| ――想いと共に――≪前編≫ |
「ふーっ、やっと終わりました。」
アイラはその日、ラファエルに出す報告書をまとめていた。
予定では一日休息、と言う事だったのだが、どうも最近アルカヤの
混乱度の進み具合が早く、魔石の動きも気になるので
途中経過を報告しようと思っていたのだ。
最も、その所為でAPはまともに回復してはいないのだが・・・
「お疲れ様です、アイラ様。 コレ、宜しかったら召し上がって下さい。」
そう言ってくれたのはリリィだった。
彼女はミニマムサイズのティーセットとお手製のクッキ―をテーブルの上に置き、
自分が座れる大きさの椅子を載せた。
「ありがとうございます、リリィ。」
ティーカップに口を付けると同時に、ペパーミントの芳香が広がる。
しかしすぐに飲み終わってしまい、背丈が妖精より倍以上あるアイラにとって少し物足りない。
「もう一杯いかがです?」
「ええ、お願いします。」
だが、わざわざ大きめのカップに一生懸命ハーブティーを注ぐリリィの姿を見ると
とてもそんな風には思えなくなり、むしろ感謝の気持ちでいっぱいになってしまうのだった。
「今日も一日終りました。明日も頑張らなくてはいけませんね。」
飲み終えたティーカップをテーブルの上に置き、
回転した砂時計を眺めながら手は忙しく机の上を整理している。
過去の出来事やら、勇者のステータスが書かれた書類を本棚に並べ替えていると、
「そう言えばアイラ様、明後日はバレンタインデーらしいですよ。」
「ばれんたいんでー?」
クッキーをつまみながらリリィは続ける
「はい。あっ、アイラ様はご存知では無いのですか? 明後日の2月14日には
女性から好んでいる男性にチョコや欲しがっている物を送る風習があるんですよ。
私も詳しく知らないのですが・・ 今からシェリーとフロリンダが作ってます。
何でもフェイン様とルディ様に渡すらしくて。」
「そうなんですかー・・・」
思い出してみれば、友達が今ぐらいの時期に
男天使に何かを渡していたのを覚えている。
顔を真っ赤にしながら渡していたので何事かとは思ったものだ。
ラキア宮の窓から下界を眺め、視線は雲の遥か下
「好んでいる男性に・・・か、 ・・・・・・・・・・」
アイラの脳裏に浮かんだのはただ一人。
黒髪、アメシストの・・・
「・・・どうした?」
アイラは気が付くとスラティナ、クライヴの所を訪問していた。
既に日は暮れ、辺りは暗闇に覆われている。
「えっ? あ、あの・・・」
正直、何故自分の目の前にクライヴがいるのか理解できなかった。
あれから無意識の内に来てしまったのだろうか。
判らない・・・・
「あの、まだ・・・続けるのですか??」
修行しているクライヴに掛ける言葉が思いつかず、つい変な事を聞いてしまう。
こんな事を言いたいのではないのだと、片隅で知っているハズなのに・・・
「・・・あぁ、まだ始めたばかりだ。続けなければ意味がない・・・」
「そ、そうですか・・・・」
クライヴはそんなアイラをよそに、坦々と答える。
変っているのはいつもの事だとでも思っているのだろう
「・・・・・・・・・・・・・・」
しばらくの沈黙が二人を包む。
(ど、どうしましょう・・・)
話したい事があって来た訳ではないので、頭の中は混乱していた。
クライヴは出方を見ているらしく、アイラの顔を見つめるばかり
(う゛〜ん・・・ あっ! そうでした!)
調度その沈黙に耐え切れなくなったアイラの脳裏に、先程までリリィと話していた事
が浮かび上がる。
「あの、クライヴは今何か欲しい物とかありますか?」
「・・・欲しい物?」
アイラの問い掛けに少し考え込んでいるように見えた。
が、顔は常に無表情を装っている。
ふと、何かを思い出したかのように、
「・・・レイブンルフトの首・・・とかな。」
「く、首・・・ですか・・・」
思いも寄らない言葉が返って来て、アイラも顔に手を当て考え込む。
(レイブンルフトの首をクライブは欲しいんですか・・・やっぱりクライヴは自分の宿敵を
倒したい訳ですけども・・・ 果たして私が討ち取っても良いのでしょう?
そう言うのはクライヴ自身がやりたいでしょうし・・・云々)
何故かレイブンルフトを殺る気満々のアイラ。
(しかし、私はこの世界では力を使えないので他の勇者さんに手伝って貰いましょうか)
次の瞬間、密かに恐ろしい事を考えている天使に向かって呼ぶ声が、
上空からパタパタという音と共に聞えてきた。
「天使様ぁ、APがなくなっちゃいましたぁ。天界に戻らないとダメですぅ!」
上空を見上げると、ペンギンの着ぐるみを着たフロリンダ。
「えっ!? 私昨日から休んで・・・ あっ!」
自分では休息を選択したのにもかかわらず、一日中報告書を作っていた事をアイラは
忘れていた。
ゲージを見てみると、確かに0に近い所まで減っている。
「ほらほら、天使さまぁ!早く行かないとぉ!」
小さな体なのに、ぐいぐいとアイラを天界の方へと引っ張って行く。
一体何処にそんな力があるのやら・・・
「あっ、すみませんクライヴ! また来ますね!」
そう言うと、アイラはフロリンダに引っ張られながら天界の方へと戻って行った。
数枚の羽を周囲に舞わせて・・・
「・・・・・・天使とは忙しいものだな。」
一言ポツリと呟き、穏やかになった空間を確かめてから、
クライヴは中断していた修行を再開した。
「APが少なくなっていた事をすっかり忘れていましたぁ〜・・・」
あれから無理やりフロリンダにラキア宮に連れて行かれて、
今は自分のベッドに横になっている。
「もう、アイラ様。私の声が聞えていましたか?
いきなり下界の方に行かれてしまうんですもの。びっくりしましたよ。」
「す、すみません・・・」
バツが悪そうに布団で顔を隠そうとするが、フロリンダが慣れないチョコ作りで
疲れてアイラの上で眠っているので、
布団を上に引っ張れずに瞳だけが姿を見せる形となった。
「一体どうなさったのです?」
リリィは少々心配そうにアイラの顔を覗く。
「え、あの・・・クライヴの所へ行ってきたんです。」
「クライヴ様の所へ?」
「はい。明日はバレンタインらしいですから何が欲しいのか聞きたくて・・・・」
主君の顔を見てみると頬が微かに赤らんで見える。
(あぁ、アイラ様は・・・)
アイラが何故そんな行動を取ったのかを全て理解したようにリリィは頷いた。
(そうですよね。天使様だって女性ですからね)
「それで、クライヴ様は何とおっしゃったのですか?」
興味がありそうにリリィがアイラに向かって聞くと、少し深刻そうにアイラは
「レイブンルフトの首が欲しいそうです・・・・」
「く、首・・・・ですか???」
クライヴとの同行を繰り返しているリリィにとって、彼の気持ちを判らない事もない
・・
しかし、流石に自分の主君にそんな事をさせたがる訳が無いのである。
「あのぉ〜・・・アイラ様?? そういう事はクライヴ様に任せて、
どうせなら一番無難なチョコを作る事にしませんか???」
「チョコ・・・ですか?」
そう促されたアイラの表情に少し残念そうな顔色も表れたが、
そちらの方が自分に合っているような気がしたので賛成した。
「でも私・・・チョコ作りなんてした事ありませんよ?」
「大丈夫ですよアイラ様。私もお手伝い致します。
でも、慣れないと疲れますので今のうちに休んでおいて下さいね」
まるでリリィは子供を寝かしつけるかのようにアイラの側に居、
寝息が聞える頃にはチョコを作るべく材料を準備しに下界へと降りて行った。
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