論理性

論理的な文とはあいまいさのない文のことです。
逆に、あいまいな文とは一つの文の意味が何通りにも取れる文の
ことです。たとえば次のような文です。

    「このはし渡るべからず。」

「はし」を「橋」と「端」の二通りに取れます。

    「若い男と女」

「若い」が「男」だけに掛るのか、「男と女」に掛るのかで、
ニ通りに意味が取れます。

「同音異義語、多義語」や「掛り先が何通りもあること」が、
あいまいな文を造る原因になります。

次の英文は5通りの意味に取れます。

    Time flies like an arrow.

    ・時間は矢が飛ぶように飛ぶ。(実際は、これが言いたい)
    ・あなたが矢の速さを計るように、蝿の速さを計りなさい。
       (time=速さを計る  flies=fly 蝿 の複数形)
    ・矢が蝿の速さを計るように、あなたが蝿の速さを計りなさい。
    ・矢に似ている蝿の速さを計りなさい。
    ・時蝿は矢が好きだ。

エスペラントでは、次のようにいいます。

    Tempo flugas kiel sago.

この文は一通りの意味にしか取れません。

エスペラントがあいまいな文を防ぐために、どのような工夫をしているか、
見ていきましょう。

1.同音異義語がほとんどない、多義語が少ない

英語のthere, theirのような同音異義語や、
order(順序,秩序,階級,勲章,命令,注文)のような多義語が少ない。

多義語を防ぐために、同じ語源から採用した単語でも形をかえています。

    例)type は「型」と「タイプライターで書く」という意味があります。
        エスペラントでは「型」をtip、
        「タイプライターで書く」をtajpにしています。

その他の例は単語集に「源」という記号をつけて表しています。

2.品詞、法、時制を示す固有の語尾がある

「Time flies like an arrow.」で示したように、英語では、名詞と動詞が同形であっ
たり、他動詞と自動詞が同形であったりするため、文のなかでこれはどの品詞のもの
か瞬時には判別がつかなかったり、判断を誤って変に意味を取ってしまうことがあり
ます。エスペラントでは各単語に品詞を表す語尾が付いているので、このようなこと
はありません。

たとえば、次の英語の文の意味を、すぐにつかめますか。

    Can you come help me pack these plates.

    All you do is watch videos.

どれが述語動詞であるかすぐには分かりません。エスペラントで書くとこうなります。

    C^u vi povas veni kaj helpi min paki c^i tiujn telerojn.
    あなたは来て、わたしがこれらの皿を包むのを手伝えますか。

    (c^u:〜か vi:あなた povas:できる veni:来ること kaj:そして helpi:助ける
      min:私を paki:包む c^i tiu:この telero:皿)

    C^io , kion vi faras , estas rigardi videojn.
    あなたのする全ては、ビデオを見ることだ。
    (あなたはビデオだけ見ていればいい。)

    (c^io:全て kion:〜こと(関係代名詞) vi:あなた faras:する estas:〜である 
      rigardi:見ること video:ビデオ)

エスペラントだと文の構造が明確につかめます。

法と時制を表すための動詞の形の変化は、
エスペラントでは、現在、過去、未来、仮定法、意志法で別々の語尾を持ちます。
英語は現在形と過去形しかありません。それぞれの時制や法で同じ動詞の形を共有
しています。ですから、未来時制の文と意志法の文の区別、過去時制の文と仮定法
の文の区別を見分けるのが簡単でありません。

3.名詞と形容詞に複数形と目的格の語尾がある

エスペラントには名詞と形容詞に複数形語尾 -j 目的格語尾 -n がつきます。
そして形容詞と名詞の語尾は一致させなければなりません。

    bela   floro    美しい花
    belaj  floroj   美しい花々
    belan  floron   美しい花を
    belajn florojn  美しい花々を

英語には名詞に目的格語尾がありませんし、形容詞が複数形や目的
格によって変化しませんので、エスペラントのこの規則はやっかい
に感じます。しかし、これは、掛る関係を明確にするために必要な
ものです。

    Mi amas s^in kiel mian filinon.  目的語の同格
        娘を愛するように、私は彼女を愛する。
    Mi amas s^in kiel mia filino.    主語の同格
        娘が愛するように、私は彼女を愛する。

    (mi:私 amas:愛する s^in:彼女を kiel:〜のように mia:私の filino:娘)

    Mi faris mas^inon leganta libron.  目的語の叙述形容詞 (SVOC構文)
        私は機械に本を読ませた。  (I made machine read a book.)
    Mi faris mas^inon legantan libron. 目的語の限定形容詞 (SVO構文)
        私は本を読む機械を作った。(I made machine reading a book.)

    (mi:私 faris:〜にする mas^ino:機械 leganta:読んでいる libro:本)

    granda  hundo kaj kato 「大きな犬」と「猫」
    grandaj hundo kaj kato   大きな「犬と猫」

    (granda:大きな hundo:犬 kaj:〜と kato:猫)

もし英語に目的格語尾があれば次のあいまいさは起こりません。

・他動詞か不完全自動詞かの区別

    I get a cat.

    私は猫を手に入れる。(他動詞 SVO構文)
    (Mi akiras katon.)

    私は猫になる。      (不完全自動詞 SVC構文)
    (Mi farig^as kato.)

    (mi:私 akiras:手に入れる farig^as:〜になる kato:猫)

・授与動詞か不完全他動詞かの区別

    I make him a cake. 
    
    私は彼にケーキをつくる。(授与動詞 SVOO構文)
    (Mi faras por li kukon. エスペラントにはSVOO構文はない)
    
    私は彼をケーキにする。  (不完全他動詞 SVOC構文)
    (Mi faras lin kuko.)

    (mi:私 faras:〜にする、〜を作る por:〜のために li:彼 kuko:ケーキ)

4.欠如形がない

英語では、次のような例があります。

    俳優(actor)に対して女優(actress)、
    給仕(waiter)に対して給仕婦(waitress)があるのに、
    医者(doctor)に対して女医をあらわす言葉がない。

    1(one)に対して1番目(first)、
    2(two)に対して2番目(second)があるのに
    いくつ(how many)に対して何番目をあらわす言葉がない。

こういうのを欠如形といいます。

英語では、何番目をあらわす言葉がないので、たとえば、
「クリントンは何代目の大統領ですか」という表現はできません。
こう言うとき、どうするかというと、
「ワシントンは1代目の大統領でした。クリントンはどうですか。」
といいます。

エスペラントではdoktorino(女医)、kioma(何番目)という言葉があります。

    例)Kioma lernejestro  estas li?  彼は何代目の校長ですか。
      (Kioma:何番目の lernejestro:校長 estas:〜である li:彼)

英語の助動詞のcanやwill等は分詞と不定詞がありません。これも欠如形です。

エスペラントでは助動詞はなく、英語の助動詞と同じ意味のものが動詞にあります。
ですから、それらには分詞や不定詞があります。

    例)英語のcanはpovi
            povantaはpoviの現在分詞
            kato povanta nag^i (泳ぐことのできる猫)
            (kato:猫 povanta:〜できる nag^i:泳ぐこと)

        英語のmustはdevi
            devataは現在受動分詞
            libro devata legi  (読むべき本)
            (libro:本 devata:〜するべき legi:読むこと)

5.難しい慣用句が少ない

英語の文の読解を難しくしているのは、慣用句だといわれています。
個々の単語の意味は解るのに文の意味が全く解らないときは、
慣用句を疑ってみる必要があります。
エスペラントでは、慣用句が少ないのでこのような苦労はありません。

6.形式主語を置かない

英語では次のような場合、形式主語「it」が用いられます。

・天候、寒暖、日付、時間などの非人称のもの

    It is cold.  寒い。

・長い文節などを代表するもの

    It is difficult that he comes today.   彼が今日来るのは難しい。
    It is difficult to fly in the sky.     空を飛ぶのは難しい。

エスペラントは形式主語を用いません。
エスペラントの原則では、文中に意味のない単語を持たないからです。
上記の英文に対応するエスペラントの文は次のようになります。

    Estas malvarme. 寒い。
    Estas malfacile, ke li venas hodiau^. 彼が今日来るのは難しい。
    Flugi en la c^ielo estas malfacile.  空を飛ぶのは難しい。

    (estas:〜である malvarme:寒い malfacile:難しい ke:〜こと li:彼 venas:来る 
      hodiau^:今日 flugi:飛ぶこと en:〜の中で c^ielo:空)

これらの主語に対する修飾は形容詞でなく副詞になります。
エスペラントでは限定でも叙述でも形容詞は名詞に対してしか使えません。
不定詞句や文節が名詞的に用いられていても、本質は動詞や文なので、
それに対する修飾は限定でも叙述でも副詞を用います。
無主語の場合は述語動詞に対する修飾ということで、副詞を用います。

英語では、不特定のものが存在することをあらわすのに、「There is 〜」と表現します。

    「テーブルの上に花瓶がある。」という場合、
    A vase is on the table.とは言わないで、
    There is a vase on the table.といいます。

このthereは意味を持っていません。
これは不特定のものは述語動詞の前に来ないという英語の規則から来るものです。

逆に特定のものが存在することを表す場合には、「There is 〜」は使えません。

    Mt. Fuji is in Shizuoka.   富士山は静岡にある。
    
エスペラントではどちらの場合も、thereに当たる語は用いません。

    Estas vazo sur la tablo.           テーブルの上に花瓶がある。 
    La monto Fuj^i estas en S^izuoka.  富士山は静岡にある。

    (estas:〜である vazo:瓶 sur:〜の上に tablo:テーブル monto:山 en:〜の中に)

7.一般人称専用の代名詞がある

一般人称とはその行為者を特に言う必要がないときに用いられます。
英語ではoneやpeopleが用いられます。
しかし、これらは一般人称専用の単語ではありませんので、
文脈のなかで一般人称だと把握する必要があります。

    People say that he is dead. 彼は死んでいるといううわさです。

エスペラントでははっきりと文の中でこれが一般人称だとわかるように専用の「oni」
という代名詞が用意されています。

    Oni diras ke li estas morta. 彼は死んでいるといううわさです。
    (oni:人々 diras:言う ke:〜こと li:彼 estas:〜である morta:死んでいる)

8.再帰を表す代名詞がある

英語の「He loves his son.」では、彼が愛しているのは、彼自身の息子なのか、
別の人の息子なのか区別が付きません。
heとhisは同一人物の場合と別人の場合があるからです。

エスペラントでは、この違いを「si」という再帰代名詞で区別します。
主語以外の三人称代名詞が主語の三人称代名詞と同一の場合に
「si」を用います。

    Li amas lian filon.   彼は(別の)彼の息子を愛している。
    Li amas sian filon.   彼は彼(自身)の息子を愛している。

    (Li:彼 amas:愛する lia:彼の sia:自身の filo:息子)

9.deとda

英語の「a cup of coffee 」は「一杯のコーヒー」という意味と
「1個のコーヒーカップ」という意味のどちらにもとることができます。

エスペラントではこの違いを「de」と「da」で区別します。

    taso de kafo   1個のコーヒーカップ
    taso da kafo   一杯のコーヒー
    
    (taso:カップ kafo:コーヒー)

10.SVOO構文が無い

SVOOであらわされるような表現ができないという意味ではなく、
間接目的語と直接目的語の両方に対格を用いるということが無いという意味です。
間接目的語は前置詞を用いてあらわします。

    例)(英語)I give you a present.
        (エス)Mi donas vin donacon. とはせず、
                Mi donas al vi donacon. とする。
                (mi:私 donas:与える al:〜へ vi:あなた donaco:贈り物)

間接目的語と直接目的語の両方に対格を用いてしまうと、
どちらがどっちか不明確になります。
エスペラントでは、これを避けるため、間接目的語は対格にしないのです。

11.分詞と不定詞

不定詞句、分詞句それぞれに名詞、形容詞、副詞の用法があります。
英語の場合、名詞、形容詞、副詞どの用法でつかわれても、語形が同じなので、
どの用法で使われているかの判断は、文脈から読み取るしかありません。
エスペラントの場合、分詞には品詞語尾があるので、用法が明確です。
また、エスペラントの不定詞には名詞用法しかありません。

    不定詞句         英語      エスペラント
        名詞用法     to  〜    -i
        形容詞用法   to  〜    なし
        副詞用法     to  〜    なし

    分詞句           英語      エスペラント
        名詞用法     -ing      -anto
        形容詞用法   -ing      -anta
        副詞用法     -ing      -ante

用法によっては、意味が変わる場合もあるので、ここにあいまいさが生じます。

    (英語)

        I rided train going to Shinjuku.

        形容詞用法と捉えた場合、「私は新宿行きの列車にのりました。」になります。
        「列車」は新宿まで行きますが、「私」は新宿までいくとは限りません。
        途中の駅が目的地の場合があります。

        副詞用法と捉えた場合、「私は新宿へ行くとき、列車にのりました。」になります。
        「私」は新宿まで行きますが、列車は新宿行きであるとは限りません。
        他の列車に乗り継いで新宿にいく場合があります。

    (エス)

        Mi rajdis trajnon, irante al S^inj^uku.
        私は新宿へ行くとき、列車にのりました。

        Mi rajdis trajnon irantan al S^inj^uku.
        私は新宿行きの列車にのりました。

        (mi:私 rajdis:乗る trajno:列車 irante:行くとき iranta:行く〜 al:〜へ)

エスペラントでは、分詞は6つありますが、英語には、2つしかありません。
英語の過去分詞は過去にも受動にも使うので、あいまいさが生じます。
エスペラントでは過去と受動では別の分詞が割り当てられています。

    英語  -ing  現在分詞
          -ed   過去分詞(過去、受動)
    エス  -int- 過去能動分詞
          -ant- 現在能動分詞
          -ont- 未来能動分詞
          -it-  過去受動分詞
          -at-  現在受動分詞
          -ot-  未来受動分詞

    詳細

12.porとpro

エスペラントの por と pro は英語の for にあたり、日本語でも「〜のため」という
訳語があたえられています。for や 「〜のため」というとき、原因を表す場合と、目的
を表す場合があります。エスペラントでは原因を表す場合は pro を使い、目的を表す場
合は por を使います。

例)Li mortis por mi. 彼は私のために死んだ。
    (たとえば、河でおぼれる私を助けるために死んだ。)

    Li mortis pro mi. 彼は私のために死んだ。
    (たとえば、私が車でひいたために死んだ。)

    (li:彼 mortis:死んだ por:〜の目的で pro:〜が原因で mi:私)
    

13.二重否定

二重否定とは、1文中に否定を表す語が2つ用いられる表現です。
エスペラントでは二重否定を用いてはなりません。

    例)  Mi ne  vidis neniam.
          (mi:私 ne:〜ない vidis:見た neniam:どんな時も)

ヨーロッパ語では、否定の強調で用いられる場合(決して見たことはなかった)と、
肯定の場合(見たことがないことはない)があります。
エスペラントでは、あいまいさをなくすために用いません。

14.字上符

エスペラントの文字には c^ s^ g^ 等の字上符を持つ物があります。
これは、1音が1文字に対応するために取り入れられた方法です。

エスペラントを改造と企む人はこれが気に入らないらしく、これをなくしたがっていま
す。イドというエスペラントの改造案では、 c^ は ch 、s^ は sh 、g^ は g とし、
gi は単語によって、「ギ」と読んだり、「ヂ」と読んだりします。これは、英語に近く
しようとする試みです。しかし、chaは「ツハ」と「チャ」の2通り、shaは「スハ」と
「シャ」の2通りの読み方ができ、あいまいさが出てしまいます。このあいまいさをなく
すためにエスペラントでは、字上符を用いています。

コンピュータなどではこの文字がないために、c^ や cx 等のようにします。

15.前置詞と後続の名詞を離さない

前置詞を伴う語の疑問文を作るとき、
英語では前置詞を後ろに残して疑問詞だけを頭に持ってきますが、
エスペラントでは前置詞と疑問詞を離さずに頭に持ってきます。

    (英語)What did you eat it with.   With pencils.
    (エス)Per kio vi mang^is g^in.    Per krajonoj.
            あなたは何を使って食べましたか。  鉛筆で。
            (per:〜を使って kio:何 vi:あなた mang^is:食べた g^in:それを 
              krajono:鉛筆)

英語の表現では、疑問詞(what)と前置詞(with)の結びつきがすぐには見えてこず、
「何を食べたか」と誤解を与えてしまうことがあります。
エスペラントでは、前置詞(per)と疑問詞(kio)を離さないようにしています。

16.分配単数とpo

それぞれの人がそれぞれ1つづつイスに座っている場合、エスペラントでは、
C^iu sidas sur seg^o. といいます。

イスは複数個あるのに、複数形にしません。それぞれに一つある場合には、単
数にします。これを分配単数といいます。

しかし、皆が一つのイス(たとえばベンチ)に一緒にすわっている場合にも、
C^iu sidas sur seg^o.と、先の例と同じになり区別できません。

そこで、分配を表す前置詞poを用い、次のように区別します。

・それぞれのイスに座っているとき
  C^iu sidas sur po unu seg^o.

・同じイスに座っているとき
  C^iu sidas sur nur unu seg^o.

  (c^iu:皆 sidas:座っている sur:〜の上に po:それぞれ nur:唯一 unu:1つの 
    seg^o:いす)

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