エスペラントの欠点と反論

ここでは、エスペラントの欠点として、よく指摘されることがらを紹介します。
そして、一部の改造案も紹介します。

私はエスペラントの改造には反対です。改造案は、個人的な趣味であったり、
ヨーロッパの言語に近づけようとするものがほとんどで、かえってエスペラン
トの利点である学習容易性、論理性、中立性を損なうものばかりです。

ここには、改造案に対する私の反論を挙げました。中には反論を挙げないもの
がありますが、もっともだと思うものもあるからです。しかし、私自身は、改
善案を支持しません。それは、たとえ計画的に発案された言語であっても、
その発展は一部の人によってコントロールされるべきではないと思うからです。

1.字上符

(欠点)  c,s,j,g,h,uの上につく ^ は目障りである。
          これらはタイプライターのキーにないので不便である。

(改善案)その1)c^はchとする。s^はshとする。j^はjとし、jはyとする。
                  h^はkとする。u^はwとする。g^ はgとし、gは単語によ
                  って、gと発音されたり、g^と発音されたりする。
          その2)これらの活字が使用できないときにかぎり、
                  c^ s^ j^ g^ h^ u^ を ch sh jh gh hh w とすること
                  を認める。(cx sx jx gx hx ux を用いる例もある。)

(反論)  その1)論理性が損なわれるので認められない。
          (「エスペラントの論理性」「14.字上符」を参照)
          その2)h を付ける方法はエスペラント・アカデミーが認める
          方法である。論理性を考えれば、x を用いる方が優れている。

2.接頭辞、接尾辞

(欠点)  接頭辞、接尾辞を使った合成語は不自然である。特にmal- -in-
          などの合成語にたいして、ヨーロッパ人は不自然さを感じるよ
          うである。

(改善案)mal/dekstr/a(左の)の代わりに sinistr/a 、
          patr/in/o(母)の代わりに matr/o を用いる等。

(反論)  たとえばこれを日本語に置き換えて考えてみた場合、「左」を
          「反右」と、「母」を「父女」と言われると、不自然さを感じ
          てしまう。しかし、エスペラントはヨーロッパ人だけのもので
          はないので、こういうことをして、学習容易性が損なわれるこ
          とは認められない。

3.対格語尾、複数語尾

(欠点)  名詞の対格語尾 -n 、形容詞の複数語尾 -j と対格語尾 -n が
          目障りである。

(改善案)ヨーロッパの主要な言語、たとえば、英語、フランス語には、
          これらの規則はないので、排除する。

(反論)  ヨーロッパの主要な言語にこれらの規則がないという理由で排
          除するのは、偏った考えである。論理性を損なうので認められ
          ない。
          (「エスペラントの論理性」の「3.名詞と形容詞に複数形と
          目的格の語尾がある」を参照)

4.外来語

(欠点)  エスペラントは造語法というすばらしいものを持っているのに、
          安易に外来語を受け入れすぎる。

(対処案)たとえば次のように基本的な語根の合成語で言い替える。

          simultana interpretado(同時通訳)->  sam/temp/a interpretado
          reglamento            (法規)    ->  regul/ar/o
          municipa hospitalo    (市立病院)->  urb/a mal/san/ul/ej/o
          miokardia infarkto    (心筋梗塞)->  kor/muskol/a tub/o/s^top/o

          *このような単語は非公認のものが多いが、公認語根にもみられる。
            このサイトの単語集では、(同)のしるしで、より基本的な語
            根で言い替えを示した。

(反論)  なし

5.合成語、派生語

(欠点)  合成語、派生語の意味が連想しにくいものがある。

          el/don/i は「引き渡す」ではなく、「出版する」。

          krono(王冠)の派生語
          kroniは「王冠をかぶる」ではなく、「王に任ずる」。

          profeto(予言者)の派生語
          profetiは「予言者になる」ではなく「予言する」。

          oro(金)の派生語
          oriは「金をつくる」ではなく「金メッキする」。

          vesto(着物)の派生語
          vestiは「着る」ではなく「着せる」。

(改善案)なし

(反論)  なし

6.多義語

(欠点)  エスペラントには多義語がいくつか存在し、あいまいさが生ずる。
          例) Li estis antau^ ni.  彼は私たちの前にいた。
                  「目の前にいた」のか「以前からいた」のか
               libro de Sato  「佐藤所有の本」か
                              「佐藤によって書かれた本」か
                              「佐藤から借りた本」か

(改善案)イードでは次のように単語をわけている。
          antau^    場所の前=avan、時間の前=ante
          de        〜の=di、〜による=da、〜から=de

(反論)  なし

7.同音異義語

(欠点)  いくつか同音異義語が認められる。

          もともとある語と外来語との間で発生する場合がある。
          例)golfo  「湾」と「ゴルフ(球技)」(別語源である)

          合成語でも発生する可能性がある。
          例)sent/em/a(敏感な)と  sen/tem/a(無題の)

(対処案)別の形にするか、合成語にする。
          例)golf/o/lud/o(ゴルフ)
              ne/tem/a(無題の)

(反論)  なし

8.序数の欠如

(欠点)  miliono(百万)は名詞なので、序数表現ができない。

(改善案)序数表現するときだけ、数詞としてあつかい、miliona(百万番目の)
          とする。

(反論)  なし

9.性に関係ない表現

(欠点)  いくつか語根に男性を表すものがあり、それに対する性に関係
          ない表現ができない。

          たとえば patro(父)があり、そこからpatrino(母)を作れる
          が、性別を問わない「親」という単語が欠如している。

          次の単語がそれに該当する。
          edzo(夫)patro(父)filo(息子)frato(兄弟)
          avo(おじいさん)nepo(孫)onklo(おじ)nevo(甥)kuzo(いとこ)
          fianc^o(婚約者)knabo(少年)viro(男の人)frau~lo(独身者)
          princo(王子)reg^o(王)sinjoro(紳士)

          また、3人称単数の代名詞にもそれがない。中性のg^iはある
          が、物扱いのようなので、人には使えない。

(対処案)その1)「親」はpatroで代用。3人称代名詞はliで代用。
          その2)接頭辞geをつけ単数で表す。「親」はgepatro。
                  3人称代名詞の代わりにtiuを用いる。
          その3)語根はすべて中性をあらわすものとする。
                  男性を表すときは、-ic^-という語尾をつける。
                  「親」はpatro、「父」はpatric^o
                  3人称代名詞はriを用いる。

(反論)  その1)「父」か「親」かのあいまいさが生じる。
          その2)「親たち」をあらわそうとすると、gepatrojとなり、
                  「両親」のgepatrojと区別できない。
          その3)なし

10.人称代名詞

(欠点)  ni(私たち)聞き手を含むのかどうかの区別ができない。
          vi(あなた)複数か単数か区別できない。

(改善案)なし

(反論)  なし

11.前置詞の品詞性

(欠点)  前置詞句の形容詞用法と副詞用法の区別がない。
          例)Mi vidis fis^on en la maro.
          前置詞 en の句を
          形容詞用法と捉えた場合、「私は海の魚を見ました。」になる。
              (テレビで見たかも知れない)
          副詞用法と捉えた場合、「私は海で魚を見ました。」になる。

(対処案)明確に副詞用法とわからせたいときは','で区切るか、前に持っ
          てくる。
          例)Mi vidis fis^on, en la maro.
              En la maro, mi vidis fis^on.
          明確に形容詞用法とわからせたいときは関係代名詞をもちいる。
          例)Mi vidis fis^on, kiu estas en la maro.

(反論)  なし

12.副詞が名詞句になる

(欠点)  エスペラントでは「副詞 da 名詞」で名詞句を作るが、対格の
          語尾が付けられないので、あいまいさが生じる。不合理である。
          例)Kelke da serpentoj mang^as kelke da bufoj.
              「何匹かの蛇が何匹かのカエルを食べる」とも
              「何匹かのカエルが何匹かの蛇を食べる」とも、とれる。

(改善案)なし

(反論)  これは、不定詞句でも、ke 節でも言えることなので、
          「副詞 da 名詞」の表現が特に不合理というわけではない。
          語順の通り解釈するしかない。

13.修飾の範囲

(欠点)  修飾する語が修飾する範囲を厳密に限定できない。
          例)fis^o en la maro, kiun mi vidis
              私が見た海の魚
              (私が見たのは海か魚か)

(改善案)完全を求めると数式のようになる。(論理学の範疇である)
          以下に示すのは、句、節の範囲を括弧でくくり、括弧の後ろに
          語尾を付ける方法。これは書き言葉だけで使える補助的な方法。

          例)私が見たのが海の場合。
              fis^o [en la maro [kiun mi vidis]a ]a

              私が見たのが魚の場合。
              fis^o [en la maro]a [kiun mi vidis]a

              上の12と13の例の場合では次のようになる。
              Mi vidis fis^on [en la maro]an.
              Mi vidis fis^on [en la maro]e.
              [Kelke da serpentoj]o mang^as [kelke da bufoj]on.

(反論)  エスペラントが人工語で、論理性の高い言語だといっても、
          人間が会話で使う言語であるかぎり、完全な論理性を追求する
          ことはできない。

14.語根が「人」

(欠点)  語根が「人」の意味のものがあり、一般の感覚とは逆であり、
          違和感を感じる。

          例)fotograf/o        写真家    (photographer)
                fotograf/aj^/o  写真      (photograph)
              geograf/o         地理学者  (geographer)
                geograf/i/o     地理学    (geography)
              japan/o           日本人    (Japanese)
                japan/i/o       日本      (Japan)

(改善案)公認語根ではないが、次のような語も使われている。
          例)fot/o             写真
                fot/ist/o       写真家
              japani/o          日本
                japani/an/o     日本人

(反論)  民族から国名が派生されるのは、多民族国家や国家を持たない
          民族を考慮してのことだろう。ザメンホフは「人類人主義宣言」
          の中で次のように言っている。

          「あらゆる国家は、民族の名前ではなく、中立的地名を名称に
          すべきだ。なぜなら、歴史のある国では民族名を国名とし、あ
          る民族がその他の民族の支配者と考える理由になっているから
          だ。」

          本来、民族が先にあり、その後、国家が成立するものだという
          歴史認識を彼はもっていた。民族と国家は1対1の関係である
          とは言い切れない複雑な状況に対応するために、このような体
          系になったと思われる。

          japan/i/an/o で日本人とすることがあるが、これは日本国籍
          を持つ人という意味で使われる。これには、アイヌ民族や琉球
          民族も含まれる。japan/o という場合、大和民族のみとも取れ
          るからである。

15.受身が複合時制

(欠点)  受身表現をするときに、単純時制でよくても、複合時制になっ
          てしまう。受動現在分詞(-ata)を使うか、受動過去分詞(-ita)
          を使うかで迷ってしまう。(英語は過去分詞しか使えないので
          この問題は起こらない。)

          例)Taro skribis la leteron.(太郎がこの手紙を書いた)の
              受身表現(この手紙は太郎に書かれた)として次のどれが
              よいか。
              La letero estas skribita de Taro.
              (この手紙は太郎に書かれてしまった)
              La letero estis skribata de Taro.
              (この手紙は太郎に書かれていた)
              La letero estis skribita de Taro.
              (この手紙は太郎に書かれてしまっていた)

(改善案)受動の接尾辞としてesを使う。
          例)La letero skribesis de Taro.
              (この手紙は太郎に書かれた)

(反論)  実践上これらの区別が問題になることはあまりないと思う。
          estis skribata  で充分である。

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