 = 1/42 =1/(2×3×7)
 B8 = -1/30 = -1/(2×3×5)
 B10 = 5/66 = 5/(2×3×11)
 B12 = -691/2730=-691/(2×3×5×7×13)
 B14=7/6=7/(2×3)
 B16 = -3617/510=-3167/(2×3×5×17)
 B18=43867/798=43867/(2×3×7×19)
 B20=-174611/330=-283×617/(2×3×5×11)
 B22=854513/138=11×131×593/(2×3×23)
 B24=-236364091/2730=-103×2294797/(2×3×5×7×13)
 B26=8553103/6=13×657931/(2×3)
 B28=-23749461029/870=-7×9349×362903/(2×3×5×29)
 B30=8615841276005/14322=5×1721×1001259881/(2×3×7×11×31)
 B32=-7709321041217/510=-37×683×305065927/(2×3×5×17)
 B34=2577687858367/6=17×151628697551/(2×3)

 さらに気づいたことなのですが、分母の素因数分解で現れる最大の素数は、Bnのnに1を足した
数n+1を超えないようにつねに出現しているようなのです。
つまり、分母の素因数分解の最大素数<=n+1です。

 例えば上でB16はB16 = -3617/510=-3167/(2×3×5×17)であり、分母の最大素数は17ですが、
この17は、n+1=16+1=17以下という上の条件を満たしています。他のものでも、まったくそうです。
じつに興味深いですね。

追加
今回指摘したことに関しては、加藤和也さんの本での関連ある記述を参照ください。ゼータ関数に関して
上と同じ事実が指摘されており、式Bのようにベルヌイ数とゼータ関数は密接に関係していますので、
ベルヌイ数での「分母の素因数分解の最大素数<=n+1」についは、おそらく現代数学で、ほとんど解明されて
いると思われます。



追加2003/1/12              予想1-2の提示

 さらにあと一つベルヌイ数に関して発見したことがあります。上のB0〜B34の中から、つぎのものを抜き出しました。

 B10 = 5/66 = 5/(2×3×11)
 B14=7/6=7/(2×3)
 B22=854513/138=11×131×593/(2×3×23)
 B26=8553103/6=13×657931/(2×3)
 B34=2577687858367/6=17×151628697551/(2×3)

 赤文字と青文字に注目してください。なにか気付くことはないでしょうか?
そうです、5、7、11、13、17・・は素数表上で連続する素数となっていて、それが、Bnのnがこれら素数の倍数になった
ところで分子に出現しているのです。
面白いですね。(素数2と3の場合は成り立っていないですが)

ここまで成立しているということは、おそらく、これはどこまでも(n=36以上でも)成り立っているのではないでしょうか。
そこで、予想1−2を提示しました。

予想1−2
 pをある素数とする。n=10以上のベルヌイ数Bnに関し、ベルヌイ数B2pの値の分子を素因数分解する
と、必ず素数pが出現する。


 まだ実験的に調べただけですから、もちろん、定理とするには、証明が要ります。私には、わからないですね。
また、奇妙なことに、どうやら、この素数が出現する場合は、なぜか分母が異様に短い素因数分解になっているようです。
B0〜B34の分母と比較してください。複雑な分母の場合と比較して、高々3項までの掛け算にとどまっているのは、
なにか理由がありそうです。

---------------------------------------

以上の二つの予想は、意味自体は中学生でもわかる内容であり、子供から、大人まで楽しめる予想です。
みなさんの果敢な挑戦を待っています。



2003/1/16追加
            予想1-1と予想1-2が解かれました

予想1-1は、ねこまさんとYaさんのお二人によって独立に解かれ、予想1-2はYaさんによって解かれました。
予想1-1は反例があり正しくなく、予想1-2は正しいという結論になりました。お二人に深く感謝いたします。

ねこまさんの解答 予想1-1の反例

           5^2*417202699*47464429777438199
 bernoulli(50) = ---------------------------------
                2*3*11

           7^2*2857*3221*1671211*9215789693276607167*
         9778263152874996218584617307180549616435599
 bernoulli(98) = ----------------------------------------------
                     2*3

となっていました。平方因子が現れるのは 100 未満ではこれだけのようです。

 ねこまさんは、二つの反例を示してくださいました。
100未満で二つしかないというのもちょっと驚きです。それにしても、bernoulli(98) はなんというとてつも
ない数なんでしょう!


Yaさんの解答 予想1-1の反例と、予想1-2の正しさの説明
HP にのっている予想 (1-1) と (1-2) ですが,まず (1-1) は誤りです.
反例は例えば n=50 で,このとき

          495057205241079648212477525
     b_50 = ---------------------------
                 66

分子の素因数分解は

          2
        (5) (417202699) (47464429777438199)

となります.分母に素因数の累乗が出ないこと,2*3 があることは,クラウゼン・フォンシュタウトの定理
からわかります.ベルヌイ数の分母については,この定理で完全にわかっています.

予想 (1-2) は正しいことがわかっています.(クンマーの合同式の一部)
詳しくは昨日のメールの文献を御覧になって下さい.

杉岡註:最後の”文献”とは、荒川恒男 他「ベルヌーイ数とゼータ関数」(牧野書店)のことです。


 Yaさんは、分母には素因数の累乗が出ないことを指摘されています。これだけでもびっくりです。
予想1−1では分子、分母ともに累乗が出ないことを予想していましたが、部分的に正しい(分母のみ)という
ことになっていたのですね。
また、2×3がどこまでも出現することも(私が予想していたこと)も、正しかったのもうれしいです。

 ・・・それにしてもベルヌイ数は、いったいどこまでふしぎな数なんでしょう!





数学の研究へ






 「数学のたのしみ」23号をながめていたら、数学者瀬山士郎氏の書評エッセイで、つぎのような面白いことが
書かれていました。

  「単位分数をいくら足していっても整数になることはない、つまり、

   1/1+1/2+・・・+1/n

  は整数にならない。これは、20世紀はじめに証明されたが、エルデュシュはそれを整数の等差数列の逆数和の
  問題に拡張した。・・」


 私は、こんな事実は、知らなかったので、びっくりしました。
 いやー、ふしぎですよね、つくづく”数”というのは、ふしぎなものと思います。
  
  1/1+1/2+1/3+1/4+1/5
や、
  1/1+1/2+1/3+・・・+1/52

  1/1+1/2+1/3+・・・+1/10234

や、とにかく、1/1+1/2+・・・+1/nの形のどんなものをもってきても、それが整数になることはない!永遠にない!
いうのですから、なんと神秘的なことでしょう!


註:「数学のたのしみ」は1997年から2002年にかけて日本評論社から刊行された、美しく素晴らしい雑誌のことです。